⑪ シュタイナー
さて、こちらは18世紀に居る、25歳のサン・ジェルマン。
先程、恐らくお仲間にとは言え、"トンビに油揚げを拐われた"格好の彼だったが、またしても、地図を広げて、次の目標となる人物を物色していた。
「それにしても、ヴィヴァルディもソクラテスも、気になるワードを口にしていたな……確か"アカシックレコード"とか?」
一人で呟く伯爵。
「あのワードについては、もう少し突っ込んでおきたい。だとすると、次は……この人かな?」
彼はおもむろに、小型トランクのフタを開き、目的地の座標の数値を、次のように入力した。
西暦1920年09月26日
時刻17時00分
北緯47度29分
東経07度37分
目指すは、開館当日の"ゲーテアヌム"だ!
彼が出現した場所の目の前には、大小二つのドーム型をした屋根を持つ、真新しい建築物が建っていた。そして、そのエントランス前には、既に目的とする人物が、彼を待ち構えていたのだった。
「やあ、ようこそ。やはり、このタイミングで来たね?」
サン・ジェルマンが近づいて行くと、その人物の方から声を掛けて来た。
スーツを上品に着こなし、にこやかに笑う、繊細そうな顔立ちの、その紳士は、突然の珍客に対して、余裕たっぷりだ。
このパターンは初めてだったので、伯爵は驚きを隠せない。
「私が誰なのか、ご存じなのですか?」
「何も無い空間から、突然現れる紳士など、他に誰が居るものか。キミこそは、かの有名な、サン・ジェルマン伯爵なのだろう?」
「ご明察、恐れ入ります。でも、何故……?」
「大方キミは、私のこのゲーテアヌムが、会館する日を狙って、やって来たのだろう?」
「流石です。最早、グウの音も出ません」
「……全ては、アカシックレコードに書かれてあった通りなのだよ」
(出た。またしても、アカシックレコードだ)
伯爵は思った。
「今更ですが、貴方はルドルフ・シュタイナー先生で、間違いないですね?」
「いかにも。私がシュタイナーだ」
「ひょっとして、私がここにやって来た目的も……?」
「多分、アカシックレコードについて、知りたいのだろう?」
「はい。まさにおっしゃる通りです。」
サン・ジェルマンは、完全に脱帽モノだった。
「……まあ、立ち話もなんだし、中に入りたまえ」
そう言うシュタイナーに誘われて、伯爵は建物の中に入って行く。
ドーム型の天井の内側には、壮麗な壁画が描かれていた。
ここは……礼拝堂なのだろうか?
いや、むしろ、どちらかと言えば劇場か。




