■孝編 その8
20XX年7月23日 日本・東京 18:19
孝は自転車を全速力でこいでいた。
『東京だ! やっと東京に着いたぞ!』
出発から8日、ついに東京に無事着くことができたのだ。
肩で息をしながら全身の疲れも顧みず、一心不乱に自転車をこぐ。
現在地は西東京の某市。
孝の計画ではまず念のため東京のほぼ中心にある会社に寄り、そのあとに東京の東側にある梢の家を目指すことを考えた。
梢の家に一直線に向かいたいところだが、もしかしたら会社の社員なりが集まっていることも考えられないではない。
それにもしそこに梢がいなかったとしても、会社の誰かに会えば何らかの手がかりをつかめるかもしれないと考えたからであり、もしかしたら学やその他同僚達がいるかもしれないと思ったからにほかならない。
そうなれば今後のことも含めて何かと心強い。
『ここから会社までどれくらいかかるだろう?』
さすがに自転車でとなると見当もつかないが、それこそ休む間も惜しんでひたすらに会社を目指した。
しかし久々に訪れた東京は凄惨を極めていた。
あちこちに死体が倒れており、車や建物は破壊の限りを尽くされていた。
激しい腐臭が鼻を刺激する。
さながらゾンビ映画の中にでも紛れ込んだような錯覚を覚えるほどに。
孝は、パニックが起きて大阪を出てからというもの、あまり大きな町を通ることは避けてきた。
理由は人が多ければそのぶん危険も増すだろうと考えたからだ。
言うまでもなく、人が多くなるほど危険分子の分母も増える。
少しでも危ない目に会う確率を減らすためにも、多少遠回りになれども孝は都会を迂回するルートを選んだのだ。
死んでしまっては元も子もない。
それだけに、この東京のあり様にはゾッとしたのだった。
が、いまはそんなことにひるんでいる場合でもない。
また、それだけに梢の身にも危険が迫っているということでもあるのだから、一刻も早く会って安心させてあげたい気持ちもあった。
『待っていろよ! 梢!』
梢のことを考えると、いっそうペダルにいれる力が強くこもった。




