⑩ 保護観察
「キミは……ふざけているのかね?」
「実際に起きた現象としては、今申し上げた通りなのです。紀元前399年の現場で、先生は、牢番の目の前で、見事に毒人参ジュースを飲み干して見せました」
サン・ジェルマンは、辛抱強く説得を続ける。
「……確かに。」
「そして、その後の先生をどうしようが、好きにしろと、私に約束なさいましたね?」
伯爵は、ダメ押しをした。
「うん、言ったな」
「先生は、法に従って毒杯をあおり、既に御自分の責任を果たしました。ココから先は、自由に生きるべきなです。そして、許されるモノなら、迷える我々、21世紀のニンゲンたちに、色々と御教授願いたいのです。」
最後に35歳の伯爵は、気持ちを込めて熱く語った。
ソクラテスは、少し考えてから、こう言った。
「約束は……守らねばならんな。ソレはヒトとして、大切な事だ。だが、余りにも奇想天外な出来事に、ワシの中に、些か戸惑いが有るのも事実だ。だから、少し気持ちが落ち着くまで、待って欲しい」
「もちろんですとも。それでは早速、落ち着けるお部屋にご案内いたします」
サン・ジェルマンはそう言うと、自ら率先してイソイソと、ソクラテスをエレベーターに乗せ、地下のゲストルームに連れて行った。
そんな一連の出来事を、黙って見ていた雪村は、「じゃあ、ボクはコレで……あんまり遅くなると、また弓子さんが寂しがるから」と言いながら、その場から消えて行った。
「首尾良く事が済んで良かったわ。私も帰るわね?」
そう言って雪子も消えた。
バーカウンターの中から、一連の出来事を見ていた鷹志と由理子は、今日も口をアングリと開けていた。
「ソ、ソクラテスだってさ、ユリちゃん……」
鷹志は震えながら言う。
「へえ〜、誰ソレ。強いの?」
相変わらず勉強不足な由理子が、まるで"ドクタースランプ"の"海苔巻きアラレ"みたいなリアクションで答える。
そこで彼は、ソクラテスが如何に凄い哲人なのか、彼女に対して、熱弁を振るった。
例えば、あのアレキサンダー大王の家庭教師は、アリストテレス。アリストテレスに教えを説いたのは、プラトン。そのプラトンが心酔した師匠は、ソクラテスなんだ……等々。
大好きな鷹志が、熱心に語ってくれるのは嬉しい。でも残念ながら、その話の内容が、由理子には、余りピンと来ない。だから彼女は、取り敢えずニコニコ笑顔を見せて、うん、うんと頷きながら、聞いていたのだった。




