■新興宗教編 その4
20XX年XX月XX日 日本・某所 16:11
さらに時は経った。そして教団はさらなる発展を遂げた。
と、同時にCの欲望もさらなるものへとなった。
行動もいっそう大胆となり、もはや人を人と思わなくなるほどだった。
その行動のいやしさ、我欲の強さはかつての教祖以上といって言いかもしれない。
Cは完全に俗物になり下がった。
しかし、Cはときどき思うことがある。
『かつての教祖もこんな気持ちだったのだろうか?』
と。
肥大する欲望、満たされているはずの欲求。
にもかかわらずなにか虚しい。
しかし、それはそうだ。
Cの、というよりこの教団のやっていることはすべてでたらめ、インチキの類なのだから。
Cが信者の心をつかむために考え出した教祖の空中浮遊も、所詮はピアノ線で編んだハンモックの上に座り、一部の決して裏切らないであろう信心深い幹部らの手によって、引き上げられているだけのものだし、Cが作り上げた愛と未来を説く教義も今やまったく訴求するものなどなく、大体にしてこの教団を作ったのはC自身なだけにそのカラクリすなわち無内容であることをわかっているのだから、それで満たされるほうがおかしいとも言えるだろう。
宗教とはなにか?
みんなは何を求めてここにいるのか?
もしかしたら信者を騙しているつもりが、実は逆に教団を信じるふりをしているだけのおこぼれに授かりたい信者どもに欺かれているのではなかろうか?
『オレは一体なんでここにいるんだ?』
入信したのはそれほど昔でもないはずなのに、その動機を思い出すことができない。
『そして何を目指すのか?』
多くの信者を導くはずのC自身がその行先を見失っている。
が、しかし今のCにはかつてのようにそこから探究する気持ちなど微塵もない。
堕落してしまったのだ。
探求した結果として。
そして現時点における教団の実態はというと、友愛もクソもないどころか逆に略奪をする強盗集団。
本音がむき出しとなった今の世の中には、宗教の持つ本来の意味など崩壊してしまったのかもしれない。
ましてやみんな同じ顔になってしまった現在、宗教には欠かせないであろう教祖のカリスマ性はどこにいったのだ?
みんはいったい、何を崇めているというのだろう?
そんなことも考える半面、まったく真逆となる教団のさらならる拡大という欲望にもとり付かれている。
『俺の本音は、いったいどこにあるのだ?』
時々思い出したように自問する。
日が経つにつれそんなますます大きくなる矛盾を抱えながら、ときに頭を悩めることもあるのだったが、それでも所詮は脳内どまり。
実行に移すということはない。
それがほんのわずかながらに残された良心の呵責なのか、単なる気まぐれなのかはC自身にもわからない。
『……』
そんなことを考えていたとき、突然施設内に非常事態を告げるベルが鳴り響いた。
驚くC。
「なにごとだ!」
そこにDが一人部屋に飛び込んできた。
「D! 一体何が起きたんだ!」
「はっ! 緊急事態にございます」
「何事だ! 何が起きたんだ!?」
「それはこれから教祖様の身に起ころうとしていることでございます」
「?」
一瞬あっけにとられたC。
その瞬間を逃さず、DはCをナイフで突き刺した。
『冷たい』
金属の持つ質感がそう思わせたのか、傷口は血があふれて熱く燃えるような血が噴出しているのに、Cは凍てつくものを感じた。
「死ね! 俗物が!」
ナイフをぐりぐりとねじ込みながらD。
床に倒れこみ、もだえながらにCは気がついた。
今の時代、代わりなどいくらでもいるのは自分も同じであるということを。
かつて自分が教祖にしたことと同じように。
Cを見降ろしながらDは言う。
「これからは、俺がお前に成り代わる。そして立派な教団を作り上げて見せる」
そういうとDはCの顔に唾を吐きかけた。
「くくっ、お前の代わりなど……」
皮肉などではなく、純粋に思った。
刺され、間もなく絶命しようとしているいま、不思議と肩の荷が下りたような気がした。
そして、少しだけ悟ったような気にもなった。
人にとって宗教など、不要だということを。
信者が崇めているのは教義でも教祖でもなく、自分自身なのだ。
崇めている自分に酔っている。
パニック以前には分からなかった真実が、みな同じ顔になったことで気がつかせてくれた。
同じ顔、同じ表情をした信者の群れ。
彼らは一体、何を求め、どこに行くのだろう?
そして、薄れていく意識の中、Cの脳裡には浮かんだ。
かつて本気で布教に勤しんだ若かりし頃のまっすぐな自分の姿を……。
「あなたは神を信じますか?」
今ならその答えを出すことができるような気がした。




