不穏な会談
『いやぁ、助かった助かった!このままでは飢え死にしてしまう所じゃったぞ!』
ロングスカートのような、しかしそれでいて見たことのない奇妙な衣装に身を包んだ小柄な男性が腹を叩きながら快活に笑った。
腰には緩やかに沿った大体刃渡り70~80cmほどの見たことのない片刃の反りのある武器を、刃が下を向くようにしてぶら下げていた。
靴と思わしきものは木で作られており、土踏まずの部分だけが異様に長い奇妙な作りの物を着用していた。
目にかかる程度の黒い髪から覗く両の目は真っ赤に染まっており、この人物がただの人間ではない事が分かる。
『赤い目……もしかして、鬼?』
小柄な男性を助けた5,6歳と思わしき白髪の少年はそれに気付き、後ずさりながらその正体を確認する。
鬼の存在は伝承で聞いた事があった。黒い髪に赤い目を持つ人方の魔物。小柄な体躯ではあるもののその膂力と素早さは人間の比ではなく、一対一に持ち込まれたら死は免れない。もし出会うことがあるならば、己の不幸を呪うがいいとまで書かれていたと記憶している。
その姿が最後に確認されていたのは今から300ほどの年月をさかのぼった頃、かつて鬼の集団が豊葦原からこの大陸に攻め込んできたときだった。理由は分からない。ただそのときは現在で言う騎士国家ヨグソートの騎士達が中心となって再び押し返したと聞いていた。
伝承の存在であり恐るべき魔物が今目の前にいるという事実。心臓に刃が突きつけられているような戦慄が白髪の少年を襲っていた。
『(僕はここで殺されるの?)』
殺される。そう理解したとき、ふと白髪の青年は思い直した。なぜ死ぬ事を恐れる必要がある?と。
生まれてから今まで虐げられて生きてきた。幸せだと感じたことは存在しなかった。命があっても、また義理の兄や養父の『実験』が待っている。なぜ躊躇する必要がある、なぜ惜しむ必要がある。
気付いたときには目の前にもう伝承の魔物はおらず、自身を解放してくれる救い神がいるように思えた。
『さて、そこの小童。おぬしは命の恩人じゃな。何か礼をせねばなるまい。何がいい。』
鬼はどう考えても動きにくそうなその履物で器用に立ち上がり、白髪の少年へと近寄っていく。
白髪の少年は少しだけ彼を見上げるようにして目線をあわせはっきりといった。
『僕を殺して。』
懇願するように、それでいて明確な意思を感じるように、白髪の少年は短く呟いた。
鬼は顎に手を当てて考え込み、しばらくして大笑いした。
『白髪の小童よ。死ぬ事は解放ではない。お主にとって死ぬ事は生きること、生きることは死ぬ事じゃ。』
『どうして!僕はもう生きていたくない!もううんざりなんだ、こんな生活!!』
『ほう、うんざりか。』
よっこいせと呟きつつ鬼は近場の岩に腰をかける。
白髪の少年は目に涙を浮かべながらその鬼へと恨み言をぶつける。
『家に帰れば『実験』に使われる!外を出歩けば全ての人が僕を攻撃してくる!僕が何をしたというんだ!僕だって、僕だって普通に生活を送りたかった!!』
『……そうか。なら、お主が少し普通の生活をおくれるようにしてやるとするか。とりあえずこれをくれてやろう。』
鬼は腰についている大きな巾着袋を白髪の少年に渡す。
白髪の少年がそれを開くと、その中には奇妙な文様の描かれた長細い紙の束が所狭しとつめられていた。
『これは式符といっての、握りつぶせばお主にしか分からぬ姿も形も無い光の獣が少しの間現れる。この獣は持ち主の力に比例するため、おぬしではそんなに強いものが出せんと思うから出来る事は限られるがの。まあ少なくともお主の目や耳にはなってくれる。』
『目や耳?』
鬼は頷く。
『お主は魔力を持たぬようじゃな。故に、虐げられるのじゃろう。じゃがな、そんなものより遙かに強い力は『情報』なのじゃよ。『情報』はどんなものにも勝る絶対の武器じゃ。全てを先んじて知っていれば降りかかる災いも避けることが出来よう。』
『情報……。』
『うむ。……そして二つ目じゃ。その情報の大切さを教えるために、お主に『真実』を教えてやろう。さて、おぬしの家はあちらの様じゃな。お主に纏わりついているものと同じ『空気』が感じられる。』
鬼はニタァと口を半月にゆがめ、腰に携えた武器を抜き放った。
瞬きする間すら与えぬ神速の一閃は美しい弧を描き空を切る。抜き放たれた武器からはなぜか鮮血が飛び散り、白髪の少年の顔に掛かる。
何も無い空間を斬ったはずだ。なぜ鮮血が僕の顔に、何より武器についているんだ?
