⑬ 我々の敵とは
シュタイナーとの会合を終えて、自室に戻って来たサン・ジェルマンは、彼が最後に言っていた事について考えていた。
彼はあの後、我々の敵"黒い顔の主"は、"傲慢の霊"ルシファーと"物質主義の霊"アフマリンで成り立っているとも言っていた。
ルシファーは、「努力すれば人間の限界を超え、霊的能力を得られる」と、ニンゲンをそそのかす者。アフマリンは逆に、「精神と五感の領域だけを信じ、霊的な面を拒む」ようにニンゲンに仕向ける者。……そう言っていた。
つまりニンゲンの能力を過大評価させる者と、過小評価させる者。その両方が思考の敵だ、という事なのだろうか?
それに彼は、こんな事も言っていた。
「キミもタイムトラベラーなら、紀元前3万年のエジプトに行きなさい。きっと面白いモノを眼にするに違いないよ。」
取り敢えずサン・ジェルマンは、ソレを実行してみる事にした。
昼食を摂り、身支度を整えて、またポータブルタイムマシンに向かう。
詳しい日付は分からないから、以下のように勘で入力する。
彼は、まだまだ若かったのだ。
紀元前30000年3月3日
時刻14時00分
北緯29度58分
東経31度08分
目指すは、ギザの大ピラミッド前だ。
現場に到着した伯爵は、まず違和感を覚えた。
辺りの景色が、砂漠ではないのだ。
見渡す限り、一面に草原が広がり、水辺ではウシ科の動物や水鳥の類が、のんびりと休んでいた。樹木も細いが、まばらに生えている。
そうか。この時代はまだ、充分に降水量の有る、湿潤な気候なのだな。
サン・ジェルマンは、すぐに状況を理解した。
ただ彼は、振り返ってスフィンクスとピラミッドを見た時に、更に驚く事になったのである。
「何だ……コレは?」彼は思わず呟いた。
大ピラミッドは白銀に光り輝き、その表面は、ツルツルのピカピカだ。
それより何より、問題はスフィンクスの方だった。
勿論こちらも、ツルツルピカピカの新品同様だったが、まるで黒曜石のように真っ黒だった。そして顔が……ファラオではない。ましてやライオンでもない。コレはまるで……犬、いやキツネか?ああ、ジャッカルだ!つまりアヌビス神という事か。
そんな風に、何とか自分を納得させた彼が、ふと視線を右に移すと、更に更に、驚く事になった。何と、アヌビス神姿のスフィンクスが、もう一体そこに存在したのである!




