気絶の果てと、美しき監視者
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鋭すぎる王太子ウルハラの追求を逃れるため、渾身の「気絶」をキメたサビア。
目の前で倒れたサビアを見て、ヒロイン・リリィが大激怒です。
私が意識を手放した(正確には、全力で現実からログアウトした)瞬間、地下聖堂は大騒ぎになった。
「サビア様ーっ!!」
鼓膜を突き刺したのは、リリィの悲痛な叫び声だ。
ドサリと石床に倒れ込んだ私の体を、リリィが小さな両手で必死に抱き起こしてくる。はらはらと大粒の涙をこぼし、ピンク色の髪を振り乱して泣きじゃくる姿は、庇護欲をこれでもかとそそる、まさに絵画のような可憐さだった。
「どうしよう、どうしよう……! サビア様、お目を覚ましてください! うう、うわぁぁん!」
「お、おい、泣くな、リリィ・エヴァンス。ただの魔力切れか、あるいは……」
「ウルハラ様のせいです! ウルハラ様がサビア様をいじめて、意地悪な目で睨みつけるから、サビア様が無理をして数百年の呪いを一人で全部吸い込んじゃったんだわ!」
リリィは深紅の瞳に涙をいっぱいに溜めながら、ウルハラを猛烈な勢いで睨みつけた。あの素直で大人しいヒロインが、ここまで感情を露わにして誰かを責めるなんて『アイロン』の本編でもそうそうない。
「なっ……。私はただ、事実を指摘しただけで……」
「リリィ様の仰る通りですぞ、ウルハラ様!」
ここで、腰を抜かしていた若い神官が、涙目でウルハラをたしなめ始めた。
「サビア様は、ご自身の身を挺してこの聖堂の呪いを封じ込められたのです! それを、悪しき力だなどと……っ。なんという慈愛、なんという自己犠牲の精神……! この神聖な奇跡を疑うなど、いくら高貴なお方とはいえ、あまりにも不敬にございます!」
(神殿の人たちって、基本こういうノリだわね。まあ今は乗っかりましょう)
私はピクリとも動かずに死んだ振りを継続した。
リリィからの直球の怒りと、神殿側からの非難を食らったウルハラは、しばらく沈黙していた。大変ご不満そうだ。
「……分かった。私の配慮が足りなかったことは認めよう」
認めていない。これは認めていない。
このお姫様(中身は王太子)、全く騙されてくれない。
◇
その後、私は神殿のふかふかのベッドへ運ばれ、そのままぐっすりと眠った。
許してほしい。朝が早かったのだ。
しばらくして、あーよく寝た、と思いながら目を覚ますと、枕元には、目を腫らしたリリィが付き添ってくれていた。
「サビア様! お気がついたのですね……!」
「ええ……。心配をかけてごめんなさい、リリィ」
内心、よだれが垂れていなかったか心配しながら、私は微笑む。
リリィは「よかったぁ……!」と再び涙をこぼした。本当にいちいち可愛い子だ。
しかし、感動の再会の余韻に浸る間もなく、部屋の壁際にスッと佇んでいた影が、静かに歩み寄ってきた。
「体調は、もう良いのですか」
ウルハラだった。
ベッドの傍らに立つ彼は、すらりと背が高く、ただそこにいるだけで部屋の空気が張り詰めるような気品を放っている。氷のように冷たい美貌は相変わらずだが、先ほど神殿側に怒られたせいか、その声音には少しだけ、刺々しさが抑えられていた。
「ええ、ウルハラ様。お騒がせして申し訳ありません」
私が殊更に「か弱い新米聖女」を装って小さく息を吐くと、ウルハラはしばらく私を無言で見つめ、それから、ふっと綺麗に整った長い睫毛を伏せた。
「サビア・アイザック。私はまだ、あなたを信じたわけではありません」
「……左様ですか」
「ええ。だから――しばらく、あなたと共にいようと思います」
「……は?」
ウルハラは、流れるような優雅な所作で私のベッドの前に跪き、青い瞳で真っ直ぐに私を見上げた。
「あなたのその力が、この国に益を成すものか、あるいは災いとなるのか。私のこの目で、隣で見極めさせてもらう。……よろしく、サビア」
(よろしく!?冗談でしょう!!)
リリィをかばって傷を負わないように立ち回った結果、ヒロインには狂信的に懐かれ、メイン攻略対象の王太子からは四六時中つきまとわれることになってしまった。
どうしてこうなるの。私はさめざめと心で泣いた。
私はただ何にも関わりたくないだけだ。それはそんなにも難しい願いなのだろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
神殿側からも怒られ、不満げに眉をひそめるウルハラ様。所作も容姿も完璧に美しい彼ですが、中身はまったく甘くない王太子です。
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