⑥ ほぼ冤罪
そもそもソクラテスの罪状は、冤罪まがいのモノなのだ。
だから、甘んじて刑を受ける必要など無いのである。
少なくとも、サン・ジェルマンはそう思っている。
彼は、"アテナイの神々を敬わず、若者を惑わした"という罪で告発された。最早ただの言いがかりだ。
しかし裁判で有罪となり、弟子たちの脱獄の勧めを断って、"悪法も法なり"の精神を貫き、4月27日に毒人参のジュースを飲んで、刑死する事が、史実となっている。
ソクラテスの、"問答法"による気づかせ方により、若者たちは"無知の知"(自分が何も知らないのだと気づく事)を自覚する。それを為政者に危険視された形だ。
当時の都市国家の指導者にとって、市民たちが要らぬ知恵をつける事は、邪魔になったのだろう。確かに、大人しくて従順な、信心深い者の方が、御し易い。
いずれにせよ、釈迦、キリスト、孔子と並び、四聖人と称される事になる彼が、このまま死んでしまうのを見過ごすのは、如何にも忍びない事ではある。
そこでサン・ジェルマンは、一計を案じた。
「……ソクラテス先生」
「何だ。用は済んだのだろう?早く帰りなさい」
「遠い未来の世界では、人々が人生の道に迷い、とても困っております」
(コレはウソではない)
「確かに先生の教えは、口伝により、弟子のプラトン様が書物として、後世に残しております」
「それでよいのだ」
「しかしやはり、先生ご本人から、直接教えを請いたいと望む者は、未だ数多く居るのです。そうでなくては、真理を得られないと思うのです。どうか、そういう迷える者たちを、見捨てないでやって下さい」
「しかしワシは、法を曲げてまで、生き延びようとは思わん」
「では、先生が死んでしまった後は、私の好きにしてよろしいですね?」
「ワシの死体をどうするつもりだ?……いや、どうでもいいか。どうせ魂の出たあとの抜け殻だ」
「ありがとうございます。確かにお約束しましたよ?」
「分かった。ならば死刑執行の直前に、風呂に入っておいてやろう。悪趣味なヤツめ。せいぜいキレイになった死体を、愛でるがいいわい……ただし、そこにはワシの魂は無いがな?ワシの魂は、遥か宇宙の彼方の、アカシックレコードと一体化するのだ!」
そんな訳で、サン・ジェルマンは、その場から一旦身を引く事になった。
彼はまた、ポータブルタイムマシンのスイッチを入れて、その場から姿を消したのである。




