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第7話:狂う安全基地
その夜。麗子のマンションを訪れた私は、顔面蒼白でガタガタと震えている彼女を、反射的に強く抱きしめた。
「麗子、大丈夫だ。もう戦いは終わった。俺がいる……ここにいるから」
私は懸命に声をかけ、彼女を絶望の淵から引き戻そうとした。しかし、私の腕の中で麗子の身体は、まるで岩のように硬直したままだ。かつては彼女を救ったはずの私の体温も言葉も、今の彼女のパニックを鎮めるにはあまりに無力だった。
その時、極限まで追い詰められた麗子の脳裏に、氷野先生の――ヒュノプスの『無理していませんか?』という、あの慈愛に満ちた声の記憶が蘇った。
すると信じられないことが起きた。健一である私の腕の中にいるにも関わらず、麗子の身体は、敵であるはずの女の声の記憶に反応して、フッと不自然に緩み、呼吸を整えてしまったのだ。
「……健一、ごめんなさい……私……っ」
麗子は私の腕をすり抜けるように離れ、視線を床に落とした。
最も信頼すべきパートナーである私よりも、正体を知らぬ「同僚」の言葉の方が、身体を支配する力が強い。その生理的な逆転現象に、麗子は自分自身の心が、もう自分では手の施しようがないほどに壊れてしまったことを、絶望と共に自覚した。




