第32話 黒の痕跡
第32話「黒の痕跡」
偽りの村の奥へ進む。
戦いの後だというのに、静けさは変わらない。
「……気配…ないな」
レイが周囲を見ながら言う。
「さっきので粗方出てきたんだろうな」
リンが短く返す。
トペミアが周囲を見回す。
「でも……まだ終わった感じしないよね」
「同感だ」
シェリが頷く。
その時。
「……あれ」
ルークが足を止める。
指差した先。
村の外れ。
木々の間に――小さな建物。
「倉庫か?」
チャコリアが目を細める。
他の家と違う。
明らかに新しい。
木材の色も、作りも浮いている。
「……こんなのあったか?」
レイが呟く。
「さあな」
リンが近づく。
「だが怪しいのは間違いない」
全員、警戒しながら進む。
扉の前で止まる。
鍵は――壊されている。
「中は相当荒れてるな」
レイが押し開ける。
ギィ……と嫌な音。
中は狭い。
木箱がいくつか並んでいる。
だが――
中身は空。
「……何もない?」
トペミアが呟く。
その時。
「いや、ある」
シェリが床を見る。
全員の視線が集まる。
黒い染み。
乾いたような、だが僅かに光る。
「これ……」
リノアがしゃがむ。
指を近づける。
「触っちゃだめだよ!」
トペミアが止める。
「……分かってる」
手を引く。
ルークが目を細める。
「……これ、さっきのやつと似てますね」
「黒い目の連中の中身か」
チャコリアが低く言う。
シェリが床を軽く叩く。
――コンッ
「……空洞」
「下か」
リンが即座に反応する。
床板を剥がす。
ギシ、と音を立てて外れる。
その下。
暗闇。
階段が続いている。
「どうやら……当たりだな」
レイが剣を握る。
下から、微かに匂いが上がってくる。
腐臭と、湿った空気。
「こりゃ最悪のパターンだね」
チャコリアが苦笑する。
「行くしかないでしょ」
トペミアが弓を構える。
ルークが頷く。
「後方支援、任せてください」
リノアが深く息を吸う。
「絶対油断するな……今度こそ、原因を断つ」
リンが先頭に立つ。
「行くぞ」
レイが続く。
シェリ、トペミア、チャコリア、ルーク、リノア。
一人ずつ、暗闇へ降りていく。
足音が、静かに響く。
そして――
最下層。
そこにあったのは。
床一面に広がる――
“黒”。
蠢く、液体。
呼吸するように脈打つそれは、
明らかに“生きていた”。
「な……なんだよ、これ」
レイが呟く。
黒いスライムの様な液体が、ゆっくりと形を変える。
集まり、
盛り上がり、
“形”を作る。
「……来る」
シェリが低く言う。
黒が持ち上がる。
人の形を模した、
だが明らかに歪な存在。
その中心で――
大きく脈打つ核。
ドクン。
ドクン。
心臓のように。
「……こいつが原因か」
リンが剣を構える。
ルークが後方で構える。
「魔力反応がかなり強いです……!」
リノアが顔をしかめる。
「さっきの比じゃない……」
黒い存在が、ゆっくりと“こちらを見る”。
目はない。
だが――確実に認識している。
そして。
口のようなものが開いた。
「……ミツケタ」
全員が構える。
空気が張り詰める。
リンが一歩前へ。
「……やるぞ」
レイが頷く。
黒いスライムが膨張する。
空間を埋めるように。
逃げ場はない。
次の瞬間――
それが、弾けた。
“核”との戦いが、始まる。




