三撃目
氾濫に対応する為の拠点と森までの丁度中間辺りに討伐の為の前線が張られた。
後方に回復チームを中心とした補給部隊。その前に遠距離の魔法使い達や指示役。そして更に森に近くなると弓使いや比較的近距離の魔法使い。
そして最前線に、ガーランドの様な剣士や重戦士等の近距離攻撃を主力とする者や盾使い等がずらりと並ぶ。今の所は主力を一陣と二陣の二つに割って二交代制を組み、やや長期戦の構えにしてある。
無数の魔獣の気配を感じ始めた頃に、音を立てるのも構わず斥候の一団が次々と森から飛び出して来た。尋常では無い様子に一同が、訝しみながらも各々武器を構えるのと同時に、斥候達から切れ切れの息を無理やり飲み込みながらも報告が上がる。
「んぐっ、――大型の変異種だ!」
「デカいのが暴れてる所為でそれ以下の魔獣が逃げ惑ってっ……!」
「どーすんだよ!――早くしないと来るぞ!」
「変異種だと!?」
「どうするって!んなの俺が聞きてーよ!!」
「大型の相手なんか誰がするんだよ!」
ぴゅいぃぃぃぃぃぃぃ―――……!
恐慌を一掃する様に森の深くから矢笛が緊急の音を細く長く告げた。
「……トートっ!」
「嘘だろ!?……まだあんなに奥に居るのかよ!」
笛の音を聞き分ける耳の良い者達の中にはトートと同じギルドの者達も居たらしく、既知の弓使いの生存が絶望的な状況だと分かってしまい衝撃を受けている。
折しも弓使いの中では指折りの実力者の不在が、怖気付いた冒険者達に最悪のタイミングで知れ渡った。
「――おい、矢笛が放てるならトートは生きてるだろうが。それよりも……生きたきゃ構えろ。―――来るぞ!」
ガーランドの纏う静かな空気が、腰の引け始めた冒険者達の靴を再びしっかりと大地に着けさせた。先程まで漂い始めていた逃げ出そうとする空気は一旦落ち着きを見せた。
(まだ俺が短剣に掛けた祝福は切れて無え……。トート、帰って来いよ)
ガーランドの願いが紡がれる一方、森は騒がしさを増していた。今はこの場所ですら、魔獣の鳴き声や足音に枝葉を折られ荒らされる森の悲鳴がはっきりと聞こえてくる。
バキバキッ……!がさささっ…
『総員、前列の接敵まであと僅かです!』
「手前ぇら!準備は出来たか!―――稼ぎ時だ!!」
「「「うぉおぉぉおおお!!」」」
「臓物みせろぉあぁあ!」
「俺のツケの支払いぃぃぃぃぃぃぃ!」
「肉食わせろぉああ!」
「結婚記念日なんだぞ畜生が!!」
各々が自由の過ぎる気合の入れ方をして叫び、自らを、周囲を鼓舞する。木々の枝を圧し折りながら岩狼の小さな群れが飛び出して来たのを皮切りに、浅層に住む小型種や中型種、中層に出る様な特殊な小型種や矢鱈群れるものなど多種多様な魔獣が、巣を壊された蟻のような勢いで押し寄せて来る。
「おっるゥぁああ!!」
どごん!と大きな音を立てて突進する魔獣と大盾がぶつかり合う。一瞬動きの止まったそれに槍使いが鋭く一撃を放ち、刺さった穂先を捻って抜き去ると空いた穴から血が吹き出す。
投擲武器が見事に当たり足を止める魔獣に、剣士がここぞと踏み込み四肢の何れかが切り飛ばされる。
大槌が押し潰し、大剣が一刀で斬り潰す。弓が突き刺さり魔法が貫く。魔獣の血があっという間に溢れ肉が裂かれ骨ごと潰される。
溢れた血と臓物で足元が泥に変わり、瞬く間に前線に生臭い死の匂いが充満した。
鮮やかな連携や圧倒的な暴力性で次々と森から溢れた魔獣が屠られていく中、徐々に中層の中でも強力な個体や深層迄の魔獣も現れ出した。
『強力な個体は無理に応戦せずに中長距離から削って下さい!止められないなら信号を打ち上げて!』
ギルド職員や指示役達の魔道具による拡声も刻一刻と変わる戦況に響き渡る。
一陣と二陣の交代が指示され始めると、時間による疲労が溜まり、少し気を緩めてしまう。その瞬間には如何な屈強な冒険者でも綻びが生まれる。
「ぎゃっ!」
「ぐぉおおっ」
『ガーランドさんっ!このままじゃ右側前列が突破されます!』
「言われなくても聞こえてん……だよ!」
中央やや右寄りで剣を振るっていたガーランドに、ギルド職員からの名指しで前線補強の指示が出た。
指示を受ける前から魔獣にやられた奴等の声が聞こえていたが、今は中型に掛かりきりで動けない。ガーランドはその腹いせとばかりに、剣を片手に持ち替えて、腰にぶら下げてある収納から手製の聖水に漬けた太い鉄針を数本抜き出し、手薄な場所にいる魔獣へと鋭く放った。
結果、突き立った鉄針は見事魔獣の魔力を散らし動きを阻害してみせた。それを好機と遠距離からの攻撃が雨のように降り注ぐと、魔獣はまた一体周囲の骸の仲間入りを果たした。その直ぐ近くに居合わせた冒険者から思わずといった様子で安堵の吐息が漏れたが、その冒険者も気を取り直すとまた二陣との交代の為に周囲の敵を牽制し始めた。
ガーランドも相手取っていた中型を手堅く仕留めると、目に入りそうな汗を拭って息を一つ吐くとじりじりと周囲を散らしながら二陣と入れ替わった。
「はっ、はっ、は、……っ。ん?」
入れ替わりを終えた一陣の面々がそこかしこに休憩の為に転がっている場所で、同じく立ったまま息を整えているガーランドが、何かを感じ取ったのか、不意に背にしていた森の方へと身体ごと向き直った。
(トートに渡した短剣の気配か。――妙な速度でこっちに……っ!)
人間であるトートの移動速度を基準に考えていたガーランドに、精霊の助力を受けた短剣が文字通り矢の速さで真っ直ぐに突っ込んできた。
がぁんっっ!!
思わず跳ね上げたガーランドの剣に尋常では無い速度の短剣が弾かれ、大きな音を立てて火花を散らしながら空に舞った。弾かれた短剣は、役目を終えたかの様にその勢いを失い呆気なく地面へと転がった。




