第10-8話:ネクサス撤退と不穏な予兆
「撤退しろ、ネクサス」
突如、夜の闇の奥深くから、麗子の最も恐れるゾディアックの冷徹な声が響いた。
その声に呼応するように、ネクサスは機械的な動作で触手の拘束を解き、セイントレディを解放すると、一瞬にして濃霧の中へ姿を消した。
ドサッ、と冷たいアスファルトに崩れ落ちる麗子。
結果として、今回もクリスタルの押し込みは起きなかった。
彼女は冷や汗にまみれ、ロイヤルブルーのレオタードの胸元を激しく上下させながら、へたり込んで荒い息を吐いている。だが、駆け寄った俺の心にも、彼女の瞳にも、助かったという安堵の色は微塵もなかった。
ネクサスは、押し込みに失敗したのではない。
拘束の角度、張力の計算、そしてクリスタルが陥没する最悪のルート。それら『押し込むための完璧な準備とシミュレーションがすべて完了した』からこそ、帰還を命じられたのだ。
ゾディアックのあの声は、「舞台は整った」という残酷な宣言に他ならなかった。
ドサッ、とアスファルトへ崩れたあと、麗子の呼吸は整わなかった。ネクサスの触手はもうない。裾ゴムも、パンティ中央の石も、外からは動かされていない。それなのに、下腹部の一点だけが、夜の冷気より先に熱を取り戻していた。
第2章4話や第3章3話の感触だ。青の面の上から、硬い角が恥丘の一点へ沈み、翻訳された快感が臨界を超えたあの圧。教え子の記憶を突かれた羞恥と重なり、声が裏返った夜。石は今、押し込まれていない。光も、まだ消えていない。なのに身体は、完了した角度のシミュレーションだけで、あの絶頂の入口を先に開いていた。
胸の二つの頂点は、レオタードと同じ青のまま、うっすらと張ったままだ。彼女はそこを隠せず、荒い息のたびに生地を上下させる。安堵はない。ゾディアックの声は撤退ではなく、舞台が整ったという宣言だと、浮かない瞳の奥で分かっていた。
後年、すべての顛末を知る俺は、この第10章の一連の戦闘を思い出すたびに戦慄する。
この夜の戦闘は、次なる第11章で展開される『心と体の総取り』――ゾディアックの翻訳愛撫とネクサスの物理拘束が融合した、地獄の2体連携への、あまりにも明確で冷酷な前兆だったのだ。




