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第15話 積み重ねの先

第15話「積み重ねの先」



王都グランセル、《銀の灯火亭》。


夜の酒場は、今日も賑わっていた。


鳴り響くジョッキの音。

焼けた肉の香ばしい匂い。

依頼帰りの冒険者たちの笑い声。


勝った者は豪快に笑い、失敗した者は酒で悔しさを流す。

そんな喧騒も、今のレイには少しずつ馴染んできていた。


その一角。


窓際の席に、二人の姿がある。


いつもの席。

いつもの光景。


「いや〜最近いい感じじゃないですか?」


ルークが酒杯を片手に上機嫌で笑った。


頬はほんのり赤い。

けれど目はしっかりしている。


「Dランクは安定してきましたし!」


「Cもこの前みたいにいけますし!」


勢いよく語るルークの向かいで、レイは水を口へ運ぶ。


「ああ」


短い返事。


だが、その声に否定はない。


――三ヶ月。


長いようで短い。

けれど、確かに二人を変えるには十分な時間だった。



最初から、楽な道ではなかった。


出会ってすぐに受けたのは、Cランクの群れ討伐。


常識なら四人以上。

経験者でも慎重に挑む依頼。


それを、出会ったばかりの二人で乗り越えた。


あの一戦が、すべての始まりだった。



それから先は、ひたすらに積み重ねの日々。


森の外縁での討伐。


単体、あるいは数体の魔物。


油断すれば傷を負う。

判断を誤れば命を落とす。


派手ではない。

だが、確かな危険がそこにはあった。


レイが前へ出る。

ルークが後ろから支える。


《ブースト》で身体能力を底上げし、

《ライトウォール》で死角を塞ぐ。


最初はぎこちなかった連携も、今では呼吸のように自然だった。


護衛任務もこなした。


街道を進む商人の馬車。


昼は盗賊。

夜は魔物。


休める時間などない。


暗闇の中で揺れる気配。

それが人か、獣か。


見誤れば終わる。


そんな張り詰めた時間の中で、二人は背中を預けることを覚えた。


レイが前方を見るなら、ルークは横を警戒する。

ルークが詠唱に入れば、レイが迷わず前へ出る。


言葉は少ない。


だが、互いの動きは読めるようになっていた。


さらに、森の奥。


魔物の数も質も変わっていった。


一体では終わらない。


二体。

三体。


囲まれることも珍しくない。


ルークの補助がなければ捌けない。

レイの剣がなければ突破できない。


だからこそ、二人で越えてきた。


「あの時やばかったですよね……ゴブリンの群れに囲まれたやつ」


ルークが苦笑する。


「……ああ」


「完全に死んだと思いましたもん」


「レイさん、普通に突っ込んでいくし……」


レイは無言のまま水を飲む。


「でも――」


ルークの声色が少し変わった。


「あの時、ちゃんと補助できましたよね?」


レイの手が止まる。


ほんの一瞬。


「……ああ」


短い返事。


だが、その一言だけで十分だった。


ルークの顔に、嬉しそうな笑みが浮かぶ。


最初は即席のパーティだった。


利害が一致しただけの関係。


だが今は違う。


レイは迷わず前へ出る。

ルークは迷わず支える。


タイミング。

距離。

呼吸。


言葉にしなくても、動きが噛み合う。


それが、今の二人だった。


「いや〜ほんと成長しましたよ僕」


「最初あんな震えてたのに」


「慣れただけだ」


「いやいや、才能ですよこれは!」


軽口が飛ぶ。


そのやり取りも、もう日常になっていた。



「……騎士試験、受けるんですよね」


ふと、ルークが真面目な声で言った。


酒場の喧騒が、少し遠く感じる。


王都に来てから何度も耳にした言葉。


騎士団試験。


年に二度だけ行われる選抜試験。

そこを突破した者だけが、正式に騎士団へ入れる。


例外があるとすれば――


戦場や任務で大きな功績を挙げ、王族から直接推薦される場合。


だが、それはほんの一握りの者だけに開かれた道だった。


レイは少し考え、静かに答える。


「……まだ、わからない」


「え?」


「興味はある。それだけだ」


ルークは意外そうに目を瞬かせる。


そして、自分の胸元へ手を置いた。


「僕は……なりたいです」


「騎士団に入りたい」


小さな声。


だが、はっきりとした意志がそこにあった。


「何でそんなに?」


レイが尋ねる。


その瞬間だった。


酒場の扉が勢いよく開く。


「大変だ!!」


店内の空気が一変する。


「依頼所が騒いでる! Aランクだ!!」


ざわめきが一気に広がった。


「Aランク……?」


ルークの顔が強張る。


レイは静かに立ち上がった。


「行くぞ」


「え、ちょ、ちょっと待ってください!」


慌ててルークも席を立つ。



――依頼管理所。


いつも以上の人だかり。


冒険者たちが押し合うように集まり、その中心を見つめている。


壁の中央。


一枚の依頼書が貼られていた。


――Aランク任務

洞窟内異常発生の調査および討伐


「なんだこれ……」


「ただの調査じゃねぇな……」


「魔物の数が異常らしい。中で何か起きてる」


不穏な声が飛び交う。


さらに別の男が低く言った。


「それだけじゃねぇ……」


「周辺の村にも魔物が流れてきてるらしい」


「被害が出始めてる……!」


空気が凍る。


ただの討伐ではない。


すでに外へ被害が広がっている。


「Aランクはレイドだろ……」


「単独や少人数じゃ無理だ」


「複数パーティで組んで挑むやつだ」


現実を突きつける言葉。


ルークが小さく呟く。


「……これ、僕たちには――」


その先は言えなかった。


レイは依頼書を見つめたまま動かない。


洞窟。

異常発生。

外へ溢れ始めた魔物。


胸の奥が、わずかに騒いだ。


まだ、誰も知らない。


この依頼が――

二人の運命を大きく動かす始まりになることを。

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