■孝編 その12
20xx年7月23日 日本・東京 22:15
梢の家へと迷いなく進んでいる時に、突然ケータイが着信を知らせた。
自転車を急停車して、ポケットからケータイを取り出し、急いでディスプレイを覗くとそこにはメール着信を知らせるアナウンスが。
高鳴る鼓動、確かな予感、おぼつかない操作。
こういう時に限って起こるミスタッチにイライラしながらも、受信メールに目を通すとやはり梢からだった。
ケータイではなくパソコンからの送信らしい。
やはりケータイは壊れたのか?
でもなんで、いままで連絡をよこさなかったのか?
メールの文面には簡潔な返事が認められていた。
そこには生きていること、自宅で待っていること、知りたいことのひとつとしてあった今まで返信を出来なかった理由が書かれていた。
「早く会いたいし声も聞きたかったけど我慢していた。返事を出すとあなたは無理をしてでも急いで帰ってこようとするだろうから。声を聞きたい以上に必ず会いたい。そんな気持ちが勝ったからこそあなたを危険な目に合わせるわけにはいかないと思って、東京に到着するまで返事をしなかった」
『そうか』
「声を聞きたいけど、ケータイが壊れている。送ってもらったメールに記載されていたあなたの番号にかけたいけれど、東京の外は危険な状態なので誰かの電話を手に入れるのは難しい」
そういうことだったのかと、梢の聡明さ、気配りに痛く関心した。
「だから、早くきて。でも無理はしないで」
と結んでいた。
梢も辛かったのだ。
そして会いたかったのだ。
こうなってはもう矢も盾もたまらない。
「今すぐる行く」
ミスタッチをしてしまったが直す時間すら惜しい。
意味が伝わば、もう近くにいることさえ伝われば今はそれでいいのだ。
送信ボタンを押してケータイをポケットにねじ込むと、体の疲れを気力で補い、今まで以上のスピードを出して目的地へと急行した。
◆■◆
「はあはあ……」
風景が見慣れた場所になるほど、孝の自転車をこぐスピードは増した。
もう体力は限界を超えているが、しかし急がずにはおれなかった。
『あと少し!』
以前梢と一緒に歩いたアパートまでの道のりに差さしかかる。
『そこの角を曲がるとアパートへ一直性のはず』
カーブを曲がると……
「見えた! 梢のアパートだ!」
あと100メートル!
「着いた……」
肩で息をしながら、アパートを見上げる孝。
そして、自転車を乗り捨てて走りだす。
「カンカンカン……」
鉄製の安っぽい階段を全力で駆けあがる。
階段を登りきって廊下の奥へ。
見ると梢の部屋はドアが閉まっていた。
心臓の鼓動が高鳴る。
「……」
ドアノブに手をかけた。
それまでのいろんな出来事を脳裏に去来した。
万感胸に迫る。
『ついに着いたのだ』
生きて到達できたのがウソのようだ。
しかし、それは紛れも無い真実。
無上の喜びと開放感を噛み締めつつ孝はドアを開けた。
が、その刹那、
「ガン!」
ドアの向こうに潜んでいた何者かにいきなり殴りつけられた。
続いて全力でタックルを食らい、廊下の鉄柵にしたたか体を打ち付けた。
鉄柵はギシッと、今にも決壊しそうな悲鳴を上げた。
最後の最後で詰めを誤ったのを孝は後悔した。
そう、梢からの連絡で有頂天になって気が回らなかったが、不測の事態もありえるということを。
家についたことの達成感と梢の存在ばかりに気を取られ、最後の最後で気を許してしまった浅はかさを呪った。
「くっ、梢!」
悔しさを口に出す孝。
そのとき、暴漢から意外なひとことが飛び出た。
「会いたかったぜ孝」
「!」
一瞬孝は驚いた。
『なぜ、俺のことを知っている?』
しかし、その答えは相手の姿を見てすぐにわかった。
「おまえ……」




