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呪いの地下聖堂と、冷徹なる美少女

お読みいただきありがとうございます!


数百年誰も解けなかった「呪いの地下聖堂」に連れてこられたサビア。

鋭すぎる王太子ウルハラに散々疑われています。

「サビア、申し訳ないが、私はあなたを全面的に信じていない」


 氷のように冷たい声だった。

 まばゆい金色の長い髪を揺らしたウルハラは、私やリリィと同じ六歳だというのに、すらっと背が高く、その立ち姿にはすでに完成された気品と冷徹さがある。


(うーん、顔は最高に綺麗なのに、目が完全に不審者を見るそれだわ)


 本来ならここでリリィのピュアな「光」に触れて一目惚れするはずの王太子様だが、どうやら初対面にして、私を「国家を脅かす危険人物」として完全にロックオンしてしまったらしい。

 善人だとも思われていないのは、その刺すような視線からひしひしと伝わってくる。


「あの……ウルハラ様、サビア様はとってもお優しい方なんです! 魔獣からも私を助けてくれて……」


 リリィがおずおずと私の前に出てフォローしてくれたが、ウルハラは彼女を一瞥し、冷ややかに遮った。


「リリィ・エヴァンス。強大な力を持つ者が、必ずしも人の味方とは限らない。私はこの目で、彼女の本質を見極める」


(王太子……。私は無害な転生者なんですよ。できれば悪しき魔女とか、聖女とか、そういうのとは関わらないで、家でお茶でも飲んでいたんですよ)





 案内された「呪いの地下聖堂」は、最悪の一言に尽きた。

 石造りの狭い聖堂は、じめじめとした冷気に満ち、中央の祭壇からはドロリとした濃い紫色の霧が溢れ出している。

 先ほどの若い神官が、青い顔で説明を開始した。

 さてはこの人、じゃんけんにでも負けたな?


「ここはかつて、邪教の儀式によって汚染された場所です。歴代の優秀な聖女様たちが幾度も浄化を試みましたが、すべて失敗に終わりました。ですが、先日の獄炎獣を消し去ったサビア様なら、あるいは……」


 私は頭を抱えた。あるいは……、ではない。


(歴代の優秀な聖女様たちが失敗した案件を六歳児に丸投げ。いくら乙女ゲームの世界といえど、子供の可能性を信じすぎている。確かに子供の可能性は無限大だけども。ロボットに乗って世界を救うのはいつも子供だけども)


 心の中で激しくツッコミを入れつつも、私はひとつ確認していた。

 

 ここで、この「呪いの地下聖堂」を、決して浄化してはいけない。

 

 たぶん私、浄化とかできないけど。でも浄化っぽいこともしてはいけない。

 とりあえずここはリリィを立てつつ、戦略的に撤退をするべきだ。


(リリィも正ヒロインと言えど、まだ煉獄獣は倒せないレベルだし、ガンガン押し出すと怪我させちゃうからね。『ああ、霧が強すぎて私の魔力が弾かれてしまいますわ! 怖い!』って言って、リリィを引っ張って泣きながら逃げ出そう。そうすれば、後ろの冷徹金髪美少女も、私への興味が薄らぐ!薄らげ!)


 私は祭壇の前に進み出た。

 背後からは、ウルハラの、すべてを見逃さないと言わんばかりの鋭い視線が突き刺さっている。


 私はあえて魔力を極限まで絞り、少しだけ、腹の底にある「あのどろどろ」を混ぜて指先から放った。


「――あ、ああ……! なんて禍々しい霧かしら! わたくしの力ではとても……!」


 膝をつき、渾身の演技で顔を覆う。

 しかし。

 私の指先から漏れ出たわずかな「深淵の魔力」が、紫の霧に触れた、その瞬間だった。


 シュゥゥゥゥ……ッ!!


 まるで、真っ赤に熱した鉄を冷水に突っ込んだような、激しい音が地下聖堂に響き渡った。

 祭壇から湧き上がっていた呪いの霧が、私の魔力に触れた途端、怯えるように激しく波打ち――そして、掃除機で吸い取られるように、私の指先へと「逆流」して消滅していった。

 いや、私には分かった。

 消滅したのではない。私の放った「より深い闇」に圧倒されて、喰われてしまったという方が正しい。


「……え?」


 リリィがぽかんとした様子でつぶやく。

 一瞬にして、地下聖堂の重苦しい空気が霧散した。

 残ったのは、からりと乾いた清潔な空間と、私の足元でパチパチと不吉に爆ぜる、お馴染みの紫色の火花だけ。


「浄化……された? 数百年、誰も解けなかった呪いの根源が、サビア様の溜息ひとつで……!?」


 若い神官が、驚愕のあまり壁に背中を打ち付けて腰を抜かしている。

 リリィも深紅の瞳を丸くして、「サビア様、すごいです……!」と胸の前で手を組んでいる。


 違う、違うの。私は失敗して泣き崩れる予定だったの。

 なんでこの呪い、私より先にビビって消滅してんのよ!


「いや、これは『浄化』か……?」


 背後から、凍りつくような声がした。

 振り返ると、ウルハラが、戦慄と強烈な疑惑を宿した青い瞳で私を凝視していた。


「今のは、圧倒的な『負』による力の相殺、あるいは捕食ではないのか?」


 (ひえええええ、するどいーーー!!するどい設定の王太子いやだーーー!!)


 ただでさえ冷たかった王太子の警戒レベルを、一気にマックスまで跳ね上げている。

 私はどう誤魔化そうかと頭をフル回転させたが、何も思いつかなかったので、とりあえずそっと目を伏せて。


 ――よし、気を失おう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


数百年の呪いの消滅に盛り上がるリリィと司祭。

しかしウルハラの慧眼に、サビアは強制終了する道を選びました。

倒れ込んだ彼女を前に、ウルハラとリリィはどう動くのか!?


面白いと思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価】**でサビアに冷たいお水(あるいは胃薬)を差し入れしていただけると嬉しいです!

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