15話 匠と亡霊 5/13 しんさつけん
【今回の三文あらすじ】
「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。
ダン長はゴースト成仏のためのアスレチック製作を予定した三部屋の下見を済ませながら、移動している一行からマギリアの守護モンスター就任の経緯を聞いていた。一番手前の吊り橋の間には、中央を横切って大きな口を開ける空洞が広がっていた。
「さて、この大穴をどうやって改装するかな……」
目の前の大穴をどうしたものかと検討するダン長と、それをウキウキで眺めるダンジョン工達。
「ほほう、ところであすれちっくの設計をしたところで、どうやって村の子ども達にそれを募集するんだ?」
「あっ……そうだな! 大会を開くとなれば、その広報とか、優勝者への景品とかの用意も必要になるな」
(それもそうだ! 俺の元いた世界じゃ『セッションしたい!』とネットでひとこと募集すればわらわら集まるからうっかりしてたが、この世界だと人を集めるにも手間がかかるんだろうな……)
マギリアの指摘にダン長は設計にばかり気をとられて肝心のどうやってダンジョン外のミルス村へ大会を知らせるかの配慮が抜け落ちていたことに気づかされた。しかも大会となればふさわしい景品も用意しなければならない。
「俺達とダンジョン工の皆だけではそっちには手が回らないな。キルトやキャンディ達を呼んでそっちを担当してもらうか」
ダン長は念じて守護モンスター達を呼び寄せる。呼び声に応えてトレンチコートの透明人間・キルトとサキュバス達を代表して筋骨隆々のオネェサキュバスのキャンディが現れた。
「キルト、キャンディ! かくかくしかじか……」
ダン長は呼び出した2体の守護モンスターに事の顛末を伝えた。先にリアクションを返したのはキルトだった。
「やれやれ……リンを冒険者見習いにしたと思えば節操も無く……仕方ない、我輩も手を貸そう」
「意外だな、猛反対を受けると思ったが」
事情を聞いてキルトは呆れてはいるが、フリッカを倒さず浄化するには他に方法も思い浮かばないのか手伝いを了承する。彼自身も彼女(?)の成り立ちに思うところがあるのだろうか、ここで無理くり倒してしまおうという発想には至らないようだ。
「子どもを招くこと自体に前例がないわけでもない。毎年『少年少女にダンジョンや冒険者に興味を持ってもらおう』という名目で、我輩達が冒険者達と新鮮な魔物の肉を焼いて子ども達に振舞う宴会も開いているしな。こちらはダンジョンの入り口で開いていたからダン長が知らんのも無理もないが」
どうやら未来を担う次世代を冒険者の仕事に触れさせる体験学習みたいなことはしていたらしく、ダン長が思っていた以上にダンジョンは村に開かれているようだ。
「ああ、例年スケさんが包帯や服が焼けるからって全裸で肉焼くもんだから、いつもガキどもビビらせちまうんだ!」
「やめんか」
(助さん……?)
マギリアの時と同じように思い出話に花を咲かせようとするウデップシを制するキルト。彼は村人からは透明人間であることと介助をかけてスケさんと呼ばれている。ダン長は異世界に限らずこの世代のおじさん達は悪気無く他人の逸話を共有せずにはいられないのだろうかと不思議に思う。
「あらやだ! 面白そうなことやるじゃない? それで、お知らせのことなら妹達に頼んでみたら? 3人ともお仕事をいつも通りやりながら空いた時間にポスター描くくらいはできるから!」
「そうだな! どちらにせよアクア達にも話を通す約束だったから、ついでにお願いしてみるか」
冷静に賛同するキルトに対してキャンディは興味津々に計画に乗ってきて、さらに妹達の助力も提案してくれる。同意したダン長は地図にある安全地帯のひとつ、サキュバス達の経営する酒場・戦士の羽休め亭に顔を生やす。アクアとイグニス、末っ子のウェンティは昼からの営業に備えて店の掃除をしていた。ダン長はフリッカの事情とアスレチック大会のチラシ作りの依頼を彼女たちに相談してみる。
「楽しみね!」
「構わないけど」
「いいよー、絵を描くの好きー」
と、妹達の反応は上々だった。このまま安心して任せてもいいと思ったダン長は、顔をひっこめて吊り橋の間に集中する。
「さて、広報の件はクリアしたと考えていいか。あとは景品の目途が立てば後方の憂いも無く設計に取り掛かれるわけだ」
ダン長はアスレチック大会の景品のことを思案する。フリッカと同じくらいの子どもを集めるとなると、ふさわしい景品となると菓子類や特別な武器や道具、魔物の素材となる。だが物で釣るにしても、菓子も好き嫌いがあるし武器も魔物の素材も縁の無い子はとことん使わない持ち腐れになる。
「何を選ぶにしても、貰ってうれしいかは好き嫌いがわかれるからな……現金は万能だけど気まずいんだよなこういうの。なぁマギリア? 殆どの子どもが喜んで、持たせて安心な景品って無いか?」
「景品の候補か? 手元にあるもので言えば、診察券なんてのはどうだ?」
「しん……さつけん?」
(神……殺……剣? 神殺し!? 子どもに持たせて安心できるはどこにいった!?)
