第18話 それは、粘りつく絶望
第18話「それは、粘つく絶望」
洞窟内部。
足元が、脈打った。
ぬかるみの奥。
確かに、“何か”が動いた。
「……下だ」
シェリの声。
レイも視線を落とす。
だが、見えるものは何もない。
「……気のせい、ですかね……」
ルークが呟いた、その瞬間だった。
ズルッ
「え?」
一人の冒険者の足が沈む。
体勢を崩す。
「おい、大丈夫か――」
手を伸ばした瞬間。
ぐにゃり
地面が歪んだ。
「なっ――!?」
足元から這い上がる、半透明の塊。
脚に絡みつく。
離れない。
「離れろ!!」
引き剥がそうとする。
だが、広がる。
腕に、首に、顔に。
「ぐっ……!?」
声が途切れる。
静まる。
「おい……?」
ゆっくりと顔が上がる。
目は、真っ黒。
次の瞬間。
剣が振るわれた。
仲間の肩を裂く。
「がっ……!」
「やめろ!!」
止めに入る。
だが止まらない。
力が異常。
まるで別人。
その背後から――
ガサッ!!
「っ、まだ来る!!」
魔物の群れ。
数が多い。
前からも、横からも。
「散開しろ!!」
ガルドの怒声。
だがもう、整った隊列はない。
魔物。
そして、
“操られた仲間”。
両方が襲いかかる。
「くそっ……!」
剣で魔物を弾く。
だが次の瞬間、
横から仲間の斬撃。
「っ――!」
ギリギリで受ける。
重い。
速い。
「なんでだよ……!」
迷いが生まれる。
その一瞬が、命取りになる。
別の場所。
「うわっ……来るな!!」
操られた冒険者が飛びかかる。
受けきれない。
刃が腹を裂く。
「がっ……!」
崩れる。
血が広がる。
さらに、
魔物がその隙を突く。
喉元へ――
「やめろ!!」
間に合わない。
噛みつかれる。
動かなくなる。
戦場が、一気に崩れる。
「レイ!」
ルークの声。
「《クイック・ステップ》!」
身体が軽くなる。
レイは踏み込む。
黒い目の仲間を叩き落とす。
殺さない。
だが――
次の敵はすぐ来る。
「……数が多い……!」
ルークの声が揺れる。
「下からも来てます!」
足元。
ぬかるみ。
そこから、次々と這い出る。
終わらない。
そして――
ぐにゃり
地面が大きく歪む。
盛り上がる。
現れる。
巨大な半透明の塊。
不気味にゆらゆらと揺れている。
「……中に……何か……」
ルークの声が震える。
その瞬間。
ドンッ
弾ける。
分裂。
無数に増える。
「っ……!」
飛び散る塊が、
再び人に絡みつく。
「離れろ!!」
だが遅い。
また一人。
また一人。
目が黒く染まる。
「くそっ……!」
完全に、
制御できない。
その時。
「――遅れてごめんね〜」
軽い声。
だが次の瞬間。
「《グランド・バースト》」
光が広がる。
全員の動きが引き上がる。
「……っ!?」
「待たせたね」
チャコリア。
そして――
「いきますっ!」
「《ヒール・フィールド》!」
コノミの魔法。
優しい光が広がる。
傷が塞がる。
呼吸が戻る。
遅れてきたFree fightのマスター、チャコリアと
メンバーのコノミだった。
「助かった……!」
「まだ動ける……!」
だが――
「……足りない」
シェリが低く言う。
実際に、
追いついていない。
傷は塞がる。
だが次の瞬間には、
また斬られる。
また噛まれる。
また倒れる。
「リノ!」
リンの声。
「援護!」
「任せて!」
「《アーク・ブースト》!」
光がリンを包む。
加速。
一気に前線を押し返す。
だが――
「回復も回します!」
リノが続けて魔法を展開する。
だが忙しい。
補助と回復。
両方を担っている。
「……間に合ってない……!」
ルークも必死に回復補助をする。
ルークが歯を食いしばる。
コノミの回復も、
リノアの支援も、
戦線を“維持するだけ”。
押し返せない。
「油断するな」
チャコリアが言う。
「これは長引かせる訳にはいかない」
その視線は、
すでに戦場全体を捉えている。
「本体がいる」
短い断言。
だが、
それを探す余裕がない。
前から魔物。
横から仲間。
下からスライム。
完全な混戦。
誰も余裕がない。
だが――
それでも、
戦うしかない。
崩れれば終わる。
ここで止めなければ、
全員、飲まれる。
戦いは、
まだ始まったばかりだった。




