⑨ 脅威のチカラ
「……ああ、そうそう。ついでにコレも、回収して行くよ。18世紀の世界には、些かオーバーテクノロジーが過ぎるからね?」
雪村はそう言うと、黒い腕輪をぶら下げて見せた。
いつの間にか、サンジェルマンの左腕から、スリ盗ったらしい。抜け目の無い青年だ。だが、最早ソレは必要無かった。何故なら伯爵は、既にその構造を解析済みなのだから。
雪村は、ソクラテスの胸辺りに右手を当てた。
すると、ちょうどそのタイミングで、ソクラテスが目を覚ました。
「何だキミは……待てよ、あの時の?」
「落ち着いて下さい、先生。今から天国にご案内しますよ……いや、ある意味地獄かな?」
最後に、何だか不吉なセリフを呟いて、ニヤリと笑った雪村は、ソクラテスとともに、その場から一瞬で居なくなった。
後には、まるで抜け殻のように、空っぽになったベッドだけが残された。
ソレは、これまで、数々の体験を重ねて来た伯爵にとっても、不思議な現象だった。
何故なら、今、雪村は、デバイスを使用する素振りを、一切見せる事無く、時空移動したからだ。
つまり彼は、自分自身ともう1名のカラダを、天然のチカラだけで、時間の彼方へ運んだ事になる。その事実は、25歳のサン・ジェルマンにとって、脅威だった。
「……やれやれ。世の中には、恐ろしいチカラを持つ者が、居るものだ」
彼は思わず、独り言を呟いた。
一方コチラは、例によって、名護屋テレビ塔の、亜空間レストランに連れて来られたソクラテス。
「ようこそ先生、西暦2005年5月5日の世界へ。」
ソクラテスの顔を見るなり、挨拶をする、永遠の35歳のサン・ジェルマン。そしてその傍らには、雪村と雪子も居た。
「……キミは以前、牢獄にやって来た青年……いや、少し歳をとっているのか?」
「ええ、あの後10年たって、不老不死のカラダを、手に入れたのですよ」
「不老不死……さては錬金術師か?」
「まあ、似たような者です。自己紹介する時は、時空調査員と申しております」
「……サッパリ分からんな」
「今はそれで結構です。賢明な先生の事ですから、いずれご理解頂けるかと」
そこでふと、窓の外の風景を見て、愕然とするソクラテス。名護屋市の久屋大通周辺のビル街は、さぞや衝撃的なモノとして、眼に映った事であろう。
「何処だ、ここは?」
震える声で、ソクラテスは言った。
彼は、ここへ来て初めて、平常心を失ったようだ。
「先生は牢獄内で毒杯をあおり、一度お亡くなりになられました……ですからココは、天国でございます」
ニコニコしながら、伯爵は答えた。




