第16話 FreeFight
第16話「FreeFight」
王都グランセル、依頼管理所。
その奥にある、レイド参加者用の待機区画。
普段とは明らかに違う空気が、そこにはあった。
重い。
張り詰めている。
無言で武器の手入れをする者。
低い声で作戦を確認するパーティ。
鎧同士が触れ合う、鈍い金属音。
ここにいるのは――
経験を積んだ者たちばかりだった。
「……場違い感すごくないですか」
ルークが小声で言う。
声がわずかに震えている。
「気にするな」
レイは壁にもたれたまま、短く答えた。
「いや無理ですよ!?」
「明らかに強い人ばっかりじゃないですか……!」
その通りだった。
視線を向けられているわけではない。
だが、それでも分かる。
“格”が違う。
(……浮いてるな)
レイは静かに周囲を観察する。
その中で――
一人、目に止まる影があった。
長い槍。
無駄のない立ち姿。
どこか見覚えがある。
(……あの時の)
脳裏に浮かぶのは、王都へ向かう馬車。
すれ違いざま、外を見ていた女。
そして――
依頼管理所で見た光景。
Cランク依頼を、一人で完了させた存在。
群れ討伐。
本来は複数人で挑むもの。
それを単独で終わらせていた。
印象に残らないはずがない。
「……あ」
ルークも気づいたように声を漏らす。
「あの人……あの時の……!」
レイは歩き出した。
「え、行くんですか!?」
ルークが慌てて追う。
女の前で止まる。
「……なんだ」
低く、冷たい声。
「レイだ」
簡潔に名乗る。
女はわずかに目を細めた。
「……覚えている」
「馬車で見た」
「それと――」
一瞬、間。
「Cランクを二人で終わらせた奴らだろ」
ルークが目を見開く。
「やっぱり覚えられてる!?」
「噂は聞いてる」
淡々とした評価。
「は、はい! 僕もいました!」
ルークが前に出る。
女の視線が一瞬だけ向く。
「……」
それだけ。
それ以上の関心はない。
「お前は?」
レイが問う。
「……シェリ」
短い名乗り。
「シェリさんですね!」
ルークが言うが、返事はない。
「一人で行くのか」
「ああ」
「パーティーは組まないのか?」
「必要ない」
即答。
だが――
わずかに視線が動く。
レイがシェリを見ながら。
「……今回は別だ」
「レイドは単独じゃ非効率だ」
「最低限、役割は必要になるぞ」
「今回だけ共闘するだけだ」
「足を引っ張るなら切る」
レイは小さく笑う。
「ああ、わかった」
表情を変えずにシェリが答えた。
その時だった。
ざわ……と空気が揺れる。
「来たぞ……」
「FreeFightだ……」
自然と人の流れが割れる。
現れたのは――
十人に満たない少数のパーティ。
だが、その密度は異様だった。
通常、ギルドは数十人規模。
数で役割を分担するのが基本。
だが――
FreeFightは違う。
少数精鋭。
一人ひとりが前線に立てる実力を持ち、
その連携で戦う集団。
中心に立つのは、リン。
「……揃ってるな」
周囲を一瞥する。
状況把握はすでに終わっている。
隣にリノア。
「ほんとだね〜、人多いね」
「はしゃぎすぎるなよリノ」
「はいはーい」
「しっかり援護頼むぞ」
「任せて〜」
短いが、信頼で成立する会話。
そこへ――
「ねぇねぇリンちゃ!今回のレイドめっちゃ楽しそうじゃない!?」
明るい声が割り込む。
弓を背負った少女――トペミア。
だが今は弓には触れず、片手をひらひら振っている。
「数多いって聞いたしさ、暴れ放題じゃん!」
「……油断するな」
リンが淡々と返す。
「分かってるって〜!でもさ、こういうの燃えるじゃん!」
笑うトペミア。
その後ろで――
音もなく立つ影。
短剣を両手に持つ、無言の男。
ジョカナス
一切口を開かない。
ただ、周囲を観察している。
「……またトペがはしゃいでる」
穏やかな声。
クロージスが苦笑する。
落ち着いた雰囲気。
面倒見のいい空気を纏っている。
「ジョカも、もう少し抑えとけって顔してるぞ」
ジョカナスは無言のまま、わずかに肩をすくめる。
「ほら見ろ」
クロージスが小さく笑う。
「え〜!?ジョカそんなこと思ってたの!?」
トペミアが振り向く。
ジョカナスは何も言わない。
ただ視線を逸らす。
「絶対思ってるじゃん!」
「……騒ぎすぎだ」
リンが一言。
それだけで空気が締まる。
「はーい」
トペミアが素直に引く。
クロージスは軽く肩をすくめた。
「相変わらずだな」
「いいだろ、あれでバランス取れてる」
リノアが笑う。
「まぁね〜」
自然な連携。
自然な役割。
それが“完成されたパーティ”だった。
――だが。
「……遅いな」
リンがぽつりと呟く。
わずかに眉が動く。
「……まだ来てないのか?」
クロージスが周囲を見る。
「ギルドマスター、チャコリアがまだ来てないってよ」
別の冒険者の声が混じる。
空気がわずかにざわつく。
「またかよ……」
「なにやってんだあいつは……」
リンの声に、わずかな苛立ちが滲む。
「レイド前だぞ」
「締まらねぇな」
その空気を――
ふっと和らげたのはリノアだった。
「まぁまぁ、リンちゃ」
柔らかい声。
「チャコマスっていつもあんな感じじゃん?」
「でも結局ちゃんと来るし」
「……遅いだけだろ」
「それでも来るなら問題ないよ!」
くすっと笑う。
リンは少しだけ黙る。
そして――
「……まぁな」
短く息を吐いた。
完全に納得したわけではない。
だが、感情は収まっている。
それだけで十分だった。
「……あれが」
ルークが息を飲む。
「王国三番目に強いギルド……FreeFight……」
レイは静かに見る。
(まとまってるな)
個ではなく、“一つの戦力”。
シェリも一瞬だけ視線を向ける。
――すぐに外した。
興味はある。
だが関わる気はない。
「準備はいいか!」
奥から声が響く。
「これよりレイド会議をする!」
一瞬で空気が引き締まる。
レイは前を見る。
ルークは息を整える。
シェリは槍を握る。
リンは一歩前へ。
リノアが並ぶ。
トペミアは軽く肩を回し、
ジョカナスは静かに位置を取る。
クロージスは周囲を確認する。
それぞれの実力。
それぞれの役割。
それぞれの戦い方。
それが今、この場所で交差する。
洞窟へ。
その一歩が、踏み出された。




