■新興宗教編 その1
20XX年7月15日 日本・某所 9:04
「はあはあ……」
Cは肩で息をしていた。
片手には血に濡れたナイフを持ちながら。
『やってしまった。ついに……』
人を殺しておきながら、その表情は罪悪感どころか嬉しげですらある。
Cの足元には紫色の法衣を着た男が死体となって転がっている。
むろん、殺したのはCだ。
Cは新興宗教の幹部として長年に渡って教祖に仕え、ナンバー2として教団を盛り上げ支えてきた張本人だ。
が、いまその信じていたはずの教祖を自らの手で殺めたのだった。
かつて、その某宗教団体に入信してしばらくの間は誰よりも信心深く、また教祖を崇拝していた。
そんな信心深さと頭のよさ、立ち回りのうまさが功を奏して組織内での地位も上がり、ついには教祖に次ぐポジションを手に入れたのだ。
しかし、それとは逆に教祖と共にする時間が長くなるにつれて信心は薄れ、それどころか教祖に対する不信感、嫌悪感は高まっていった。
遠く離れていたところから見える景色は綺麗でも、その場にいくとそれが見えない、どころかゴミが散乱していて汚く感じるということは珍しくない。
Cの気持もそれと同じだった。
遠い存在であったころの教祖は神々しく感じたものだが、近寄ることで、長く深く付き合うことで、そのいやらしさ、疑り深さ、そして強欲、性欲にまみれただけの俗物にしか目に映らなくなったからだ。
教祖にしてもそうだった。
教団発足当初は、持ち前のカリスマ性で多くの信者を魅了していた。
が、教団が大きくなり、贅沢が身についたことで慢心し、自身を維持することを怠った。
鉄は、磨かなければ輝きは鈍る。
そんなこともあり、いつしかCは、
『俺が教祖だったらより多くの人を惹きつけ、教団も大きくできるのに』
と思うようになっていた。
しかし、脱会する気は毛頭なかった。
そこは当然、トップではなくてもナンバー2。
それなりにおいしい思いもしているからだ。
Cもまた、自分では勘づいていないだけで結局は毛嫌いしている教祖と同じ俗物になっていた。
だが、というより、だからCはなおも思う。
『俺が教祖だったら……』
と。
そんな折に、この騒ぎが起きたのだ。
当然、教団施設内はパニックに陥った。
が、Cはそれを逆手にとって、
「これは、信心深い者とそうでない者とをふるいかける試練だ! 皆の者、落ち着け! パニックになればそれこそ思う壺だぞ」
この一言が信者の心をとらえた。
一部、信心浅いものは教団から逃げ出してしまったが、大部分の信者は洗脳されているためか、Cの言い分にしたがった。
『これが力というものか!』
初めて教団の持つ力を実感した瞬間でもあった。
そう、Cはその力に完全に魅了されてしまったのだ。
間もなく、Cはある決意を固めた。
そのとき教祖はというと自室に引きこもり、ひとりおののいていた。
「C! これはいったいどういうことだ! 何が起こったんだ!」
なかばヒステリーに、それもCの仕業だと言わんばかりに詰め寄ってきた。
Cはいつもの癇癪に半ばうんざりしながらも、丁寧に言った。
「原因は私にもわかりません。ただ、教祖様がそれでは信者もついてきません。お気を確かに」
しかし、教祖は言うことを聞かない。
「これはもしかしたら陰謀か!? わしの地位につきたがっているやつのクーデターか?」
教祖はCに食らいつかんばかりの勢いで詰め寄った。
そのセリフに思わずピンとひらめいたC。
『そうか、この機に乗じてこのバカを殺せば、まんまと俺が教祖の位置に立てるのではではないか?』
と。
思うが早いか、テーブルの上の果物ナイフを取り出して教祖に襲いかかるC。
「な、何をする気だ? 気でも違ったか?」
突然のCの謀反に驚く教祖。
「そうだ、クーデターだ。俺がお前になり変わってやる」
「な、何だと! やはりこれはお前のしわざか?」
パニックで混乱して思考回路もメチャクチャになり、持ち前の猜疑心でCを罵倒する教祖。
『いままでこんな俗物に支配されいたのかと思うと、吐き気がするぜ』
そう思うや否や教祖に躍りかかり、ナイフで心臓を深く貫いた。




