第14話 評価と報酬
第14話「評価と報酬」
夕暮れの王都グランセル。
赤く染まった空の下、レイとルークは冒険者ギルドへの道を歩いていた。
森での依頼を終えた二人の足取りは、行きよりも重い。
疲労。
緊張。
そして、初めて命を懸けて戦った現実。
その余韻が、まだ身体の奥に残っていた。
「……生きて帰ってこれましたね……」
ルークがしみじみと呟く。
「当たり前だ」
レイは短く返す。
「いや、全然当たり前じゃないですから!」
「僕、本気で終わったと思いました!」
「生きてるだろ」
「結果論ですぅ……」
情けない声に、レイは小さく息を吐いた。
だが、不思議と悪くない気分だった。
⸻
冒険者ギルドへ戻る。
中は昼と変わらず賑わっていた。
酒を飲む者。
依頼書の前で悩む者。
仲間と笑い合う者。
その中へ入った瞬間、何人かの視線がこちらへ向く。
新人二人。
しかもCランク依頼を受けて出ていった組み合わせ。
無事に戻ってきたこと自体、少し意外だったのだろう。
レイは気にせず受付へ向かった。
⸻
カウンターには、昼に対応した受付嬢がいた。
柔らかな金色の髪。
落ち着いた青い瞳。
整った制服姿。
忙しい空間の中でも、どこか穏やかな空気を纏っている。
彼女は二人を見ると、ほっとしたように微笑んだ。
「お帰りなさいませ」
「ご無事で何よりです」
ルークが小声で言う。
「この人です……昼に止めてくれた人」
女性は軽く頭を下げた。
「受付担当のセリスと申します」
「依頼達成の確認をいたしますね」
レイは討伐証明の素材をカウンターへ置く。
獣型魔物の牙。
爪。
セリスは丁寧に確認していく。
だが、その途中でわずかに目を見開いた。
「……想定数以上、ですね」
「群れだった」
レイが答える。
セリスは納得したように頷く。
Cランク依頼。
新人が受けるには危険度が高い依頼。
単体でも厄介な魔物。
複数出現の可能性。
負傷者が出てもおかしくない内容。
それを二人は達成して戻ってきた。
「……確認完了です」
やがてセリスは報酬袋を差し出した。
「依頼達成報酬はこちらになります」
ずしり、と袋が置かれる。
ルークの目が丸くなった。
「お、おお……!」
「こんなにもらえるんですか……!?」
「危険度の高い依頼ほど報酬は上がります」
セリスが丁寧に説明する。
「それだけ危険なお仕事ということです」
ルークは真顔で頷いた。
「……納得しました」
⸻
「それと、お二人の評価も更新されます」
「評価?」
レイが聞き返す。
「はい。依頼達成数や内容、信頼性などを記録する制度です」
「実績を積めば、受けられる依頼の幅も広がります」
実績。
父に言われた言葉。
騎士になるためにも必要なもの。
その一歩を、今確かに踏み出した。
セリスは穏やかに微笑む。
「初依頼達成、おめでとうございます」
その一言は、思った以上に胸へ残った。
ギルドを出る。
外はすっかり夜になり、街の灯りが石畳を照らしていた。
「すごいです……!」
ルークが興奮気味に言う。
「僕たち、本当に依頼達成しましたよ!」
「そうだな」
「しかも報酬まで……!」
袋を抱え、嬉しそうに笑う。
その姿を見て、レイは小さく息を吐いた。
「……腹減ったな」
ルークがきょとんとする。
「え?」
「飯だ」
短く言って、ギルド横の酒場へ視線を向ける。
冒険者たちの笑い声と、料理の香りが外まで流れてきていた。
ルークの顔がぱっと明るくなる。
「い、いいんですか!?」
「初報酬だろ」
「少しくらい使ってもいい」
「行きます!!」
さっきまでの疲れはどこへやら。
ルークは勢いよく歩き出した。
「転ぶなよ」
「転びません!」
言った直後、石畳につまずきかける。
「うわっ!?」
レイは呆れながらその背を見た。
王都グランセル、《銀の灯火亭》。
酒場の扉を開く。
熱気と笑い声。
焼けた肉の匂い。
鳴り響くジョッキの音。
生きて帰った者たちの場所。
レイとルークは、その喧騒の中へ足を踏み入れた。
まだ未熟な二人。
けれど今日、確かに一歩進んだ。
その小さな成功を胸に――
二人の夜が、今始まる。




