第30話 偽りの村
第30話「偽りの村」
王城から半日。
土道の先に、小さな村が見えてきた。
【アヌマテ村】
煙が上がる家々。
風に揺れる洗濯物。
畑には収穫途中の作物。
一見すれば、どこにでもある平和な村。
だが――
(……違う)
レイは足を止めた。
「……どうした?」
リンが聞く。
「静かすぎる気がしないか」
短く答える。
ルークが周囲を見回す。
「人の気配が……ない?」
目に見える生活の痕跡。
だが、“人がいない”。
「……入るよ」
チャコリアが言う。
全員、警戒したまま村へ足を踏み入れる。
「こんにちはー!」
トペミアが声を張る。
返事はない。
風の音だけが通り過ぎる。
家の扉を開ける。
中には、食べかけの皿。
まだ温もりの残る鍋。
椅子は引かれたまま。
まるで――さっきまで誰かがいたような状態。
「……おかしい」
リノアが呟く。
「急に消えた感じがする」
「争った形跡はないね」
チャコリアが床を確認する。
「血もない」
シェリが低く言う。
「拉致か?」
「でも数が多すぎるでしょ」
トペミアが周囲を見回す。
村の奥へ進む。
井戸のそば。
広場。
どこにも――誰もいない。
「……なにこれ」
ルークの声が震える。
「気味悪すぎ……」
その時。
――コツ。
小さな音。
「……ん?」
レイが振り向く。
視線の先。
家と家の隙間。
暗がりの中。
“誰か”が立っていた。
「……村人?」
ルークが言う。
ゆっくりと出てくる。
男。
村人の服。
普通の見た目。
だが――
目が、黒い。
白目がない。すべてが黒。
「……あんた」
リンが一歩前に出る。
「大丈夫か?」
男は答えない。
一歩、近づく。
首が、ぎこちなく傾く。
「……うぉぉぉぉ」
雄叫びのような低い声。
その瞬間。
――ガタッ
――ドンッ
――ミシッ
周囲の家々から音がする。
「なっ……!?」
ルークが振り返る。
扉が開く。
窓が軋む。
中から――“人”が出てくる。
同じ目。黒い目。
「……全部、か」
レイが低く言う。
数が増えていく。
「……囲まれてる」
トペミアが弓に手をかける。
だが、指が止まる。
「……撃てない」
小さく呟く。
「あれ……人だよ……」
ルークも固まる。
「待てよ……もしかしたら……」
「来るぞ!」
レイが踏み込む。
刀の柄で首を撃つ
だが――倒れない。手ごたえがない。
ゆらり、と揺れるだけ。
「……おかしい」
その時。
「待って!」
リノアが前に出る。
「洞窟みたいにまだ“人”に戻せるかも!」
両手を広げる。
魔力が集まる。
「《マナ・リリース》――!」
光が広がる。
包み込むような浄化の魔法。
村人たちを飲み込む。
一瞬。
黒い目が揺れた。
「……あ……」
一人の口が動く。
「た……す……あぁぁ……」
「戻る……!?」
トペミアの目が見開かれる。
だが――
次の瞬間。
ビキッ、と体の内側から音がした。
「……ッ!?」
顔が歪む。
苦しむように、一瞬目が戻ったようにみえた。
だが…目が完全な黒に戻る。
バチンッ、と光が弾かれる。
「そんな……!」
リノアが息を呑む。
「効かない……!?」
「違う……!」
チャコリアが言う。
「効いてる。でも――中の“何か”が押し返してる!」
村人たちの体が膨らむ。
内側から、別の存在が蠢く。
「洞窟のスライムとはまた性質が違う…もうダメだ」
シェリが静かに言う。
「寄生じゃない。“置き換わってる”」
その一言で、空気が凍る。
「じゃあ……」
ルークの声が震える。
「助けられないってことですか……?」
レイが剣を握り直す。
「……ああ」
短く答える。
リンが前に出る。
「迷うな」
「今は敵だ、日和ったら死ぬぞ」
踏み込み、一閃。
黒い液体が飛び散る。
そして液体は蒸発した…
「次が来るよ!」
トペミアが叫ぶ。
だが動けない。
迫る黒い目。
「くっ……!」
ルークが歯を食いしばる。
「やるしか……ないんですか……!」
一体が飛びかかる。
レイが反射的に剣を振るう。
斬る。
崩れる。
「……っ!」
顔が歪む。
トペミアも矢を放つ。
一瞬、目を閉じて。
命中。
倒れる。
「ごめん……」
小さく呟く。
残りが一斉に動く。
「見つけた」
「見つけた」
「見つけた」
同じ声が響く。
リノアは歯を食いしばる。
震える手を押さえ、
「……支援、行く!」
詠唱に入る。
救えなくても、仲間は守る。
その覚悟で――
戦いが激化する。
“救えなかった者たち”との戦いが。