いや、そもそも、こいつは『何を斬った』?
鬼は目の前の空間をつかんで引っ張るような動作をする。ドサッと音を立ててその手から落ちてきたのは、白髪の少年の養父と義理の兄の首だった。
『う、うわぁぁあああああああああああ!!』
不思議そうな顔で絶命している首を見て白髪の青年は悲鳴を上げる。
腰を抜かし、地面にへたり込む。
幾ら親を恨んでいてもまだ子供。突然目の前に現れた死体を受け入れられるほどその心は成熟してはいない。
『自らは死にたいと望むのに、他者の死は恐ろしいか、小童。』
鬼は白髪の少年を見ることもなく鼻で笑い、もう一振り逆袈裟に切り上げた。
遠く、ゼノリスの町から悲鳴が聞こえる。大地が揺れ、巨大な建造物が崩れ落ちるような轟音が響く。
幼いながらにも、白髪の少年は理解した。伝承は『嘘』だったのだと。こんな化け物に『人』が勝てるわけが無い。真実は、『鬼』を『人』が襲って返り討ちにされたのだと。
鬼は音も無く武器を納め、白髪の少年のほうへと歩いてくる。
『ひぃっ!』
情けない悲鳴を上げて後ずさる白髪の少年を見て鬼は狂気に満ちた笑みを浮かべる。
『ふむ、これだけで分かるとは賢しいのう。これが『鬼』じゃ。人が恐れおののく最強最古の『魔物』じゃ。一つ勉強になったの?小童。』
『う、あ……。』
『今は怯えるがいい。じゃがな、お主がこの強さを知った事でお主は強くなれた。お主が、強さに直面したとき正気を失わずに済むようにな。』
鬼はどこからとも無く一つの長剣を取り出す。首をつかんだときと同じようにどこからかつかんできたのだろう。
刃渡りは1mほどの細身の剣で、様々な装飾が施されており、柄にはきらびやかな宝石が、刀身にはオーロラを象った紋様が刻み込まれている。
『これもくれてやる。500年じゃったか?まあ忘れたわい。とりあえず遙か昔、我が返り討ちにしたものが持っていた剣じゃ。お主と同じく白髪の者が使っていた剣。必ず、未来のお主の役に立つじゃろ。』
白髪の少年の横に剣を置いた瞬間、鬼の姿は見えなくなり、声だけが響く。
『またいずれ、見えるときを楽しみにしておるぞ。小童。』
まるで会えることを確信したかのような、古い友人との別れのような声が風に溶けていく。
鬼が一体何を言っているのか、白髪の少年は理解できなかった。
姿の消えた鬼を目で探しつつ、転がっている二つの首を見る。今まで自分を束縛してきた憎い相手だ。
だが不思議と、今は憎しみも殺意も湧かず、ただ哀れみの感情しか湧いてこなかった。
自分の背丈より大きな長剣を拾い、それを支えによろよろと立ち上がる。
『……これからどうしよう。』
家も養父も失った。白髪の少年を拾ってくれる人物などいないだろう。いや、『披験体』としてならまた拾ってくれる人物はいるのかもしれないが。
町へも帰れず、生き延びるためのあてもない。行く当ても無いまま、白髪の少年はふらふらと歩き始めた。
町とは逆の、鬱蒼と茂る暗い森の中へと。
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「さて、困った。僕は現在牢屋の中にいるわけだが脱出の手段が無い。『目』と『耳』も頑張ってくれてるけど実体が無い以上いかんともしがたいし、代わりに手に入ったのは面白そうな情報だけど、伝える手段が存在しない。いやー、流石にお手上げだ。はっはっはっは!!……はぁ。」
切り出した石で作られた台座に布をかぶせただけの簡素なベットの上でアーヴは大きな独り言を呟き、ため息を吐いた。
四方は頑強な石の壁で囲まれており、鉄格子は普通のものよりしっかり手入れされているようで錆一つ無く綺麗に磨き上げられている。
雨漏れ一つ無く、よくある脱出劇のように都合よく釘なども落ちてはいない。
窓が備え付けられているという事も無く、鉄格子の前に灯る松明だけが唯一の光源であり、今が昼なのか夜なのかも分からなかった。
「まさか剣まで没収されるとはなぁ。あれがあれば脱出できたのに。まったく、疑わしいだけなら武器くらい残しておいてほしいなぁ。いやまあ疑わしいどころかまごう事無き犯人だからこの対応は正直致命的なまでに効果的なわけなんだけど。あぁ、女神ミューテリアよ!あなたの従順な美と愛の使者たるこの我を助けたまえ!!」
芝居がかった口調で、寝転がりながら高らかにアーヴは叫び声をあげる。しかしもちろんそんな叫びは届くわけも無く、アーヴの声が部屋の中に木霊するだけだった。
