第7話:クリスタル接触事件
ヒュノプスの冷たい指先が、下着越しにブローチで固定されたブルークリスタルの硬い角に触れた。その瞬間だった。
麗子の意識の奥底で、何かが弾けた。
「っ……!! さわらないで……!!」
叫び声は自分のものとは思えないほど掠れていた。淀んでいた視界が、まるで冷水を浴びせられたように一気に晴れる。気づいた時には、麗子は跳ね起きて、覆い被さっていた氷野を渾身の力で突き飛ばしていた。
無防備だった氷野の身体が、あっけなく床に転がる。
麗子はもう、氷野を見ていなかった。乱れたブラウスの前を震える手で掻き合わせ、青ざめた顔のまま、逃げるように相談室を飛び出していく。廊下に響く自分の足音さえ、遠く別人のもののように聞こえた。
──何をされていたの。私は、いったい。
考えがまとまらないまま、ただ足だけが動いていた。
一方、床に転がったままの氷野は、突き飛ばされた背中の痛みに一瞬顔を歪めたが、すぐにその表情は消えた。彼女はゆっくりと身を起こし、自分の指先をじっと見つめる。
そこには、微かな違和感だけが残っていた。
「……なるほどね」
低く呟かれたその声には、失敗を悔やむ響きは一切なかった。むしろ、何かを確かめるような、静かな満足があった。
氷野は乱れた髪を整えながら立ち上がり、閉じられたドアを見つめる。その視線の先に、逃げていった麗子の姿はもうない。
けれど、氷野の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。




