教皇様の福音と、逃げられない放課後
お読みいただきありがとうございます。
一日空いてしまい申し訳ありませんでした!
魔獣を「無」に帰したサビアの前に現れたのは、神殿の最高権力者・教皇。
平和的(?)にクビをもぎ取ろうとするサビアでしたが、教皇の口から飛び出したのは、「重すぎる敬愛」でした。
もはや手遅れな聖女生活が幕を開けます。
魔獣が塵となって消えた広場には、今もひんやりとした静寂が漂っていた。
私は、憧れの眼差しを向けてくるリリィと、額を床に擦り付けて拝んでくる神官たちに囲まれている。
(あはは、帰りたい……なかったことにしたい……)
そんな私の願いも虚しく、奥の重厚な扉が開かれた。
現れたのは、真っ白な法衣に身を包み、慈愛の塊のようなオーラを放つ老人。この神殿の頂点に立つ人物――教皇猊下である。
教皇様は、粉々になった魔獣の残骸と、霜が降りた回廊を交互に眺め、リリィに優しく微笑んだ。
「リリィ様、我らが同胞を守ってくれてありがとうございます。その幼い体で、あなたはまさに、神が遣わした聖女にふさわしい高潔な魂をお持ちですね、そして、サビア様」
「は、はい」
私は返事をしながらも上の空で、ここからなんとか誤魔化せないか?としか考えていない。
しかし教皇様から私に向けられた眼差しは、熱狂的で、どこか狂信的な色を帯びていた。
(ええ……?こっわ……)
「あなたの大いなる力には感服しました。あなたがいれば、世界の憂いは濯がれ、輝き、この神殿もとこしえの楽園となるでしょう。あなたは我らが永劫に求めていた究極の守護そのものです。サビア様は、もはや『聖女』という既存の枠組みでは括りきれない、歩く聖域です」
教皇様のセリフはどんどん熱を持つ。そして早口である。あー、これ知ってるなあ、オタクが推しのこと語るときのやつだなあ。
私は嫌な予感がしてきた。
今日は簡単な審問と魔力テストを受ける予定なのだ。受けなければならないのだ。
「私たちの不手際で魔獣が解き放たれてしまった。しかしそこに、あなたという『光』があらわれた。感謝します。あなたをこの地に遣わしてくださった奇跡に。世界とは常に天上の」
私は永遠に続きそうな賛辞をさえぎった。
「教皇様、そのあたりになさってください。わたくしなどに言いすぎですわ。それより、予定通りテストを……」
私はこれから神を信じる子羊として振る舞い、魔力テストで(無)能力を見せなければ!
なにもかも手遅れな気もするが、あきらめるわけにはいかない。
「あなたにテスト?まさか、馬鹿馬鹿しいですなあ」
教皇様は大声で笑った。リリィもころころと笑っている。
……気が合うようじゃない、あなたたち。
「サビア様、リリィ様。あなたがたの気高さと謙虚さには感服しました。長らく魔物との拮抗を続けてきましたが、とうとう、この国に真の平和が訪れることでしょう。……エドワード司祭、早速明日からの準備を」
「かしこまりました」
背後で、あの「日だまりおじいさん」が嬉しそうに返事をした。
ああ、おじいさん、その節は、私を悪魔だと判定しないでいただき、ありがとうございました。
お元気そうでなによりです……。
私たちはケガはないかと再三確認され、早く休むようにと、手厚く送り出された。
◇
すべての計画がうまく行かなった私は、とぼとぼと転移ポートの石板に向かっていた。
足音が追いかけてくる。
「サビア様!」
振り返れば、そこには頬を上気させたリリィが立っていた。
彼女は、魔獣に襲われた時の恐怖なんてどこへやら、私を見上げて力説する。
「私、一生懸命頑張ります! サビア様みたいに格好よくて強い聖女様になれるように!」
「……ああ、ええ」
私は非常にやる気のない返事をした。
しかしリリィは感激とばかりに頬を染め、「図々しいことを言ってしまいました!」と恥じらっている。
(素直で、いい子だわね)
聖女確定で、今後神殿に通わなければならなくなったことには、溜息しか出ない。公爵邸に戻れば、今日の報告を聞いて大はしゃぎであろうお父様とお母様のことを思うと、泣きそうですらある。
(……でも、まあ、うん。後悔はしていないわ)
リリィは背中にやけどを負わなかった。
すばらしい結果だ。
たとえ今日の日が原因で、私が断罪されることになろうとも。
私は、リリィの肩を軽くたたいた。
「リリィさん、これからよろしくお願いします」
まばゆく輝きはじめた転移ポートの光に包まれながら、「あわわわわわ、はわ、ももももちろんです!!」と答えるリリィの声を、遠くに聞いた。
あー、これ知ってるなあ。オタクが推しと話してる時のやつだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、教皇様もリリィも「サビア様の強火オタク」と化してしまいました。
テストさえも「太陽に光っているか問うようなもの」と一蹴され、サビアは絶望しています。
次回、いよいよ本格的な「神殿通い」がスタート!
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