「……祈りで助けてくれたら宗教はもっとはやってるはずだからね。うん、分かりきってたよこんな結果。」
そもそも軍神や幸運の神ですらなく美の女神に祈っている時点で大きな間違いなのだが、そんな事を気にする事も無く再度脱獄の方法について考える。
アーヴが投獄されたのは体験時間でおおよそ一刻前といったところだろうか。ウルヴァン将軍との会談の終わり際、武装解除を通告された後に密偵の疑いありとのことで拘束され、視界も奪われここにつれて来られていた。
「これはウルヴァン将軍。お会いできて光栄でございます。その勇壮なる武勲の数々……旅の身であるこの私でさえ、しかと耳に届いております。」
「よい、面を上げよ。私とて七騎士が一人。同じく七騎士であるレオンハルトの命の恩人に頭を下げられるほどのものでは無い。むしろこちらこそ頭を下げねばならぬ。わが同胞の危機を救って頂いたこと、心より感謝させていただく。」
席に着き、会談を始める前に互いに頭を下げ挨拶を交わす。ウルヴァンの右手側では黒い鎧を身に纏った騎士が腕を後ろに組み、感情のない瞳でアーヴを睨んでいた。
ウルヴァンもその横の黒騎士も突撃槍ではない武器を腰に携えており、その出で立ちは騎士らしからぬ印象を受ける。
「(『耳』によると中々の為政者らしいけど、優れた武人でありながら為政者であるなんて通常では考えられない。よほどの才能か、それとも何らかの方法で人心掌握をしているのか……少なくとも食わせものであることは間違いないね。)」
一瞬、鋭い眼光でウルヴァンを睨み付けたあと、アーヴは表情を悲哀を称えたものへと変化させた。
ウルヴァンはそれに気づいたか気づかないか、懐疑的な眼差しのままアーヴを見つめて椅子を引く。
互いに席に座り、一呼吸おいた後にアーヴは話始める。
「しかし、今回の件……私の力及ばず、騎士団の壊滅を免れることはできませんでした。もっと早くかの魔物の正体に思い当たっていれば、もっと多くの命が救えたのではないか……そう、後悔の念が我が胸中を閉めております。」
「いや、全滅していたかもしれない事態から一人でも助けられたのだ。そう自分を卑下する必要もなかろう。真に感謝している。……さて、我々はこれより部隊壊滅の原因調査へと繰り出す必要がある。騎士達も丁重に弔わねばならん。魔物の詳細に関してと、騎士たちが眠る場所について教えていただけないだろうか。」
「もちろん。」
左胸に手を当て、座ったままゆるりと一例をし、過去を思い出すよう少し右上へと目線を移しながら話始める。
「ではまず、魔物についてお話いたしましょう。将軍は『幻影』という魔物はご存じですかな?」
「幻影……聞いたことはある。戦場にて死んでいった強者の屍に取り憑き、その肉体を自らのものとする不可視の魔物ではなかったか。」
「左様で。噂通りであれば、死者を弔うことすら許さぬ、非道な悪魔にございます。幻影が出る地方では、その憑依を恐れ、死した者の体を焼き払うところもあるとか。しかし、地方よっては親しきものの姿を取り、人を拐かす化物として伝えられており、『霧の中に、消えた親とおぼしきものを見たら、身を翻しすぐさま逃げよ』と子供に教えるところもあると言われております。地方によってその正体は異なり、その実態はまるで知られていない。死した屍に取り憑く事すら、満点とは言いがたいと申し上げましょう。」
「ほう?」
ウルヴァンは興味深そうに目を見開く。アーヴは満足そうに微笑んで言葉を続ける。
「彼の悪魔はもっとも愛する人物、もしくはもっとも恐れる存在へとその姿を変化させるのでございます。それは死したものでも変わりなく。まさに心の内に潜む思いこそが彼の悪魔の姿と言えるでしょう。」
「つまり、何が言いたいのだ?」
「彼らは、敵に怯え慄き、その結果その身を滅ぼしたと言う事です。」
敵を目の前にし怯えた。アーヴの語ったその事実は誇り高き騎士にとっての侮辱であり、屈辱でもあった。
ウルヴァンは顔をしかめ、隠し切れない怒りをあらわにしつつ、アーヴに詰め寄る。
「我らリッター、いかなる敵にも怯えはせぬ。たとえ最愛のものであろうと、最恐の敵であろうともな。」
静かにそう語るウルヴァンの声は凄みを帯びており、思わずアーヴは身震いをした。
やはり、歴戦の勇者は只者ではない。気を抜けば、意識すらも持っていかれそうになる圧力。血を浴び、手を汚してきたものにしか分からぬ怒気が、アーヴに叩きつけられていた。
