表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/12

はじめての登校と、予定外のヒーロー

お読みいただきありがとうございます。


ついに王都神殿へ訪問初日。

そこで待っていたのは、乙女ゲーム『アイロン』の光、ヒロインのリリィでした。


平穏に「無能アピール」をするはずだったサビアですが、目の前で原作の悲劇が幕を開けようとしています。

 アイザック公爵邸の離れにある、厳重に管理された一室。そこには巨大な円盤状の石板――古代遺物『転移ポート』が鎮座している。


「お嬢様、お気をつけて。王都の風は少し冷とうございますよ」

 

 執事のウォルターに見送られ、私は石板の中央に立った。

 神殿が送ってよこした真っ白な法衣姿だ。

 まばゆい光が、一瞬視界を塗りつぶしたかと思うと、次の瞬間には、私は高く澄み渡った鐘の音が響く、王都中央大聖堂の目の前に立っていた。


(……心の準備をする暇もない!容赦がない!)


 そこには天を衝くような大理石の柱が並び、ステンドグラスから差し込む七色の光が、磨き抜かれた床に幻想的な模様を描き出していた。

 神官たちに案内された「(インナー)聖域(サンクチュアリ)」の待合室。そこに、彼女はいた。

 

 愛らしいピンク色の髪を揺らす、同い年の超美少女。

 深紅の瞳はキラキラと輝き、少し垂れがちな目元のせいで、立っているだけで周囲を和ませるような愛嬌に満ちている。

 私と同じ法衣を着た彼女は、微笑みながら、ちょこんとお辞儀をする。

 

(……うわ、6歳のヒロインかあ。ちっちゃいのに、まさに神に愛されてるって感じ!)


 彼女こそが『アイロン』のヒロイン、リリィ・エヴァンス男爵令嬢。

 エヴァンス男爵領には転移ポートはないから、ここまでやってくるのは長い旅路だったはずだ。

 しかしそんな疲れは見せず、たった一人で神殿投げ込まれた恐れも感じさせなかった。


 これが「本物」……!


 声をかけるのは身分が上のものから。

 貴族のルールにのっとり、私は恐る恐る声を出した。


「こんにちは、アイザック公爵家のサビアです」


 リリィは(つたな)いながら、法衣の裾でカーテシーをする。


「サビア様、初めまして。私はエヴァンス男爵家のリリィです。先ほど、サビア様の美しい水晶の色についてお伺いしました。お会いできて嬉しいです」


(うーん、可愛すぎるな。でも水晶の色とか言ってるな。余計なことを聞いているようだ。名残は惜しいけど速やかにお別れしたい)


 神官が「では、教皇様へのご挨拶を」と私たちを促した、その時だった。


「――ぎゃああああっ!!」


 静謐(せいひつ)な神殿の空気を切り裂くような、悲鳴と怒号が遠くから響いた。

 瞬時に、静まり返っていた廊下が騒がしくなる。バタバタと走り回る神官たちの足音、甲冑を鳴らしながら駆け抜ける神殿騎士。


「居住区に魔獣が!」「防衛結界が破られたぞ!」


 回廊の奥からは、複数の魔導士たちが必死に杖を構え、後退していくのが見える。その向こう側、白亜の壁を破壊しながら、どす黒い殺気を放つ巨影がのぞいた。

 混乱する大人たちを余所に、隣のリリィが、迷うそぶりも見せずに走り出した。


「リリィさん!? どこへ行くの!」


「助けないと! あっちに、小さい子供がいました!」


(ちょっと待って! 行っちゃだめ――!)


 走り去るピンク色の髪を見て、私は『アイロン』の初期設定を、嫌なタイミングで思い出してしまった。

 

 リリィ・エヴァンスは、初めて王都神殿を訪れた際、暴れる魔獣から子供を庇って制圧する。

 けれど、その代償として彼女は背中を負傷し、それは一生消えない火傷の(あと)として残ることになるのだ。


 まあそこは乙女ゲームだから、そこまで広範囲でも、グロテスクでもないんだけど、彼女の心も含めた傷になることは間違いない。

 

 決して裕福とは言えない男爵家出身の彼女が、聖女として見出され、その高潔な精神を証明するエピソード。のちに攻略対象たちが、その傷跡さえも「慈愛の証」として愛おしむ、大事な大事な要素になる。


 けれど。


 (えーい、要素とか知るか!ケガなんかしないほうがいいし、まして傷なんて、残らないなら、残らないほうがいいに決まってるでしょ!)


 私は無意識に、重たい法衣をまくり上げて、リリィの後を追って駆け出した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


リリィの「慈愛の傷」は攻略対象たちの萌え要素……。

ですが、そんなメタな設定をサビアがぶち壊しに行きます。


六歳の子供が背中に火傷なんて、普通に考えて嫌ですよね。


次回、サビアの不吉な魔力が、はじめての「実戦」へ!

続きが気になる方は、ぜひ**【ブックマーク】や【評価】**で応援いただけると、サビアの足が速くなります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