④ ソクラテス
「いいね。もう絶対に、怪しげな事に手を出さないように!その約束を守る限り、私の弟子を名乗っても良いよ」
「……はい、必ずや」
「じゃあ、コレで私はここを立ち去るけど、くれぐれも行動を慎むように!私は"時の旅人"だ。どこからでも、キミの事を見ているからな」
サン・ジェルマンは、しつこく念を押すと、敢えてカリオストロの目の前で、消えて見せた。きっと今ごろ、眼を白黒させて居る事だろう。
それにしても、雪子さんは、どこまで計算した上で、あの地図に座標のメモを書いたのだろう?このカリオストロとの出会いは、色々と考えさせられた。
研究所で助手を雇う場合には、よくよく人選を考えねば。サン・ジェルマンはそう反省したのだった。つまり、遥か未来の世界で、杉浦鷹志を助手として迎え入れる時に、この時の反省が生かされているのである。
さて、彼は時空転移から戻ると、自室で一息ついた後、昼食をとった。
そしてまた、次の座標を求めて、地図を広げる。
最早、彼は、タイムトラベラーズ・ハイのようだ。
「よし、次はコレだな」
彼は一人で呟くと、ポータブルタイムマシンのフタを開いて、以下のように座標の数値を入力した。
紀元前399年03月27日
時刻00時00分
北緯37度58分
東経23度43分
目指すは、ギリシアのアテネにある、フィロパポスの丘だ。
そこに立地している、とある牢獄に居る、"彼"に会いに行くのだ。
そして場合によっては、マリー・アントワネット同様、いつか彼の事も、助けに行くつもりだ。
だが、そのためには、本人と対話し、その承諾を得ねばならない……特に今回の人物は、そこが問題だった。生半可な理屈は、軽く論破されてしまうだろう。したがって、素直かつストレートに、用件を切り出そう。サン・ジェルマンは、そんな覚悟をした。
因みに伯爵は、京子の事はキレイさっぱり忘れてしまったのに、マリー・アントワネット救出計画の方は、しっかりと覚えていた。そしてまた、左腕に着けた黒い腕輪の、光学迷彩の機能まで、ちゃんと覚えていたのである。
彼は腕輪の機能をオンにしてから、時空転移スイッチを入れた。
彼の姿は自室から消えて、次に現れたのは、とある刑務所の鉄格子の前だった。もちろん、牢獄を見張る者は居るが、光学迷彩のおかげで、伯爵の事は見えない。
サン・ジェルマンは、みずぼらしい布切れを被って寝ている、牢の中の人物に向かって、静かに声を掛けた。
「ソクラテス先生、どうかお目覚め下さい」