冷や汗が頬を伝う。果たしてこんな人物の暗殺が成功するのか……?『落ちこぼれ』とはいえ、策士や軍師と呼ばれる立ち位置のアーヴだが、その役目らしからぬ疑念が胸中に渦を巻く。
「(だけど、僕達は引けない。成功させるしかないんだ。)」
生つばを飲み込み、冷や汗をぬぐいながら笑顔を取り繕う。
「将軍、そうお怒りなさらず……。これは仕方なき事ゆえ。怯えるのも、また自然の摂理でございます。」
「摂理だと?そんなものが何になる!我々は――」
「邪神を見れば、誰も彼も正気を保てますまい。」
邪神。その言葉にウルヴァンと横にいる黒騎士は息を呑んだ。
「太古の昔、かつてこの世界を支配していたと呼ばれる古の魔物。その体躯は天を貫き、その歩みは大地を砕く。手には鋭い鉤爪がついており、裂けない物はない。言葉にするもおぞましいその雄叫びは、聞くもの全ての命を奪い、遠くにその姿を見ただけで理性を失うほどの存在感を放つその生物は、『ゴルディア』と呼ばれ、世界を終焉へと導こうとしていた。カアンブル教の経典の冒頭にそう、書かれているはずです。」
アーヴは真剣なまなざしでそう語った。
「カアンブル教――この国で信仰されている宗教。この国の創始者であり戦いの女神であるカアンブルを信仰する、まあ……騎士らしい宗教です。もちろん、この宗教すら『機密事項』ですから調べるのには苦労しましたが……どうやらデマでは無かったようですね。」
「貴様……どうやってそれを知った……。」
「調べた、だけでございます。旅人は情報こそが飯の種で生きるための必須事項です故。」
微笑むアーヴに、黒騎士は警戒の色をあらわにして武器を構える。闇に染まったかのような漆黒の鉤爪が、不気味な気配を周囲に漂わせる。
「よい、ジーク。」
ウルヴァンは片手でそれを制し、アーヴの目を睨みつける。にたにたと不気味に笑うアーヴの目はどこか冷たさと、まるで心のうちを見透かされているかのような鋭さを兼ね備えていた。
「(ただの食えない男ではなさそうだ……だが、立ち振る舞いは素人同然。旅人と言うよりはもしや情報屋か?それとも……そう見せかけたゼノリスの密偵か。ゲルプリッターの死に関する情報もきな臭くなってきたが……否定する材料が無い。くっ、レオンが情けをかけると思い、席を外させたのが裏目に出たか。)」
下唇をわずかに噛むが、動揺を悟られれば相手の思う壺と言う可能性もある。外に出す事も中に入れることも出来ず、真実か嘘かも分からない現状に、ウルヴァンは徐々に苛立ちを覚えていた。
「さて、話を戻しましょうか。この邪神の姿を捉えたものは余りの戦慄に正気を失うと聞きます。ところで、ファントムはその心の奥にあるものを映し出します。あとは将軍様もお分かりになるでしょう。」
「つまり、みな狂気にとらわれたといいたいのか。」
「ええ。先ほども申しあげたとおり、彼らは過度の恐怖にとらわれその正気を失いました。そしてあろうことか、同士討ちを始め、その標的はレオンハルト将軍だったと推測されます。」
ウルヴァンはそれを聞き、右手で頭を抱えた。ひとつ大きく息を吐き、力なく首を横に振る。
「だからレオンは打撲痕があったのか……。まさか、味方同士で戦っていたとは。」
「ええ。私はこの通り非力でして。さすがに正気でない人間まで助けることもできません。何とか気絶していたレオンハルト将軍を引きずり脱出してきたのです。その後に様子を見に行ったところ、部隊は全滅していたというわけですが……。」
「ふむ……。」
ウルヴァンは頭を抱えいた手を顎へと移し、髭を触りながら何かを考え始める。
数分ほど考え込み、うむ、と一つうめいたかと思えば空いた手を掲げて、黒騎士の名前を呼んだ。
「ジーク、レオンハルトだが……あとはわかるな。」
ウルヴァンはくるくると掲げた手を回転させて、ジークと呼ばれた黒騎士に向かって指示を出す。
黒騎士は一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたが、すぐにその表情は無表情へと戻り、「かしこまりました。」とだけ残して宿舎へと消えていった。
「将軍、よろしいのですか?護衛を外して。」
「構わぬよ。さて、話を続けるとしようか。二つほど聞きたいことがある、まず一つレオンハルトは発狂したのか?」
「さて、それはわかりかねます。私がたどりつき目にしたものは意識の糸が切れかかっていた将軍と、其れを打ち据える騎士たちの姿。そして私が最も恐れるものだけでしたから。」
「ほう。」
