⑫ 劇場の座席にて
それは確かに、巨大な木造建築の劇場だった。
外から見た、小さい方のドームの下が舞台。大きい方のドームの下が観客席になっていたのだ。そして天井を支える柱の一つ一つに、有機的なデザインの植物の彫刻が施されていた。どうやらそれも、彼の思想を具現化したものらしい。
そしてコレは、後から知った事だが、あの丸い天井を実現するために、船大工の技術を応用したらしい。つまり、船底を逆さまにして造る要領だ。まさに逆転の発想だった。それもまた、シュタイナーの思考の柔軟性が、偲ばれる逸話だ。
サン・ジェルマンは、観客席の中段辺りに、隣同士の席を勧められ、そこに座って舞台の方を見ながら、以下のような彼の話を聞いた。
「もともと私は、詩人ゲーテの研究をしていたのだよ。その内に、神智学に興味を持つようになり、その協会でドイツ支部の事務総長を務めたりもした。やがて私は、独自の神智学を追求するようになり、アントロポゾフィー協会を、友人たちと共に立ち上げたのだ。その主な研究テーマは、"物質世界を超えた超感覚的世界"についてだった。それは、教育、芸術、医学、農業、建築、経済など、多方面に影響を与えるモノなのだ。そんな私の事を、"新プラトン主義者"などと、呼ぶ者も居るな。ニンゲンの内なる霊性は、宇宙の精神と結びついているのだ。ソレを皆が認識する事が肝要なのだよ。そのためにはまず、我々が地球環境と、調和しなければならない。環境破壊に繋がる過剰な開発や、戦争行為を、今後一切辞めなければならない。私は世の人々に、そう説いたりもして来た……ここまでで、何か質問が有るかね?」
「……その超感覚的世界が、アカシックレコードと繋がるモノなんですね?」
「その通り。そこにアクセスするためには、別にどこかの宗教のような、厳しい修行など必要無い。ただ一日に15分だけ、静かに集中する時間を持てば良いのだよ。そうすれば誰でも、超感覚的認識を持つ事ができるようになるのだ。東洋には確か、"明鏡止水"という境地が有るのだろう?ソレだよ」
「そうすれば、三次元世界に生きながらにして、誰でもアカシックレコードに手が届くとおっしゃるのですね?」
「そうだとも。まずはキミも、疑わずにやってみたまえ」
「ああ、そうそう、それともう一つ……」
「何でしょう?」
「我々の最期の敵は、"黒い顔の主"(ロード・オブ・ダーク・フェイス)だよ」
「……えっ?」
「そして我々は"大いなる白き同胞団"(グレート・ホワイト・ブラザーフッド・オブ・マスターズ)なのだよ、サン・ジェルマン君」
彼は最後にそう言うと、ニヤリと笑って見せた。




