■ある女編 その3
そして月日は流れた。
町では時おり奇怪な事件が発生した。
学校で飼っていた鶏の惨殺に始まり、鳩や猫の変死が相次いだ。
犯人はもちろん、女である。
このとき女は中学2年生。
幼少時からの血なまぐさい癖は直ることなく、それどころかエスカレートする一途。
手口も世間的にいう、残虐さをいっそう増していった。
しかし、当の本人としては残酷さなど微塵も覚えることなく、自身の欲求赴くままに殺しているだけなのだが。
皮をはぎ、内臓を取り出し、血を飲み、肉を食らう。
原始の昔では当たり前のように行われていたことが、現在ではタブーであることの不自由さ。
『生まれる時代を間違えたな』
女はしばしば思うのだった。
しかし、そんな世間的に言う事件を小さな町であるこの地域では、見逃されるはずもなかった。
「謎の惨殺事件相次ぐ!」
新聞やテレビでは、大きな見出しとして報道されたのだ。
しかし、女はバカではない。
世間がその事件をスクープし始めたのを機に、隠蔽も余念なく行うようにしたのだ。
もちろんストレスにはなったが、しばらくの間は殺しを我慢することにもした。
すると、それまで世間をにぎわしていた動物の残虐事件の報道はプツリと止まった。
その一見から女は知った。
隠蔽までも含めて殺しの楽しさであるということを。
それを知ってから女は、殺しに対してさらならる醍醐味を味わうこととなった。
獲物を狙う、追う、捕まえる、殺す、食らう、そしてばれないように処分する。
特に女は肉体へダメージを与えたときに多彩な変化を見せる表情に深い興味を持った。
その瞬間、獲物たちははじめて生を実感する。
泣き、叫び、もがく。
生への執着が見せる断末魔のその時、魂は最大限の燃焼をする。
命という灯火が、スパークする瞬間だ。
しかし、女も次第に小動物の殺戮には飽きを感じ始めていた。
それはたぶん、大きな動物でも変わりはないだろう。
理由は明白だ。
それらとは、コミュニケーションを取ることができない。
この一言に尽きる、と女は考えていた。
言葉が通じれば、感情を読むことができれば、殺しの楽しさはより一段とすばらしいものになるはず。
女はそう信じて疑わなかくなった。
女がはじめて人間を殺したのは、その後間もないことだった。
獲物はかつての幼馴染。
そう、隣の家に住んでいた知能の低い男の子だ。
最近女は男の子とは疎遠になっていた。
小学生の低学年までは一緒に遊んでいた。
中高学年ともなると勉強が忙しくなり、同性の友達も出来てきた。
もちろん、殺しの素顔は見せない。
仮面をつけたままだ。
中学生にもなると自我が芽生え異性も意識する年頃となり、女も殺しが一番とはいえそれ以外の楽しみを持つようにもなっていたからだ。
その間男の子だけは、ただ取り残されていた。
祖父母の強い意向で特殊学級には入らず、普通のクラスで授業を受けていた。
「家の子のどこがおかしいのだ!」
が祖父母の言い分で、断じて知能が遅れているわけではないと無理矢理に自分たちや周りにも納得するよう仕向けていたのだ。
しかし、それがよくなかった。
いうまでもなく、いじめられた。
年を重ねるごとに酷さは増していき、いつも殴られたりお金をたかられたりしていた。
しかし、一番の悲劇は、そんなことをイジメと受け取れない男の子自身だろう。
「遊んでくれている」
男の子は、勝手にそう思っていたのだった。
ある日、女が川原を通ったときのことである。
そこには男の子が裸にされて呆然としている姿があった。
久しぶりに見た男の子は、相変わらずバカではあったが、その体つきは男のそれになりつつあった。
『また、いじめられたんだな』
女は思った。
「どうしたの?」
近づいて話しかけると、男の子は笑顔を見せた。
「うん、遊んでもらっていたんだ」
全裸のまま、恥じ入ることもなく女の子に返事をした。
「ねぇ、僕って死んだほうがいいのかな?」
突然男の子が言い出した。
「どうして?」
「みんなが言うんだ。死ねって。なんでだろうね?」
男の子は、おかれている現状を理解できていない。
「……風邪ひくといけないから帰ろう」
そういって自分の上着を男の子に着せると、一緒に帰路へついた。
その日の晩隣の男の子の家からは、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
『なんだろう?』
女は気になって外に出て、そっと男の子の家の庭に忍び込んで話し声に耳をそばだてた。
「死ね! 死んで償え!」
「うるさい! もう出て行きます!」
罵り合いは続く。
男の子の祖父母と母親との口げんかのようだ。
「こんな子はいらない! お前がどうにかしろ!」
物を投げる音、ガラスが割れる音、破壊音と怒号が響き渡る。
そのやりとりを聞いているうちに、女はかつて男の子の家でかくれんぼをしていたときに聞いた話を思い出した。
「あの子がいなければ、あの子が生まれてこなければ、どんなに幸せだったことか!」
そして先程の少年の独白。
「ねぇ、僕って死んだほうがいいのかな?」
このとき、女はある決意をした。