「状況を鑑みるに、おそらくレオンハルト将軍は別の何かを見て恐慌状態に陥り、発狂した兵士を相手に惜敗したのではないかと。」
「そうか……ふむ……。」
別の何かといった瞬間に眉をしかめ、何かを思い出すような素振りをウルヴァンは見せた。
「(……なんだ?何を思い出した?)」
アーヴはその態度がどこか引っかかった。まるで、突かれたくない古い記憶を探られた時のようなイメージを受ける。
「(『目』や『耳』じゃ今ここで情報を引き出せない。『覚』を使うか?いや、だめだ。今怪しい動きをしたら何かの拍子で怪しまれるかもしれない。僕たちが彼の命を狙っていると、どんな些細なことからでも気づかれてはいけない。)」
アーヴはすぐ頭に浮かんだ選択肢を払拭する。今はとりあえず将軍の目をレオンハルトと自分たちから外した後に国外へと出し、こちらの態勢を整えることが先決だ。浮かんだ疑問は一番厄介な存在がいない時に調べればいい。式符があれば誰にも気づかれずそれができる。今、無用なリスクを背負う必要はないと判断したのだ。だが、今こそがそのリスクを負うべき時だとアーヴが気付くのは手遅れになってからだった。
「……理にかなっている証言だ。信じるに値する。……今でなければな。」
「なっ!?」
座ったままであるにもかかわらず、視認できないほどの居抜きでウルヴァンは腰の剣を抜き放った。
切っ先はアーヴの喉元ぎりぎりで止まっており、チリチリと焼けるような熱さが切っ先から伝わってくる。
抜き放つ際に通過したであろう軌道上の机は真っ二つにされており、切断面からはわずかに焦げ付いた跡が残っていた。
「今現在、我が国はとある事情で防衛網を敷いていてな。申し訳ないが貴殿もその防衛網に引っかかる人物の可能性があるのだ。武装解除した後で、潔白が証明されるまでしばし拘束させてもらおう。」
「ははっ……こんな非力な旅人がこの大国の防衛網に引っかかると……?」
アーヴは抵抗できないと悟るとすぐさま諸手を頭上に掲げ、乾いた笑いでごまかそうとする。
「念には念を、というやつだ。そいつらは一人であろうと厄介なのでな。」
ウルヴァンは剣を突き付けたまま、手早くアーヴの腰についているポーチや剣を回収した。見たことがないからだろうか、式符を見て一度は怪訝な顔をしたものの、すぐさま声を上げ部下を呼び出した。
「この武器、道具の解析を頼む。そして彼の拘束もだ。客人だから丁重に扱うように。」
駆け付けた騎士にそう告げ、剣を収つつ踵を返し、宿舎のほうへと向かう。
「(……防衛網だって?いや、そんな馬鹿な。このヨグソートに侵入しようなんて阿呆なことを考えるやつがいるわけが……いやまて、いるじゃないか。『僕たち』だ。一人で万の兵を薙ぎ払う『ゼノリスの密偵』だ。つまり誰かが先んじて情報を流していたのは間違いない。ゼノリス側にヨグソートの密偵がいるのか、それとも……国そのものか。)」
アーヴはギリィ、と歯ぎしりをする。
「(どちらにせよただ僕たちを殺すにしては手間がかかりすぎる、裏で取引があるとみるべきだな。)」
任務の裏にある何かの気配を感じとりながら、アーヴは騎士たちの手によって目を隠され、耳栓をつけられた。手には簡易的な拘束錠をつけられ、そのまま担ぎ上げられる形で牢へと連れて行かれた。
「どうする、少人数での暗殺は先の先をとった電撃戦術じゃないと成功しない。先手を打たれている以上攻め方を変えないと。」
アーヴは牢屋のなかで、誰に聞こえるでもなく一人つぶやく。
荷物を確認してみたものの、どうやら今のところは目立った凶器である剣と、彼らからしてみたら使用用途の不明な式符だけが没収されているようだ。武装解除とは言ったものの客人として最低限の扱い、ということか。
一方で何らかの手段で侵入したサイたちの存在がばれる危険性も高まってきた。そうなってしまえばアーヴ自身を人質にサイ達をあぶり出し、一人一人処刑を行うことは間違いない。サイやクーに限ってはそんなことで動揺はしないだろうが、ユフィとアメリアは引っかかって飛び出てくる可能性がある。それだけは避けなければ無かった。
「そうなると、最善手はあの剣を取り戻してサイ達に情報を伝え、身を隠しつつ将軍の暗殺を謀り、どさくさに紛れて国外逃亡なんだけど……流石にうまく行きそうに無いね。最悪、誰か一人は死ぬかもしれない。まあもともと全滅を想定した任務で犠牲一人なら儲けものだけど、しかしてそれでは僕達の計画が白紙になってしまう。こればかりはいただけない。」
となると結局最善手を打ち続けるしかないか。
