■新興宗教編 その2
Cは昔のCにあらず。
教団という狭い社会、神と崇拝していた教祖に対しての幻滅、それによりナンバー2では甘んじていられないという欲求が、かつての勤勉で実直だったCの人間性を大きく変えてしまったのだ。
目指すもの、競うものがなくなると人は堕ちる。
教祖は神、自分はそれに次ぐ存在ではあるものの、信者から見れば只の人間。
この差は埋められないほどに大きい。
そして、それには決して成ることはできないのだ。
そう、永遠に。
教祖が存命である限りは。
停滞した状況は人間をとことんまでダメにする。
この変えがたい事実が長く続いたことにより、Cは堕落の一途をたどったのだ。
いまのCに、かつてのCの面影を見ることはもうできない。
『さて』
背格好が似ていて、このパニックで顔だけではなく声まで変わったこともあり、教祖になりすます自信はあった。
さっそく教祖を裸に剥き、血に染まった法衣をゴミ箱に捨てて新しい法衣をクローゼットから取り出し、自らの身にまとった。
鏡に映る自分の姿を見たとき、なんともいえぬ高揚感に包まれた。
『悪くはないな』
それどころか、この法衣は自分が着るにふさわしい。
一人、悦にいるC。
しかし、そのとき扉をノックする音がそんなCの夢心地から現実の世界へと強引に戻した。
一瞬にして心臓が跳ね上がるC。
『なんだってこんなタイミングに……いや、これは俺に課された最初の試練だ。うまく乗り切れなければそれまでというもの』
ひと呼吸おいてから、教祖になりすまして返事をするC。
「入りなさい」
すると、間もなく部下が入ってきた。
服装からするとナンバー3のDだろう。
Cの心臓はいまだ早鐘を打っている。
なんといっても足元にかつての教祖の死体が転がっているのだから、うまくごまかさねばならない。
とうぜん教祖の死体を見とめ、驚くD。
「教祖様! その死体はいったい!?」
『落ち着け! 落ち着け!』
自らを鼓舞するC。
「これはCの死体だ。このパニックに乗じてわしを殺めんとした謀反者だ。だから、返り討ちにしてやったのだ」
「そ、そうでございますか。ところで、このパニックに一同気が動転しております。教祖様直々に皆の前に出ていただけませぬか?」
死体の件をうまくごまかせたことで、いくぶん気が楽になったC。
『どうやらうまくごまかせたようだ。俺と同じ側近のDですら気がつかなかったのだから、たぶん大丈夫だろう』
そう思うと、自信をもって返事ができた。
「わかった、今すぐ行く。死体の処理は別のものに頼むから、君は先にホールに行っていなさい」
教祖の背中の刺青も顔の変化とともに綺麗になくなっていた。
それにしてもこの事態は一体なにごとなのだろう?
しかしじっくり検分したわけでもないので、どこに綻びが潜んでいるとも限らない。
そのため教祖の身近にいたDに死体の処理は任せられなかったのだ。
「は、かしこまりました」
Dは疑うことなく部屋を出て、皆が集まっている教団ホールへ向かった。
一息ついた後Cはホールに赴いた。
場につくと上座中央に添えられてある豪奢な椅子に腰をかける。
『これはけっこうな眺めだな』
まず一番にそう思った。




