五発目
ガーランドとルルを見送ったケイだが、起こした現象に見合った反動がその身に降り掛かっていた。急激に魔力が減った事による虚脱感に、無理をさせた肺も痛みが酷く、喉は傷付いて口内に血の味が広がっている。
(もうっ、ランディちゃん以外の頼みなら絶対こんな風に使ったりしないンだから!)
大物が出て来るまで発動させる気が無かった奥の手をこんな序盤の、しかも道を通す為だけに使う事になるとはケイは想定していなかった。だがその奥の手も、トートとガーランドの為には勿論だが、ルルの言葉があって当初の予定より更に威力を上げたのだ。
ガーランドに付いて行くと言ったルルを止めようとするケイに、ルルが切って見せた啖呵が思いの外気に入ったのだ。
『私だって自分の命を賭けて生きる冒険者の端くれなんですよ!自分の命の使い所は自分で決めます』
(綺麗な目でそんな事を言われちゃうんだもの。若い子を応援するのも年長者の務めじゃなぁい?……それに、ガーランドが一緒なら死にはしないでショ)
ぎこちなさが現れる歩みで後方の待機所に戻って行くケイに、今回一緒に来ていた年若い仲間が駆け寄って来た。どうやらケイの魔法の発動を察知して心配から探していたらしい。
「頼って貰えて、心配して貰える内が華よね」
傷めた喉からガサついた声で呟きつつ、自分の若かった頃はあんなに真っ直ぐ前を向けていただろうかと詮無き事を考えて、彼は二陣との入れ替えに備えて仲間達と休息を取るのだった。
一方走り出したガーランド達だがケイのお陰もあり、森まで残す所三分の一程まではそのまま進むことが出来ていた。だが、発動場所から距離を取れば取る程に威力は落ちるもので、先程からまともに動ける魔獣がちらほら現れ始め、ガーランドの牽制が始まっていた。
「ガーランドさんっ、さっきの、ケイさんのっ、何がっ、起きてたんですかっ?」
走るルルの前方に出て来た魔獣を一足で後ろから飛び越したガーランドが斬り捨てて、ルルの足を止めさせないままに再び森へ向かう。この辺りはまだ足元が血で泥濘んでいないので、ルルでもふらつかずに走れていた。
「ケイのあれは一族の固有魔法だ。あそこまで使える奴は他にお目に掛かった事が無ぇがな」
「ケイさんって、面倒見がっ、良いだけじゃ、無いんです、ね!」
斜め前方に居た魔獣が急に動きを取り戻してルルに向かって来たが、ルルの石礫の魔法で体に幾つもの穴が空けられ何も出来無いまま崩折れた。
「あいつが若造共の面倒を見れる実力が無けりゃとっくに孤立してるだろうさ。若いのを喰い物にしたい奴等は何処にでも居るからな」
「そ、なんですね!やっぱり、世界はっ、広いなぁ!」
「それだけの強さが生まれ付きな訳無ぇだろ。お前だって魔法の発動は早いし狙いも上手い。まだまだ強くなれるさ」
未だに息も乱さないガーランドから真っ直ぐに褒められ、ルルは上がっていた息が更に苦しく感じる程に恥じらい、それでも素直に喜んだ。
森が始まる辺りの疎らな雑木を走り抜け、数の少し減り始めた魔獣を時に倒し時に牽制しながら森の奥、短剣が飛んで来た方角へ二人は進んだ。平時は元気なルルも、もう話す余裕も無くなり呼吸もかなり苦しそうだ。
「おい、休憩だ。触るぞ」
一応ルルも若い女性だと配慮の言葉を掛けて、剣を納めたガーランドはルルの豊かな胸の下に腕を回して掬い上げ、大柄な身体に似合わず意外にも身軽に大木の上へ登って行った。
足元には例の変異種から逃げて来た中型以下の魔獣が彷徨いている。流石に初期の狂乱状態からは抜けた様だが、縄張りと違う場所で落ち着かない様子だった。
「っ、びっくり、しました。はぁ、……ガーランドさん、筋肉質で重たい筈なのに……何でするする、っ登れるんですか?」
「ああ?採集依頼だって有るのに木も登れ無ぇでどうするんだ?」
「私は無理ですぅ」
太い枝に座らされ、暫くして息が落ち着いてきたルルは、今になってガーランドの太い腕が苦も無く自分を抱き上げた事を自覚して、無駄に心拍数を上げていた。
(ガーランドさん、やっぱり凄い力……。手も凄く大きくて、私とは違って何か、何ていうかっ!)
一人悶々と考え込むルルを他所に、ガーランドは更に高い枝に登り、木々の枝の隙間から周囲を観察した。興奮した魔獣の声が聞こえて来た方角に目を凝らすと、地上からの投石が幾つか見て取れた。
(あそこか?矢笛の鳴った場所からかなり移動したな)
「おい、見つけたぞ」
「え!トートさんですか?」
「分からんが、多分な。……ほら、掴まれ」
ルルは木に登れないと言ったので降りられもしないだろうと、ガーランドが腕を差し伸べたが、ルルは遠慮したのか緩慢な動きで手を添えて来ただけだった。流石にそれでは落としてしまいかねない。
「降りて直ぐ魔獣共を散らさなきゃならねえ。それじゃ落とすから、もっとしっかりしがみ付け」
ガーランドに催促されたルルは一瞬躊躇ったものの、一度ぎゅっと拳を握り締めた後に、その太い首へ両腕を回して思い切りしがみ付いた。