アーヴは嬉しそうに含み笑いをして起き上がり、再度持ち物を確認する。己の限界の知が試される瞬間。互いのむき出しの精神がぶつかり合うその過程。其れこそがアーヴにとって最高の『娯楽』だった。
「脱獄につかえそうなもの無いかなー。……何もなーい!」
明るい声で適当に探すふりだけをして、石造りのベットの上に寝転がる。
必要最低限度の荷物しか持ってこなかったことが災いして、自力での脱獄ということに関しては完璧にお手上げというべき状況に陥っていた。
「(しかし、宗教的にもここの騎士達は何らかの明確な意思をもっている可能性が高い、言いくるめて懐柔するのも厳しそうだな……道具が無いなら言葉でどうにかするしかないんだけど、ウルヴァン将軍が戻るまでいかんせん時間も無い。しかたない、強行突破しよう。)」
布をいつでも手に取れるよう確認した後、鉄格子の隙間から騎士が居ないかを確認する。
覗きこむと、通路の遙か先、大きな音を出せば聞こえるのではないかと思わしき場所に騎士が居た。
「(ここの騎士は巡回していないみたいだね。となると職務怠慢の可能性が高い。適当に病気っぽい症状をでっち上げたら慌てて証拠を隠蔽に来るだろうな。さて……やろうか。)」
アーヴは思い切り鉄格子に向かって体当たりをした。
ガシャン!と言う音が牢屋内に響き渡っただけだが、何らかの問題事が起きたのではないかと衛兵に知らせるには十分だった。
「なんだぁ?まったく、おとなしそうな捕虜だから楽できると思ったのによぉ。」
そう呟きつつ衛兵はのそのそと歩いてくる。
完全にやる気が無いのだろう。プレートアーマーすらまともに装着しておらず、短槍と牢の鍵と思わしきものだけをもってこちらへと歩いてきていた。
「(本当は鉄仮面と短刀だったら非常にやりやすかったんだけど、無いものねだりをしてもしかたない。)」
騎士を確認して鉄格子の傍で腹をかかえうずくまり、うめき声を上げる。
「がっ……ぁあ……!!腹が……ッ!!ねじ切れるように、痛い……ッ!!」
大きく息を吸い、無理やり過呼吸に似た呼吸へと変化させる。
ゆっくりとのたうつ様にさりげなく鉄格子から離れ、石造りのベットにかけられた布が手に届く範囲へと移動する。
一方の見張りの騎士は流石に焦ったのだろう。巡回すらサボっていたためにこれが嘘か本当かすら分からない。
もし本当に囚人になんらかの異常があれば間違いなく責められ、騎士の称号すら剥奪される可能性もある。それだけは今の堕落した生活を守るために避けたいところだった。
慌てて牢の鍵を開け、もだえ苦しむ囚人へと近寄る。手に持った短槍を地面へと投げ捨て、囚人の肩を叩き、安否を確認するために声をかける。。
「おい、大丈夫か?どうした?」
「あぁ……腹が……ッ!」
「腹がどうした?」
「腹が……ッ!……痛くないんだ。」
アーヴはベットに掛かっている布を手でつかみ、その顔にめがけて素早く巻きつける。
「のぁっ!?貴様ッ!?」
「いやぁ親切な看守で助かったよ。親切な君にはプレゼントだ。」
視界を奪われたことで、慌てて短槍を掴もうとする看守よりも先にアーヴはそれを拾う。
30cmほども無い短い槍だが今この場で使う武器としては十分だ。アーヴはその穂先をもがく看守の喉笛に向かって深く突き刺した。
布の上から貫通した短槍は刺さっている部分を徐々に朱に染めていき、看守は声も出せずに激痛にもだえる。
「苦しいかい?でも人は喉笛をやられた程度じゃ声は出せなくなっても即死はしないんだ、よく勘違いされるけどね。その槍を抜けば少し呼吸は楽になるしちょっとは声も出せるだろうけど、間違いなく数分以内に君は死ぬ。もしそれを刺しっぱなしにしていたら、呼吸はきついけど数十分は生きていられるとおもうから、運がよければ助かるかもね。」
アーヴは小刻みに痙攣している看守の持つ牢屋の鍵を奪い、鼻歌を歌いながら牢屋の外へ堂々と出て行く。
「過ぎた親切は身を滅ぼす。一つ勉強になったようだね、看守さん?」
ガシャン、と音を立てて牢を閉め、鍵はそのままコートの内側へと仕舞う。
これでとりあえず脱獄はなったが、他に見張りがいないとも限らない。そのうえ、あと数刻で大捕り物が開始されるのも必然だ。
「とりあえず剣と式符を回収しよう。あれが無けりゃ僕はそこら辺の雑草より役に立たないからね。やれやれ、モーメントが僕でも使えればなぁ。」
肩をすくめつつ、心にも無い事をつぶやきながら見張りの居た方角へと歩を進めた。
どこを見渡しても石の壁と松明しか存在しない廊下をのんびりと抜けていく。
