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第4話 【初めての狩り】

第4話「初めての狩り」


朝。


窓から差し込む光が、部屋の床をやわらかく照らしていた。


レイはゆっくりと目を開ける。


昨日より身体は軽い。

痛みもかなり引いていた。


起き上がり、軽く肩を回す。


(……動けるな)


その時、扉が勢いよく開いた。


「レイ! 起きてる!?」


飛び込んできたのはミアだった。


いつも通り元気いっぱいの声に、思わず目を細める。


「朝ごはんできてるよ!」


「……朝から元気だな」


「えへへ!」


ミアは得意げに笑う。


その後ろから、ゆっくりと父親が姿を見せた。


相変わらず鋭い目つき。

無駄のない立ち姿。


ただそこに立つだけで、空気が少し張り詰める。


「体はどうだ」


短い問い。


「……昨日よりは動ける」


そう答えると、父親は小さく頷いた。


「なら、飯を食ったら森へ行くぞ」


「森?」


レイが聞き返すと、父親は淡々と続けた。


「昨日、自分の力を試すと言っただろう」


「口だけで終わるなら、それまでだ」


厳しい言葉だった。


だが、不思議と嫌な気はしなかった。


試されている。


そう感じた。


「……行く」


短く答える。


父親はそれ以上何も言わず、背を向けた。


ミアが少し不安そうにレイを見る。


「ほんとに行くの?」


「危ないよ?」


「……たぶんな」


正直に答える。


怖くないわけじゃない。


だが――知りたかった。


自分に何ができるのか。

何者なのか。


その手がかりを。


ミアはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。


「じゃあ、帰ってきたら今日のこといっぱい聞かせてね!」


「……ああ」


その何気ない言葉が、少しだけ嬉しかった。



朝食を終え、家の外へ出る。


森の入口には薄い朝霧が漂っていた。


湿った土の匂い。

葉を揺らす風の音。


村の穏やかな空気とは違う、張り詰めた静けさがそこにはあった。


レイは木剣を握り直す。


手に馴染まないはずのそれが、不思議なほどしっくりきていた。


隣には、ミアの父が立っている。


「……ここから先は、村の外とは違う」


低い声が静かに響く。


「油断すれば死ぬ」


脅しではない。

ただ事実を告げているだけだった。


レイは黙って頷く。


「今日は浅い場所だけだ」


「出るのは小型の魔物が多い。無理だと思ったら下がれ」


「俺がいる」


短い言葉。


それだけで、不思議と安心できた。



森へ足を踏み入れる。


枝を踏む音すら大きく感じる。


木々の隙間から差し込む朝日が、まだらに地面を照らしていた。


レイは自然と周囲へ意識を向ける。


どこに隠れられるか。

どこから襲われるか。

逃げ道はどこか。


考えようとしたわけではない。


気づけば、そうしていた。


(……まただ)


記憶はない。


なのに身体だけが、こういう場所を知っている。


「止まれ」


父の声。


レイは即座に足を止めた。


少し先の茂みが揺れている。


ガサ……ガサッ。


低いうなり声。


現れたのは、灰色の毛並みをした狼型の魔物だった。


鋭い牙。

地を這うような姿勢。

こちらを品定めする赤い瞳。


レイの喉が鳴る。


怖い。


だが――逃げたいとは思わなかった。


「行け」


父が短く言う。


「……俺が?」


「お前の力を試すんだろう」


厳しい声だった。


レイは息を吐き、前へ出る。


狼型の魔物が低く唸り、地面を蹴った。


速い。


一直線に喉元を狙って飛びかかってくる。


その瞬間。


レイの身体が動いた。


半歩横へ。


牙が鼻先をかすめる。


すれ違いざま、木剣を叩き込む。


鈍い音。


魔物は地面を転がるが、すぐに起き上がった。


「……浅い」


父の声が飛ぶ。


「倒す気で振れ」


レイは歯を食いしばる。


魔物が再び跳ぶ。


今度は二度、三度と連続で爪を振るってきた。


速い。

だが、見える。


身体が勝手に反応する。


かわす。

受け流す。

踏み込む。


気づけば懐に入り込んでいた。


「――っ!」


渾身の一撃を振り抜く。


木剣が魔物の頭部を打ち抜いた。


魔物は数歩よろめき、そのまま崩れ落ちる。


静寂。


風の音だけが森を抜けた。


レイは荒い息を吐く。


手が震えていた。


恐怖のせいか。

興奮のせいか。


自分でも分からない。


「……倒した」


初めて、自分の力で。


確かに、自分の手で勝った。



父が倒れた魔物へ近づく。


傷を確認し、短く頷いた。


「初めてにしては上出来だ」


その言葉に、胸の奥が熱くなる。


「……でも、さっき危なかった」


父は続ける。


「一撃目を当てて満足したな」


「敵が倒れるまで気を抜くな」


厳しい声。


だが、それは責めるためではなく、教えるための言葉だった。


「……ああ」


レイは真剣に頷く。


父は腰のナイフを抜き、魔物の素材を手際よく剥ぎ取っていく。


「こういうものが金になる」


「村で生きるにも、旅に出るにも必要な力だ」


レイは黙って見つめた。


昨日まで何もなかった自分に、初めて“できること”が生まれた気がした。



村へ戻る頃には、空はすっかり明るくなっていた。


入口で待っていたミアが駆け寄ってくる。


「どうだった!?」


父は無言で素材を見せる。


ミアの目が丸くなった。


「えっ、倒したの!?」


「……なんとか」


レイが答えると、ミアは飛び跳ねるように笑った。


「すごいじゃん!」


「やっぱりレイ、ただの変な人じゃなかった!」


「それ褒めてるのか……?」


思わず苦笑する。


昨日まで空っぽだったはずなのに。


この村へ来てから少しずつ、手の中に何かが増えていく。


居場所。

役目。

そして、自分にできること。


けれど同時に、胸の奥には別の感覚も芽生えていた。


(……俺は、どこでこれを覚えた?)


剣の振り方。

敵との間合い。

殺気への反応。


誰かに教わったはずだ。


だが、その顔は思い出せない。


空を見上げる。


青く澄んだ空の向こうに、自分の知らない過去がある気がした。


その答えに辿り着くためにも――


もっと強くならなければならない。


レイは静かに拳を握った。

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