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第9-2話:ヒュノプスとの再会
「神代先生、本当にお疲れのようね。少し、私の部屋で休んでいかない?」
職員室の入り口で氷野にそう声をかけられた時、麗子は迷うことなく、その「安全基地」へと足を踏み入れた。
後年の俺の知識で再構成すれば、あの相談室のすべてが、一人の聖女を解体するための完璧な檻だった。外界の音を遮断する厚い扉、視界を煙らせる紫色のアロマ。麗子が座らされたソファは、身体を包み込むように深く沈み込み、彼女の逃げ場を奪っていた。
「ゆっくり息を吐いて。……そう、私の声のリズムに合わせて」
氷野は麗子の隣に座り、自らの呼吸を完全に麗子と同調させた。これは対象の自我を本体から切り離し、術者の意思を『自分の本能』だと錯覚させる、極めて高度な催眠誘導だ。
麗子の意識は、アロマの香りと共に深い霧の中へと沈んでいった。健一との約束も、教師としての重責も、霧の向こうへ遠のいていく。この時、麗子の肉体は、自らの意志を介さぬまま、戦闘態勢への『強制起動準備』を完了してしまっていたのである。