ところどころに覗く牢屋には白骨が転がっており、騎士の怠慢とでも言うべき現状がはっきりと見て取れた。
「こんな戦争も無い状況で転がっている白骨死体か。さて、この世の女性が羨みそうなほどに色白の彼はどんな罪でここに突っ込まれたんだろうねぇ。こんな『安全』な国で。」
アーヴは白骨死体の素性を『目』と『耳』が得てきた情報のおかげで大体推測していた。
それはこの国の特異性そのものであり、同時に異常とも呼べる風習でもあった。
「民は騎士に護られるものであり、騎士は民を護るもの。消して揺らぐ事のないこの関係性が生み出した悲劇か。実に哀れな国家だよ。」
最初に看守のいた場所を通り過ぎ、待機所と思わしき少し狭い小部屋へと踏み入る。
あいも変わらず石作りの部屋ではあるが、机や仮眠用の木製ベットが置いてある。壁際には樽が置いてあり、その中に無造作に武器が突っ込まれていた。どうやら投獄された人物から没収したものをここで管理していたのだろう。
「(突撃槍まで入っているって事はやっぱり騎士も投獄されてるみたいだね。でも流石に10本も越えてるのは意外だな。これだと最低10人近くは獄死していることになるけど、軍規違反の騎士は即時処刑じゃなかったか……?一人二人ならまだ特例かもしれないけど、これだけ投獄されていたら何らかの口封じの可能性もあったのかもしれない。これも調べておく必要があるか。)」
錆付いたそれらの武器を退かしながら、使えそうなものが無いか物色を開始する。
「剣しかまともに使えないから剣がいいんだけどなー……お、いいもの見っけ。」
アーヴは樽から一本の剣を引っ張り出す。いや、剣と言うよりは曲刀と言うべきだろう。
鞘から抜き放ったそれは鈍い銀の光を放っており、片方にしか刃がついていない奇妙な武器であった。やや強く反ったその刀身は鋭い切れ味を誇る事を容易に想像させる。そして同時に、それはアーヴにとって懐かしいものだった。
「鬼の武器……たしか刀といったかな。鬼との外交が行われるようになって7年、未だ大陸にこの武器を使う人はいないみたいだからきっと商業目的で持ち運んできていたんだろうね。」
アーヴはそれを納め、腰に携える。ずしりとした重さが妙に心地よい。
鬼に出会ったあのときから鬼について調べない日は無かった。鬼について書かれている伝承を全て漁り、武器の使用方法や特徴、文化形態やその生態も調べつくした。確かにあの邂逅は強い恐怖と畏怖をもたらしたが、それ以上に鬼に対する憧れも彼は抱いていたのだ。
そんな生活を送ってきたため、外交が成立したと聞いたときは子供ながらに両手を上げて喜んだものだった。
クーの家を経由し様々な物資を輸入したり、商業船に潜り込もうとしてつまみ出されたときもあった。茶が手に入ったときにはあんまりにもはしゃぎすぎたため、あのユフィにすら呆れられて「もう少し落ち着かないと駄目だと思うよ……?」と若干引き気味にいわれたのも懐かしい。あの奇怪な生物を見るような目は今でも忘れられないだろう。
「手入れはされてないみたいだけど、錆も無いし刃こぼれも無い。少し油を引いておけばいいかな。」
樽の中になみなみと入っていた松明に染み込ませるための油を、適当な布にしみこませてからそれを使い刀身に油を塗る。そのまま乾いた布で余分な油を取り、手入れを済ませたらもう一度刀を納めた。
「(しかし僕の式符と剣はどこにあるんだ?没収品の中に置いていないのか?)」
不安そうな顔で周囲をもう一度見回した後、何度も武器の入っていた樽の中や備え付けのベットをひっくり返すが、目当てのものは見つからない。
しばらく腕を組み仁王立ちした後、情報を聞くだけ聞いた後に投獄してくれた忌々しいウルヴァン将軍と、その隣にいたジークと呼ばれた将軍の装備を思い出す。
「(あの時はどうやって騙すかを考えてたから気が回らなかったけど、あの二人の武器は騎士のそれじゃ無かった。幅広の長剣と鉤爪……そしてあの鎧の放つ不気味な威圧感。どこで手に入れたか知らないけど、あれは間違いなく呪式装具だ。そして僕の剣も呪式装具……これは没収どころかネコババされてるかもしれないな。)」
目的のものはないと判断したアーヴは、小部屋を抜けた先の通路へと足を踏み出す。
先ほどの牢屋があった通路と特に代わり映えはしないが、奥に見える螺旋階段とその前にいる見張り二名が行く手を阻んでいた。