困惑するダン長を他所に、提案者のマギリアは懐の財布から1枚のカードを取り出した。プラスチックで長方形の、現代人なら財布にいくらでも入っているやつだ。手書き部分の字がところどころ掠れてはいるが、
「ばーん、診察券!」
【診察券 尾仁楢内科 ヤードポンド・ホロビーロ様 休診日 木曜・日曜 診療時間 AM9:00~13:00 PM16:00~19:00】
「おにならないか……これ、ガチで病院の診察券か? 名義がマギリアのものでもないし」
「あー、これは過去にこっちに来たマレビトが売ったやつだ。高く売れるぞ?」
魔王軍との戦争中、欠かせない戦力だったマレビトには転移して来た国によって相場が異なるが、当然のことながら支度金の用意や衣食住の保証がされていた。加えてマレビトの持ち込んだ財布に入ったお金との両替を行っている両替商もあったが、さらに永住を望むマレビトに対しては、クレジットカードや運転免許などの不要になったカード類を有償で引き取る制度があった。これはマレビトの生活支援のためだけでもなく、里心を絶たせて故郷への執着を減らそうという国側の思惑があった。希少品には価値が生まれるのはこの世界でも共通なようで、富裕層の蒐集家たちはマレビトの持ち込んだカード類を買い集めている。
自発的な召喚が行われなくなってマレビトの流入が格段に減った現在でもカード類の取引は続いていて、材質は紙よりプラスチックの方が価値が高い。あろうことか、免許証や保険証などに攻撃力や体力などステータスを設定してトレーディングカードゲームに発展している国もあるらしい。
「一番高いのは運転免許証だな、成人のマレビトから1つしかとれないからな。戦時中から無知を利用した免許証狩りのヤクザが横行するくらいだ」
「魚の内臓みたいに言うな!」
「いやぁすまない、だがこの診察券1枚を両替商にでも持ち込めば、小さい店の菓子なら買占めができるくらいの金にはなるぞ。商品券だと思えば景品としては妥当じゃないか?」
(カード1枚にそれだけの価値が……まぁ俺たちの世界にも絵と文字が印刷されたカードが数万円で売り買いされたり、世界に4枚しかないカードを手に入れる為にコレクターを自殺に追いやる高校生もいるしな)
異世界人の謎の経済事情に、自分が生きていた現代との共通点を見出して納得するダン長。希少価値に対する金持ちの異常な熱意というのは全世界の常識だった。
(しかしマギリア、そんなバカ高いもんをフリッカの成仏のために景品でポンと出すなんて……本当は余程あの子のこと、とか言うとまた拗ねるから黙っておこう)
「ダン長、魔女様! ところでこの部屋、橋をかけ直すんですかな?」
広報と景品の手配の問題が一通り解決したところで、穴のふちに立って検分をしていたイワシの提案で気持ちがダンジョン設計に戻される。その質問の返答に、ダン長は最初の設計内容を高らかに宣言する。
「いーや、細い橋なんて現代にも腐るほどある。作るのはダンジョンギミックの基本の基本、動く床だ! この空洞の上で小さな床を回す!」
【匠と亡霊 5/13 しんさつけん】
アスレチック大会を開くと決めたダン長は残りの守護モンスターへ呼びかけ、施工補助をキルトとキャンディ、広報をサキュバスの三人に分担する。彼は続いてマギリアに参加者を釣る為の相応しい景品を尋ねると、この世界では召喚された人間が持つカード類が貴重品扱いされていることから診察券を用意した。工事前の地固めが終わったところで中央に大穴のある旧吊り橋の間は、宙を動く移動床を渡って移動するギミックに改装することになった。




