⑰ 実体験
「サン・ジェルマン伯爵、キミはかつて、とある女性から、魂を時空の彼方に跳ばすための、瞑想法を学んだ筈です。」
尚もアヌビスは、囁く。
あれっ?ボクは彼に対してまだ、名乗ってないぞ?
伯爵は不意に訝しく思った。
恐らくソレが、顔に現れていたのだろう。
「別に怪しむ事はない。僕もバステトも、並行宇宙を旅する者として、過去、現在、未来を並列に俯瞰できるだけの事ですよ」
アヌビスは、そうつけ加えた。
「……瞑想法って?」
「なあに、簡単な事です。ただ静かに落ち着いて目を閉じる。それだけでいいのです」
伯爵は素直にそうしてみる。
すると、1分も経たない内に、彼の脳内に変化が起こった。
最初に見えたのは、小さな光のようなモノだった。
やがて、脳内に沢山の文字のイメージが流れ込み、更にそれは、走馬灯のような映像の連続になった。
サン・ジェルマンは、段々怖くなって来た。もしかしてこのまま、自分は死んでしまうのじゃないのか?という恐怖だ。それは、疑似臨死体験と言ってもいい。するとまた、隣でアヌビスが囁く。
「今貴方は、恐らく情報の奔流の中に居て、恐怖を覚えているところでしょう。そこで、今一番知りたい情報に、集中してみなさい」
伯爵が、彼に言われた通りにすると、脳がラクになった。見えて来たモノは、スフィンクスの成り立ち。ピラミッドの成り立ち。そしてエジプトのポータルを、最初に使った者たちなどだった。
そこまで見た時、ポンと肩を叩かれた。目を開けると、隣で黒い柴犬が笑っていた。
「如何でしたか?なかなか興味深い、体験だったでしょう?」
「……ええ、こんなに簡単に、瞑想状態に入れるとは、思いませんでした」
「この部屋は特別に、そうなるように設えてあるんですよ。言わば我々犬族の、科学技術の結晶です。しかし余りお見せし過ぎるのも、リスクを伴うので、今日のところは、一先ずこの辺で」
「凄いモノですね」
「ただ貴方には、優れた素養がある。少し訓練を積めば、この部屋に居なくても、今のような体験が可能になりますよ、きっと」
「それは……ボクの事を買いかぶり過ぎでは?」
「まずは出来ると信じる事です。信じて、行動した者には、与えられるのです」
アヌビスはとうとう、怪しい新興宗教の教祖のような事を言い出した。
サン・ジェルマンは、苦笑しながらも「ありがとうございます」と言っておいた。




