65/75
第1話:布擦れの残響
ネクサス・バインドによる凄惨な「解析」と「多点拘束」から数日が経過していた。神代麗子の身体からは、あの冷たい触手の感触は消えたはずだったが、彼女の神経系には拭い去れない「毒」が深く沈殿していた。
翌朝、教壇に立つ麗子は、いつものように知的で厳格な英語教師を演じていた。しかし、タイトスカートを僅かに直そうとしたその瞬間、身体を戦慄が襲った。
ブラウスの滑らかな化繊生地が、胸の突起を僅かに擦っただけ。ただそれだけの日常的な物理現象が、彼女の脳内で「ネクサスの触手による一点集中愛撫」の記憶と瞬時に直結し、雷に打たれたような強烈な悪寒と熱を同時に引き起こしたのだ。
「っ……」
麗子はチョークを握りしめ、必死に呼吸を整えた。生徒たちの視線がある。敵はどこにもいない。誰も彼女に触れていない。それなのに、肉体は勝手にあの夜の「四肢を奪われた標本」としての自分をフラッシュバックさせ、防衛本能と快感が最悪の形で混線し、膝を小刻みに震わせる。
外部からの刺激が一切ない状況での、完全な『内因性発火』。自分の肉体が、自分の意志とは無関係に敵の刺激を勝手に「翻訳」し、再現し始めるという、逃げ場のない恐怖。麗子の正気は、一歩歩くたびに生じる衣服の微かな揺れによって、一削りずつ確実に奪われていった。




