第21話 紅の先
第21話「紅の先」
洞窟内部。
空気が、変わる。
リンの目が赤く染まった瞬間――
周囲の音が遠のいた。
いや、違う。
必要な音だけが、残る。
敵の気配。
動き。
殺意。
すべてが、はっきりと見える。
「……おせーな」
小さく呟く。
踏み込む。
その一歩で――消える。
「え……?」
ルークが目を見開く。
次の瞬間、
魔物が宙に舞っていた。
斬られたと理解する前に、絶命している。
だが――
もの凄いスピード
それでも敵は減らない。
魔物。
魔獣。
左右から押し寄せる。
「おい右、来るぞ!!」
「食い止めろ!!」
別パーティが叫ぶ。
前線がぶつかる。
衝撃音。
火花。
「くそっ……数が多すぎる……!」
「押されるな!!」
必死に耐える。
その時――
「下がるな!!」
チャコリアの声が響く。
「ここで崩れたら終わりだ!!」
全体を見ている。
戦場の中心で、流れを掴んでいる。
「コノミ!!」
「はいっ!」
「《ヒール・フィールド》!!」
光が広がる。
傷ついた者たちが息を吹き返す。
「助かった……!」
「まだまだ…!」
前線が持ち直す。
「今だ、押し返せ!!」
チャコリアの指示で流れが戻る。
その横で――
「トペ、もう一回上を取れ」
「はいよ!」
トペミアが跳ぶ。
高所を取る。
そこから一気に矢を放つ。
魔獣の目を正確に射抜く。
「デカいのは任せて!」
矢が連続で突き刺さる。
動きを止める。
「ジョカ」
クロージスが低く言う。
その瞬間――
影が動く。
ジョカが消える。
次の瞬間には、
魔物の背後にいる。
喉を裂く。
一切の音もなく。
処理。
「前は任せろ」
クロージスが前に出る。
剣を構える。
受ける。
流す。
斬る。
堅実。
崩れない。
完全に“壁”として機能している。
「リノを左抜ける!」
リンの声。
短く。
「了解!」
「《アーク・ブースト》!」
光が走る。
リンの身体がさらに加速する。
一段、速くなる。
一段、重くなる。
そのまま――突っ込む。
魔物を薙ぎ払う。
空間が空く。
「……なんだ今の……」
誰かが呟く。
「……スピードの次元が違うな」
レイが静かに言う。
視線が追いつかない。
だが分かる。
“圧倒的”。
「……あれが…バーサク」
シェリも目を細める。
認めている。
明確に。
その間にも――
戦場は止まらない。
「こっちが押されてる!!」
「援護くれ!!」
叫び。
だがすぐに――
「下がるな!!」
チャコリアが即座に指示を飛ばす。
「右に寄せろ!挟め!!」
動きが変わる。
崩れかけた戦線が、持ち直す。
「コノミ、右厚く!!」
「はいっ!」
光が集中する。
傷が塞がる。
倒れかけた者がまた立ち上がる。
戦える。
まだ戦える。
そして――
リン。
止まらない。
一歩。
また一体。
また一体。
すべてが“処理”されていく。
無駄がない。
ただ前へ。
巨大スライムへ。
「……再生してる」
レイが呟く。
斬れている。
だが戻る。
「核だ」
シェリが言う。
「中にある」
「ああ、わかってる」
だが――
今いるメンバーで近づけるのは一人。
リンだけ。
目前。
巨大な塊。
「……邪魔だ」
踏み込む。
斬る。
吹き飛ぶ。
だが再生。
止まらない。
「リンちゃ……!」
リノの声。
回復が続く。
だが顔色が悪い。
「まだ……いける……!」
無理をしている。
それでも止めない。
「まだだ、止めるな」
リンが言う。
短く。
そのまま――
突っ込む。
スライムの中へ。
「リン!!」
チャコリアが叫ぶ。
だが止まらない。
内部。
ぬるりとした空間。
視界は悪い。
だが――
「……見つけたぜ」
中心。
脈打つ核。
「これか」
腕を引く。
その時――
外。
「リンちゃ!!」
リノの声が震える。
「もう……限界……!」
膝が揺れる。
魔力が尽きる。
それでも――
最後の力。
「《ヒール》!!」
光が強くなる。
リンに届く。
その一瞬。
それで足りる。
「……いける」
リンが呟く。
そして――
一閃。
残像すら見えない速さ
核を断つ。
静寂。
次の瞬間――
崩壊。
スライムが弾ける。
魔物が止まる。
黒い目の者たちも崩れる。
完全な静寂。
戦いが、終わる。
その中で――
リンがよろめく。
「……っ」
崩れる。
「リンちゃ!」
リノが抱き止める。
「大丈夫……?」
「……問題ない」
息は荒い。
だが立っている。
リノが安堵する。
「……よかった……」
小さく笑う。
支える。
その光景を、
誰もが見ていた。
「……なんだよ、あれ……」
「一人で……終わらせたのか……?」
違う。
分かっている者は分かっている。
全員で繋いだ。
だが――
決めたのは、あの男だ。
レイはその背中を見る。
静かに。
「……すげぇな」
心から。
自然に出た言葉。
届かない。
だが――
目指したい。
そう思わせる強さ。
シェリもまた、同じ方向を見る。
「……面白いな」
小さく呟く。
ほんのわずかに、
口元が緩んだ。
戦いは終わった。
だが――
確かに何かが、
変わっていた。




