第17話 違和感
第17話「違和感」
王都グランセル外、洞窟前。
ぽっかりと口を開けたその穴は、
まるで何かを飲み込むかのように、静かにそこにあった。
周囲には、すでに多くの冒険者たちが集まっている。
ざっと見ても――
二十人以上。
今回のレイドは、
最大三十人規模の任務として出されていた。
だが――
(……少ないな)
レイは無言で数える。
「……あれ?」
ルークも気づいたように周囲を見回す。
「思ったより人、いなくないですか?」
「三十人くらい集まるって話でしたよね……?」
レイは短く答える。
「……二十八だな」
「え?」
「今いるのは、それくらいだ」
「に、二人足りない……?」
ルークが首を傾げる。
「まぁ……遅れてるとかですかね?」
「……さぁな」
違和感だけが、静かに残る。
だが――
誰も深くは気にしていなかった。
その時。
「よし、聞け!!」
大きな声が響いた。
視線が集まる。
そこにいたのは、一人の男。
重装備に身を包み、
堂々とした立ち姿。
「俺はガルドだ!今回のレイドは俺がまとめる!」
ざわ、と小さく空気が揺れる。
だが、反論は出ない。
「前衛は俺たちが先導する!後衛は無理に出るな!」
「勝手な行動はするな!連携を意識しろ!」
荒いが、筋は通っている。
「……ああいうの、嫌いじゃないな」
レイがぽつりと呟く。
「え、そうなんですか?」
「最低限、形にはなる」
「なるほど……」
ルークが小さく頷いた。
その横で――
「……」
シェリは無言で見つめている。
評価は、それだけ。
そして――
「行くぞ!!」
号令と共に、
レイドが動き出した。
⸻
洞窟内部。
光はすぐに途絶えた。
湿った空気。
足元のぬかるみ。
どこか、生暖かい。
「……なんか嫌な感じですね……」
「気を抜くな」
その瞬間――
ガサッ!!
「来たぞ!!」
影が一斉に飛び出す。
魔物の群れ。
数が多い。
十、二十――それ以上。
「散開しろ!!」
ガルドの声。
戦闘が一気に始まる。
レイが踏み込む。
一閃。
一体。
続けてもう一体。
横からの牙を弾き、
間髪入れずに斬る。
「レイ!」
「《クイック・ステップ》!」
ルークの補助。
身体が軽くなる。
反応が上がる。
「……よし」
「任せてください!」
⸻
その頃――
別の入口付近。
遅れて現れる影。
二人
そのまま、
戦闘区域へと流れ込む。
⸻
「右、三」
短い声。
リン。
すでに状況を把握している。
その瞬間――
「《アーク・おブースト》」
リノアの声。
光がリンを包む。
踏み込みが一段速くなる。
「行ける!」
一歩。
踏み込む。
一閃。
二体同時に薙ぐ。
前線を押し上げる。
「ナイス〜!」
リノアが軽く笑う。
トペミアが横に動く。
「ほれ!」
矢を放つ。
正確に急所を貫く。
背後から迫る魔物。
――だが。
ジョカナスが音もなく処理する。
無言。
完璧。
「後ろ甘いぞ」
クロージスが静かに言う。
「うわ見られてた!?」
「当たり前だろ」
軽口。
だが連携は崩れない。
完全に“統率されたパーティ”。
⸻
戦闘は続く。
数は多い。
だが――
押している。
「……これAランクか?」
「数多いだけじゃねぇか?」
後方の別パーティ。
余裕が出始める。
笑い声すら混じる。
だが――
(……おかしい)
レイは違和感を感じていた。
斬る。
倒れる。
だが――
(軽い……)
手応えが薄い。
その時。
「……おい」
シェリの声。
「感触が変だ」
同じことを言う。
「え?」
ルークが顔を上げた、その瞬間。
「うわっ!?」
叫び声。
振り向く。
一人の冒険者が膝をついている。
「おい大丈夫か!?」
仲間が駆け寄る。
傷は浅い。
だが――
ゆっくりと顔を上げた。
目。
真っ黒。
「……え?」
次の瞬間。
剣が振るわれる。
「なっ――!?」
「やめろ!!」
仲間に向かって斬りかかる。
混乱。
「押さえろ!!」
取り押さえにかかる。
だが――
「力、強っ……!?」
異常な力。
止まらない。
「レイ!」
ルークの声。
レイは踏み込む。
斬らない。
叩く。
意識を飛ばす。
崩れる。
静まる。
「……なんだこれ……」
「……目を見ろ」
シェリが言う。
「黒くなっている奴がいる」
「こっちもだ!!」
別方向。
一人。
二人。
増える。
混乱が広がる。
敵か、味方か。
分からない。
その中で――
レイは足元を見る。
ぬかるみ。
その奥。
ほんの一瞬。
“動いた”。
「……?」
視線を落とす。
何もない。
だが――
「……レイ」
シェリの声。
「下だ」
その瞬間。
足元が、
わずかに脈打った。
まるで、
生きているように。
違和感は、
まだ正体を見せていない。
だが確実に、
“何か”がそこにいる。