牢屋の看守とは違い、二人ともプレートメイルに鉄仮面の全身装備であり、手に持つ突撃槍も正規兵の持つものだ。どこか隙を突いて致命傷を与えようにも、鎧の隙間からはみ出して見える黒い塊はおそらく鎖帷子だろう。腕力も技術も余り無いアーヴでは、鎧ごと切断するのも帷子を通して貫くのも不可能だった。
「(視界の悪さは狭い通路のせいでほぼ問題が解消されている……振り切れない速さで疾走してくることは無いだろうけど、ああも完全に階段の前に居られちゃ振り切る前に串刺しだ。さて、となるとこれしかないか……。)」
アーヴは油の入っている樽を小部屋の出口付近の隅に置き、それの後ろに隠れるようにして身を潜める。
「(松明は出口付近に一つあって取り外しは出来る。周囲に爆発物は無い。これなら大丈夫だね。)」
念のためもう一度自らの近辺を観察し、一人頷いたあとに大声を上げた。
「おーい!囚人の様子がおかしいんだ!!二人とも来てくれ!!」
アーヴの叫び声は通路の先の見張りに届いたようで、金属質の大きな足音を立てて小部屋の中に入ってきた。
見張りは室内をそのまま見渡し、看守がいないことを確認するとその奥に向かって歩いていこうとするが、一人が違和感に気付き立ち止まる。
「……人の気配がしないか?」
「なに?」
見張りは槍を構え周囲を再度見渡す。武器の入っていた樽、ベット等もゆっくりと歩きながら注意深く観察しながら、部屋の中央へと移動してくる。
「(ここが好機だ!)」
アーヴは素早く油の入った樽を見張りに向けて蹴り飛ばし、出口に向かって走り出す。
「おい!あそこだ!」
見張りはアーヴの存在に気付き、武器を構え突撃の体制を取るが足元にばら撒かれた液体を見てその足を止める。
「猪口才なまねを!」
「まて、早く油から離れるんだ!!」
激昂し、油の海を乗り越えようとする相方を見張りの一人が静止する。その視線の先には火のついた松明を手に持ち、二人を笑顔で見ている白髪の男がいた。
「その鎧があるから死にはしないと思うけど、熱による蒸し焼きには気をつけて。それではお元気で。」
簡単な別れの挨拶を告げると白髪の男は躊躇無くその松明を油の海に向かって放り投げる。
瞬く間に火は燃え上がり、見張りを炎の壁が包み込む。周囲の樽やベット、机にも火の手は伸び、黒煙が小部屋の中に充満していく。
「脱獄!脱獄だ!!白髪の男を捕らえろ!!」
見張りは煙を吸い込みながらも必死に声を荒げ脱獄の知らせを上層にいる騎士へと伝えようとするが、その叫びは炎の壁に飲み込まれて上層へ届く事は無かった。
「僕みたいなやつの脱獄を許すなんて、ちょっと警備体制と構造見直したほうがいいんじゃないかな?ここ。」
アーヴは急ぎ足で螺旋階段を駆け上がり上層へ到着する。
そこは円形の広間になっており、石造りで太陽の光すらないのは相変わらずではあるものの、床には絨毯が敷かれ、壁には騎士団のものと思わしき旗や伝達事項の書かれた書類などが貼り付けられていた。左右に小さな扉が一つずつつけられており、中央には巨大な螺旋階段がさらに上層に向かって伸びていく。螺旋階段は途中途中に橋が設けられており、各層への連絡橋の役割を果たしていた。現在アーヴのいる層は第一層とでも言うべきだろう。層にはそれぞれ扉が複数あり、第八層と思わしき場所まで同じものが続いていた。
「ここはどうやら騎士の待機所みたいだね。待機所に牢を作るなんて迂闊というべきか、賢いというべきか。」
ちらりと上ってきた階段に目をやり、煙が上がってくる時間と騎士が炎を突破してくる時間を計算する。
「(ここを閉鎖できるようになっていないだろうから、時間はほとんどないな。調べたいことはたくさんあるけどうかうかしてられないか。)」
素早く周囲に目を配り再度状況を確認する。
今すぐアーヴに気付く騎士はいないだろうが、出口と思わしき場所へと走り抜けるには間違いなく接触は逃れられないだろう。いや、それどころか『目』の情報で出口の外には兵士が二人控えているのがわかっている。
「(こういう時は敵の中に身を隠すのが王道だけど、今回ばかりはそうもいかない。まったく、式符とあの剣がないと何もできないなぁ僕は。)」
自嘲気味に笑みを浮かべ、意識を集中する。『目』と『耳』はまだ半刻は持つはずだ。逆に言えば半刻の間に何とかしなければアーヴは切り札を失うことになる。
「(さあ、命を懸けたゲームの始まりだ。)」
アーヴは足音ひとつ立てることなく、手慣れた動きで滑るように駆けていく。煤けた鎧の騎士が到着したころにはすでに白髪の男の姿は跡形もなく消えていた。