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第7話 【守る理由】

第7話「守る理由」


季節が、わずかに移ろいでいた。


吹く風が少し冷たくなり、森の色もゆっくりと変わり始める。


この村へ来てから、気づけば半年が過ぎていた。


記憶は戻らない。


それでも、レイは確かにここで生きていた。



森の中。


一体の少し大きめの魔物が、鈍い音を立てて崩れ落ちる。


レイは短剣を払い、息を整えた。


「よし……終わりか」


かつては苦戦していた相手。


だが今は違う。


動きに迷いはない。

無駄もない。

焦りもない。


積み重ねた時間が、そのまま力になっていた。


「ほんと、強くなったよね!」


ミアが笑いながら駆け寄ってくる。


「……そうか?」


「うん! 最初の頃と全然違うもん!」


あの頃。


何度も父に叩き伏せられ、何度も泥まみれになっていた日々。


レイは小さく苦笑する。


「まあ、多少はな」


「多少どころじゃないってば!」


ミアは楽しそうに笑った。



帰り道。


二人で並んで歩く。


この距離も、今では自然だった。


会話も、沈黙すら心地いい。


「ね、レイ?」


「ん?」


「最初に会ったときさ」


少し考えるようにミアが言う。


「今みたいになると思ってなかったよ」


「……俺もだ」


正直な言葉だった。


ミアは少し照れたように笑う。


その時――


ガサッ。


空気が変わった。


レイの視線が鋭く動く。


「……ミア!」


低く呼ぶ。


振り向いた瞬間、奥の茂みが大きく揺れた。


現れたのは、いつもより一回り大きい魔物。


低く唸り、鋭い牙を見せながらこちらを睨んでいる。


「……っ」


ミアの表情が固まる。


(なんでこんなところに……!)


レイは一歩前に出る。


だが距離が近い。


魔物が地面を蹴った。


速い。


「下がれ!!」


叫ぶ。


ミアが動く。


だが、わずかに遅い。


間に合わない。


その瞬間――


レイが踏み込んだ。


考えるより先に身体が動く。


ミアの前へ割り込む。


刃を振るう。


――弾かれる。


「……っ!」


重い。


今までの相手とは違う。


だが――退けない。


連続で襲いかかる爪。


速い。

鋭い。


レイはかわす。


だが完全には避けきれず、腕を浅く裂かれた。


「……くそっ」


血が滲む。


それでも目は逸らさない。


(焦るな)


父の声が脳裏によぎる。


――無駄を削れ。


呼吸を整える。


見る。


動き。

癖。

踏み込みの間。


魔物が再び飛びかかる。


その瞬間。


レイは半歩だけ動いた。


最小の動き。


牙が頬をかすめる。


すれ違いざま、懐へ入る。


刃を滑り込ませる。


――深い。


魔物の動きが止まる。


そのまま崩れ落ちた。


静寂。



「……はぁ、はぁ……」


息が荒い。

心臓が速い。


「ミア!」


振り返る。


ミアはその場に座り込んでいた。


「……だいじょうぶ?」


声が震えている。


レイはすぐに駆け寄った。


「怪我は?」


「……ない、と思う」


その答えに、ほっと息を吐く。


次の瞬間。


ミアがレイの服をぎゅっと掴んだ。


「……よかった」


小さな声。


震えていた。


怖かったのだと、今さら気づく。


レイは少し戸惑いながら――


そっと、ミアの頭に手を置いた。


「……もう大丈夫だ」


自然と出た言葉だった。


ミアは小さく頷いた。



帰り道。


二人の距離は、少しだけ近かった。


「さっきの……かっこよかったよ」


ミアがぽつりと言う。


「ありがと」


「……そうか?」


「うん!」


照れたように笑うミアに、レイは視線を逸らした。



村へ戻る。


父が二人を見るなり立ち上がった。


「何があった」


短い問い。


「少し強いのが出た」


父の目が一瞬だけ細くなる。


「……そうか」


そしてすぐにミアへ視線を向けた。


「平気だったのか?」


「うん! レイが守ってくれたの!」


ミアが笑顔で答える。


父はそれ以上何も聞かなかった。


だが、その沈黙には多くが含まれていた。


夜。


レイは一人、自分の手を見る。


わずかに震えていた。


(……怖かったな)


正直な感情だった。


勝てるか分からなかった。

守りきれるかも分からなかった。


それでも――


(守れた)


その実感があった。


ミアの笑顔が脳裏に浮かぶ。


「……悪くないな」


小さく呟く。


守ること。


その意味を、少しだけ理解した気がした。



翌朝。


家の中。


父が静かに言う。


「レイ」


「そろそろいいだろう」


その一言で、空気が変わる。


「売れる素材も溜まってきた。王都に行く」


夜。


レイは再び外へ出て、空を見上げる。


王都。


かつては遠かった場所。


だが今は――


「……行けるな」


自然と、そう思えた。

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