■新興宗教編 その2~過去~
20XX年 日本・某所
・あなたの健康状態は良好ですか?…○
・ご両親・ご兄弟を愛していますか?…○
・勉強・スポーツは好きですか?…○
『こんなものでいったい何がわかるというんだ?』
Cはあくびをかみ殺しながら、パソコンに次々と表示されていく質問に答えていった。
そこに本当の自分など投影していない。
都合のよいものは「○」、悪そうなものには「×」を機械的につけているだけのこと。
たぶん、誰でも同じようにしているだろう。
実につまらない。
にもかかわらず、この質問だけは答えに迷った。
・あなたは神を信じますか?
◆■◆
20XX年春、某大学医学部、合格。
一浪、二浪は当たり前と言われている国内最難関の誉れが高い某大学医学部に、Cはストレートで合格した。
『当たり前のことだ』
Cは思ったし、両親や兄姉もまた驚きもしなかった。
家族は全員同じ大学の同じ学部に在籍、もしくは卒業しているというエリート一家。
兄も姉もCに先んじて順調にコマを進めているところだ。
父は医者、母は大学の研究者という家庭に生まれ育ったCにとって、勉強は日常的なものであり、できて当たり前のことでもあった。
都内でも有数の付属幼稚園からそのまま小学校、中学校、そして高校へ。
順風満帆、エリートへ向かうレールの上を順調に、滑るように進んできた。
学校の校門には、受験者の合否を知らせる看板が立てられていた。
合格か不合格かは、ここに来なければわからない。
このアナクロな風習はどうにかならないものか? とCは思ったが、いざ校門に行ってその風景を目の当たりにすることで、わざわざ時代がかったことをする真意がわかった。
勝者と敗者、泣く者笑う者、受験に失敗したらしい若者をよそに胴上げで浮かれている若者もいる。
これは、社会とあまり接点のない学生たちに対してのイニシエーションなのだということをCは理解した。
勝つ者がいれば負ける者もいる。
実に当たり前のことなのだが、それを実感することで襟をただし、気を引き締めさせるための儀式なのだ、と。
二極化した混沌の中、Cはいたって冷静にその事実を受け止めた。
人生はどんなつまらないことにも勝敗はある。
日常、見逃しがちなことにでもそれは存在するが、こと受験などの大事になると人は勝利に酔いしれやすい。
『流されやしないさ。こんなことくらいで』
家族連れが多い中、Cは一人で合格者に送られる通知を受け取って、学校を後にした。
◆■◆
「ただいま」
「おかえりなさい。どうだった?」
パタパタとスリッパの音を立てながら近づいてきた母親が尋ねた。
その表情は、普段Cが帰宅したときに迎え出るときとほとんど変わりがない。
「ああ、受かったよ」
「そう、やっぱりね」
少しも心配そうな表情は見せない。
Cとてそっけない。
それはわかっていたことだから。
だから、別段急いで電話で知らせることもないだろうと思ったこともあり、Cは家についてから直接合格したことを告げたのだ。
多くの学生が両親とともに不安そうに来ていた中、Cの家族がついてこなかったのは
「受かって当然」
という考えがあってのことだからだ。
合格発表の日とて、いつもの日常と変わりのない一コマ。
だから両親や兄姉もこの日を特別視することなく、淡々としている。
晩飯時、家族が食卓に集う。
そして、いつもどおりのディナー。
「わかっていると思うが、受験に受かったからといって気を抜くなよ」
「うん」
父親は受験に受かったことを褒めることなく、すでに次なるステップへ向けての言葉を息子に贈った。
いつも、そうだった。
学校のテストや受験、これまで節目節目での大事においても父はけっして褒めることはなく、常に先を見据えた発言をしてきた。
父の発言の真意はわかる。
何事にも先んじて行動を起こさなければ、気がつけば置いていかれてしまう。
Cたちエリートは常に第一線を走り続けることを義務付けられているからだ。
立ち止まることはもちろん、息切れすら許されない。
だが、Cはそのたびに思うことがあった。
『それなら、いったい、ゴールはどこなんだ?』
と。
勉強はずば抜けてできた。
絵もうまければ、運動も得意。
生徒会長は小学校のころから高校まで、ダントツの投票数で当選していた。
そしてこれも優秀な人間なら当然のことだが、オナニーやセックスなどの性への関心、目覚めも早かった。
優秀な人間は女がほうってはおかない。
それだけに、Cはそれらもいち早く覚えた。
そして、どんなことにでも取り組むその姿が、異様なほど様になっていた。
世間的に見ればかなりの優等生、それがCへの評価だ。
しかし、目標を持ったことは、ない。
勉強をすることは当たり前だったし、受験に受かることもいわば義務。
目指す大学にも受かったことだし、さて卒業後は?
となると、Cは皆目自分の姿が想像できなかった。
父親の後を追って医者か、母親のように大学に残って研究するのか……。
研究者、作家、哲学者、政治家……なんにでもなれるような気がした。
若者特有の妄想ではないことは、Cの優秀さが証明している。
自室のベッドに寝転がりながら、あるはずのないシミがないかと天井に目をやりながらCはぼんやりと思った。
きれいに整頓され、チリひとつない部屋。
防塵処理された衣類や家具類。
『ここは温室だな』
布団を力強く手ではたいたが、当然ほこりも立たない。
『でも、悪くはない』




