⑮ バステト神
「キミは一体……?」
サン・ジェルマンは、その黒い猫に問いかけた。
「アタシ?アタシは趣味で正義の味方をやっている、戦士バステトよ。貴方の心のSOSをキャッチして、時空を超えてやって来たの」
「……はあ?」
「で、どうする?助けて欲しいの?欲しく無いの?トラブルに介入する時には、必ず当事者の許可を頂く。ソレがアタシの流儀なのよ」
「……じゃあ、お願いします。是非!」
「了解、喜んで!」
「貴様ら、何をそこで、ごちゃごちゃ言っているのだ?ええい、まとめてやってしまえ!」
隊長の命令を受けて、その場にいた30名程のトカゲ男たちが、武器を手に、一斉に跳びかかって来た。それをたった一人で迎え撃つ黒猫は、まるで竜巻のような動きを見せ、あっという間に、敵を全員、戦闘不能にしてしまった。双方のチカラの差は、歴然であった。
「残るは、アンタだけね?」
ニヤニヤ笑いながら、トカゲの隊長に歩み寄る黒猫。
焦りを見せるトカゲ男。
「鬼神のように動き回る、金の鎧の黒猫……さては、貴様、バステトだな!?」
「今ごろ気づいても遅いのよ、アラハバキの隊長さん。どうする?その辺に転がっている仲間を連れて、大人しく退散するなら、命までは取らずに、このまま見逃してあげてもイイわよ?」
「……是非も無い。ええい、皆の者、引けい!引けい!」
隊長の掛け声を受けて、倒れていた者たちも皆、左のスフィンクスの前足の間に消えて行った。まるで右のスフィンクスが、この世界への入り口、左のソレが出口のようだった。
「まあざっと、こんなところかしらね?アタシ、とある友人との約束で、無駄な殺生は、出来るだけしないように心がけているのよ……って、アレ?貴方よく見たら、サン・ジェルマンじゃないの……でも、ちょっと若いか?」
事が済んだとたん、その黒猫は、色々と語り掛けて来た。
「如何にも。ボクはサン・ジェルマン伯爵ですけど……どこかで以前、お会いしましたっけ?」
「以前じゃないわ。これから会う事になっているのよ」
「……それは、一体どういう?」
「貴方もタイムトラベラーなら、物事を四次元的に捉えなさい。時空を旅する者にとって、同じ時間軸の、過去・現在・未来は、並列に俯瞰出来るモノでしょ?」
「はあ……そんなモノでしょうか?」
「……まあ、いいわ。次のSOSをキャッチしたから、アタシはもう行くわね。また逢いましょう!」
バステトはそう言うなり、目の前から一瞬で居なくなってしまった。
彼女はまさに、疾風のような存在だった。




