第5話:アロマの催眠と開発された突起
相談室に焚かれた紫のアロマが、甘く粘つく匂いで鼻の奥にまとわりついていた。氷野の声が低く響くたび、麗子の視界の輪郭がぼやけていく。抗わなければ、と思う頭の芯だけが、どこか遠くで小さく点滅していた。
「もう、無理して演じなくていいのよ」
耳元でそう囁かれた瞬間、身体から力が抜けた。抱き寄せられ、スーツの隙間から入り込んだ指が、ブラウスの上をゆっくりと這う。ただそれだけのことなのに、胸の先が布越しに触れられた途端、麗子の喉から堪えきれない声が漏れた。
──嘘。こんな、こんなに。
自分の身体が、自分のものではないみたいだった。指先がそこを掠めるたびに、腰の奥から何かがせり上がってきて、麗子は氷野の腕にすがりつく以外に何もできなくなる。やめて、と言いたいのに、開いた唇からこぼれるのは吐息だけだった。
恥ずかしい。おぞましい。それなのに、氷野の指が先端を軽く弾くたびに、麗子の身体は焦げつくように熱くなって、頭の中が真っ白に塗り潰されていく。嫌悪と快楽が同時に押し寄せて、どちらが本当の自分の感情なのか、もう麗子にはわからなかった。
「大丈夫。ここにいれば、誰も麗子を責めたりしない」
その言葉が、抵抗するべき呪いなのか、それとも救いなのか。判断する力さえ、麗子の中からは既に失われかけていた。ただ、氷野の腕の中だけが、今は唯一縋れる場所のように感じられてしまう自分が、たまらなく怖かった。
かつて教壇に立っていた凛とした麗子の姿は、もうどこにもない。そこにいたのは、与えられる愛撫にただ翻弄されるだけの、一人の女だった。




