八撃目
魔獣の討伐隊に負傷者も増えてきて、このままでは邪魔になるだろうと一陣の冒険者達の待機所に向かった。
「トート!生きてやがったか!!」
「トートだ!」
「手前ぇビビらせやがって無事じゃねえかっ」
「いつ髪切ったんだ?」
待機所に居た冒険者達に次々と生還を驚かれトートは得意気に笑ったが、暫く再会を喜んだ後に単眼鬼が森の外に向かって来ている事を周りに共有した。
「そんなにデカいのかよ……」
「ギルドの方針はどうなんだ?」
「天幕で領主軍のお偉いさんと話してるんだとよ」
「生きて帰れるのか?」
流石に実物も見ていない内に逃げ出そうとする者は居なかったが、皆深刻な顔で話しだした。
「あらぁ、トートったら良かったわねぇ。森までお迎えが来てくれたでショ?」
「ケイさん」
「ルルちゃんも無事ね」
ケイに頭を撫でられながら無事を喜ばれたルルが少し照れ笑いで、トートを助ける為に魔獣の群れに道を通して貰ったのだとケイを褒め称えた。
「ケイさんの技、凄かったんですよ!あんなに広範囲の技なんて滅多に見られません!」
「あ〜……、悪ィな、ケイ。奥の手まで使わせちまって。実際コイツらが後少し遅かったら死んでたからよ」
「良いのよぉ、間に合ったならそれで。何なら赤毛のコの居る『小熊亭』で奢って頂戴な」
「……手前ぇも知ってんのかよォ……!」
トートの長い片想いは彼方此方でそっと見守られていたらしい。悶えるトートを放ってガーランドとケイは単眼鬼について話し合っていた。
「領主軍の奴等に丸投げでも良いんじゃねぇか?」
「流石にそれはギルドの面子を潰すわねぇ」
ギルドとしての方針が決まらぬ内に、どうやら単眼鬼の投げた木が前線付近に飛んで来た様だ。それにより緊急事態を知らせる笛の音が辺りに響いた。
箱馬車の上に乗っている魔法使い達が、木々の隙間から遠見の魔法で遂に本体を目視したらしく、その大きさにざわめきが広がっていった。
『一陣の方は二陣と入れ替わり、再び前線へお願いします!場合によっては前線を下げますが、変異種の片脚が負傷している事を鑑みて現状維持です!先ずは腕や脚を狙って動きを止めて下さい!』
ギルドからの全体連絡は無慈悲にも死にに行けと同義だった。だが、このまま見過せば人々の生活圏は確実に被害が出るだろう。
冒険者達にも重い雰囲気が漂い、中には自暴自棄に気付け用の酒を飲む者まで出始めた。
「ちっと魔石矢の補給が有るか聞いて来らぁ。……なぁに、単独の俺でも何とか逃げ切れたンだ。こんだけ人数居りゃあ何とか出来ンだろ」
トートが発した言葉は大きな声でも無かったが、不思議と良く通った。実際に変異種に追われて生きて戻った者が居るという事は、冒険者達に生還の希望を与えた。
「そうだよな……。これだけの人数が居る」
「もう片方の脚さえ動かない様に出来りゃあただの的だ!」
「回り込めさえすれば後ろからやれる!」
「森から出れば投げる物も減るだろ!」
口々に己を鼓舞する言葉を吐きながら、一陣の面々は死地の前線へと向かう。こそこそと逃げ出す者も居ないでも無いが、そういった者は別のギルドへでも行かない限り仕事を回して貰えなくなるだろう。
荒くれ達にも相応の通さなければならない筋というものが有るのだ。
「ガーランドさんっ、あの!」
魔法使い達の配置を抜ける寸前に、ルルがガーランドの左腕をがっしりと抱え込んで捕まえた。
この娘は二十代の女特有の慎みやらが本当に抜け落ちていて、困ったガーランドは助けを求める様にすぐ横に居たケイを見た。ケイは両肩をひょい、と上げるだけで面白そうな顔を隠しもせずに更に一歩距離を取った。完全に見世物を鑑賞する構えで、これによりガーランドに逃げ場が無くなった。
「ガーランドさん、手を貸して下さい」
「……あ?手?」
特に困る様な事を言われなかった安心もあり、左手はルルがしがみついて動かせないので、ゴツい革手袋の嵌めてある右手をひょいとルルの前に握手でもする様に差し出した。
「手なんかどうするんだ?」
「ありがとうございますっ。手袋外しますね」
「お、おう?」
ルルはぱっと抱き込んでいたガーランドの腕を離し、いそいそとガーランドの革手袋を外して空いた左手に渡してきた。
ガーランドの剣を扱うゴツい右手を捕まえてくるりと手の平を上に向けたルルは、何か呪いを口ずさみながら細い指でくるくると模様の様な物をその大きな手の平になぞり始めた。
皮膚の厚い男の手の平の上を、白く柔らかな女の指が擽るように踊る。
「――……っ」
比較的皮膚の薄い手首との境目を指が通ると流石に擽ったいのか、ガーランドの身体に少し力が入った。
母が子に歌う様に、恋しい相手に囁く様に柔らかな声で静かに唱えるルルは、普段の天真爛漫で元気な様子とは違い、いっそ神秘的ですらあった。その様子は年相応な大人の女性に見えて、ガーランド自身が『お子ちゃま』だと断じたルルと本当に同一人物か疑いを持つ程だった。
やがて呪いを唱え終わったルルが、その繊手でガーランドの手を掲げる様に持ち上げて、その若干弱い境目に恭しく口づけを一つ落とした。
「あらぁ!!」
「……――〜〜っ!?」
「よし!上手くできました!」
目を輝かせたケイの上げた歓声で、ルルに視線を奪われていたガーランドが我に返り自身の手を取り返すのと、ルルが満足そうに輝く笑顔を向けたのは同時だった。
「っな、なんっ?何しやが……っ?」
「?普通に亡くなったお祖母様から習った『おまじない』ですよ?きちんと帰って来ますようにっていう」
森の中で見せた頼り甲斐のある姿は吹き飛び、声をひっくり返す様はいっそ哀れだが、ルルは全くその動揺に気付かずにいた。
「これでちゃんと討伐を終えて帰ったら同じギルドで会えますよね?私も討伐頑張りますっ!」
「そうよねぇ、ワタシもちゃんと帰れる様に頑張るわ」
きゃいきゃいと街に帰った後の予定を話して盛り上がるケイとルルを見て、どっと疲労感を感じたガーランドだが、帰還を願われるのに悪い気がする訳もなく、自身の『おまじない』の掛けられた手をぐ、と握り込んだ。
「……帰るさ。今はあの街が俺の居場所だ」
手を大きく振りながら配属場所に走っていくルルを見送って、ケイとガーランドもまた前線に向かうのだった。
ふと見せるギャップは男女共ぐっとキますよね。
恋愛タグを足します。おっさんズの悶える姿が楽しいので……!




