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第3話:噂話と主体性の揺らぎ

昼休み。職員室へ戻る廊下で、スクールカウンセラーの氷野――ヒュノプスは、ごく自然な様子で麗子に並んで歩き出した。

「神代先生、昨日のネットのニュース見ました? あの『セイントレディ』のこと」

「……え?」

突然の話題に、麗子は歩みを止めそうになるのを必死に堪えた。

「最近の彼女の戦い方、SNSで変な噂になっているんですよ。腰をあんな風に強調して、艶かしく旋回させるなんて……正義の味方にしては、ちょっと恥ずかしくないのかしらって」

ヒュノプスは、麗子がセイントレディ本人であることを『知らないふり』をしたまま、第三者の無責任な噂話という体裁で、最も残酷な言葉を並べ立てた。

麗子が必死に「戦術」だと言い聞かせて蓋をしていた羞恥が、他者の目線によって暴かれ、言葉として突きつけられる。

「誰かの入れ知恵か、言いなりになっているみたいで……彼女自身の『主体性』が全く感じられないんですよね。自分で選んだ戦い方には見えないというか」

その言葉は、麗子の心臓を的確に、そして鋭く射抜いた。

「かの、彼女にも……っ、勝つための事情があったんじゃ……」

必死に反論しようとするが、声が情けなく震えてしまう。

ヒュノプスの言葉は、毒のように麗子の脳裏に浸透していく。

(……そうよ。あの戦い方は私が選んだんじゃない。健一の提案に流されて、ただ腰を振っていただけだわ)

『主体性の揺らぎ』が明確に浮かび上がった瞬間だった。

自分は誇り高き戦士などではない。男に言われるがまま、敵の前で恥知らずに肢体をくねらせただけの、意志のない操り人形だ。

「私は、自分で選んでいない」――その逃げ場のない自己嫌悪が、彼女の教師としての、そして戦士としての誇りを、音を立てて崩していく。

ヒュノプスは、そんな麗子の横顔を、柔らかな微笑みの裏で冷徹に観察していた。

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