⑭ アヌビス神
二体のスフィンクス(今はアヌビス神であるが)は、まるで日本の神社の狛犬のように、大ピラミッドの前に、2体仲良く鎮座していた。
こうして見ると、確かに二体居る方が、何だかしっくり来る。
それに、身体に対する頭のサイズも丁度いいバランスに見えた。
というのも、サン・ジェルマンは、常々、スフィンクスの頭が、身体に対して小さ過ぎるのが、気になっていたのである。
しかし、古代エジプト人たちの美意識が、ソレに気づかない程、劣っていたとは思えなかった。このアヌビス神の顔なら、確かにジャストサイズだ。
ただ、あの長めの耳と鼻の部分が、いかにも壊れやすいパーツに思えた。この辺りは、地震の少ない地域だから、耐震性とか気にならないのかな?彼がそんな事を、考えている時だった。
右のアヌビス神像の前足の間から、突然ぞろぞろと出て来る多数の人影が有ったのだ。
ソレは身長が2m程の、蛇のような顔をした爬虫類族たちだった。
彼等は手に手に剣や槍を持ち、或る者は下から突き、また或る者は、上によじ登って武器を叩きつけ、アヌビス神像の耳や鼻を壊し始めたのだ。
最初のウチ伯爵は、余りの出来事に、あっけにとられて、ボンヤリそれを眺めていた。しかしやがて、沸々と怒りが湧いて来て、思わずその大きなトカゲニンゲンたちに向かって、ご丁寧にヘブライ語で怒鳴りつけていた。
「こら、やめろお前たち!何をやってるんだ!」
もうその時には、右のアヌビス神像の耳と鼻はすっかり削られ、彼等は左の像に移動していた。どうやら顔だけを、別のモノにするつもりのようだった。どうせコブラか何かの顔に、作り変えるのだろう。彼等は一斉に、サン・ジェルマンの方に振り返った。
「何だあ?ハダカ猿族の分際で!我々アラハバキに歯向かうとは、いい度胸だ。余程命が要らぬと見える」
その集団の隊長らしきトカゲ男が、こっちに近づきながら、キレイなヘブライ語で答えた。
思わず声を出してしまったが、多勢に無勢だ。それに相手は古めかしいとは言え、武器を持っている。ここは逃げた方が……伯爵は咄嗟にそう判断し、小型トランクのフタを開ける。
しかし折り悪く、時空ジャンプのための、バッテリーの残量が足りない……連続して使い過ぎたか。しまった万事休すだ!誰でもいい、誰か助けてくれる人は……?困り果てた彼は、心の中でSOSを出した。
すると出し抜けに、彼の耳元で、囁く声が聞こえた。
ソレは又もや、ヘブライ語だった。
「アナタ今、猫の手も借りたい気分かしら?」
ギョッとしたサン・ジェルマンが振り向くと、彼の背後に、金色の鎧で武装した大きな黒い猫が、不敵な笑顔を浮かべながら、オリハルコンの剣を片手に、立っていたのである。




