絶望の祝宴と、眠れぬ夜の決意
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前回のラストで、高名なエドワード司祭から「深淵なる救済の聖女」という二つ名を頂戴してしまったサビア。「魔力なし」の判定を受けて実家で引きこもる計画は崩れ去りました。
聖ヒロインとのエンカウント=処刑という最悪の未来を回避するため、彼女が考え出した次なる一手とは?
エドワード司祭が、再三の感謝と「神の祝福を」という言葉を残して神殿へ帰っていった後。
アイザック公爵邸は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
その夜、大広間で開かれたのは、急造とは思えないほど豪華な祝宴だった。
広間の中央には、お父様の許可を得た私設騎士団の幹部たちもおり、顔をほころばせて参加している。
「聖女様だ! 我が主君の娘御が、国を救う深淵の聖女様になられたぞ!」
「アイザック公爵家に栄光あれ! サビア様に乾杯!」
アイザック公爵家は代々武門の誉れ高い家系で、サビアの父も騎士団を束ねる立場だ。騎士団の面々たちは、みな自分のことのようにサビアの判定結果を喜んだ。
お父様は上機嫌で騎士たちの肩を叩き、お母様は何度も私の手を握りしめた。
(アハハハハ、浮かれ切っているわね、みんな……)
私は、主賓席に供された果実水を啜りながら、その喧騒を遠い目で眺める。
前世の記憶で言うならば、私は現在、「チベットスナギツネ」の顔をしている。
正直、あのおじいさん司祭が「狂っている」(ごめんなさい)のだとばかり思っていた。けれど、舞い上がる周囲を観察しているうちに、私はある重要な結論にたどり着いた。
乙女ゲーム『アイロン』のシナリオでは、魔力の「色」について詳しく言及されていなかったから知らなかったけれど、どうやらこの世界の水晶は、単に「白=善、黒=悪」という二元論ではないらしい。
(そういえば、さっき騎士たちが話していたわ。かつては『燃えるような赤』に光った聖女もいれば、『深海のような青』を示した聖女もいたって……)
水晶は魔力の属性とともに魂を反映する。つまり悪魔の魂があってこそ、一切の光を通さない、濁りきった「泥濘の黒」になるということなのだ。
司祭様が、私の触れた水晶が「紫や碧を内包した黒」だったため、悪魔ではなく聖女だと判断したのは、彼の頭がおかしかった(本当にごめんなさい)からではない。
(まあ、この体に入っている魂は「私」だものね)
少しだけ安心した。
悪魔の置き土産を抱えてはいるけれど、私は正真正銘、この世界の物理法則に則った「聖女候補」として認識されている。
(…でもなあ、魔力自体はあの子(悪魔)のなんだよなあ! 真っ黒なんだよなあ!)
◇
祝宴の喧騒が遠のき、ようやく自室のベッドに潜り込んだのは、深夜を回った頃だった。
窓から差し込む月光が、高級なシルクのシーツを照らしている。
流されるわけにはいかない。
このまま王都に行けば、間違いなくヒロインのリリィとエンカウントする。
光り輝く「本物」のリリィと、不吉な魔力を撒き散らす「偽物(?)」の私。
隣に並べば、いくら司祭様が「深淵の救済」なんて言おうとも、水晶の色を限りなく黒く塗りつぶす魔力の禍々しさに、怪しむ人たちもいるだろう。
リリィの『聖女の瞳』で見破られ、悪魔として処刑される未来が、暗闇の向こうから手招きしている気がした。
(王都に行きたくないわ。どうしよう。『使い道がまったくない無能』って思ってもらうべきだ)
神殿が、「ああ、こいつ、一つも奇跡を起こせない欠陥品だな」と判断してくれれば、私は晴れてクビになり、この公爵家に引きこもれる。
「……よぉし、見てなさい。王都に呼ぼうと思ったけどやめましたって、神殿に言わせて見せるわ」
期待させちゃってごめんなさいをさせてやる。
私は布団の中でぎゅっと拳を握り、決意を新たにした。
明日からは、いかに「無能」として振る舞うか。
サビア・アイザックの、「役立たずアピール作戦」が、今ここから始まるのだ。
最後までお読みいただきありがとうございます!
祝宴の熱狂の中で、一人だけ処刑フラグを察知して震えるサビア。
魔力適正検査を切り抜けたという安心感を得たのも束の間、彼女の思考は「いかにして無能のレッテルを貼られるか」に向かっています。
次回、サビアの無能アピールが(周囲の勘違いによって)さらなる奇跡を生む!?
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