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第13話 はじめての共闘

第13話「はじめての共闘」


王都グランセル、冒険者ギルド。


昼の喧騒はまだ続いていた。


酒を飲む者。

依頼書を吟味する者。

仲間と作戦を話し合う者。


その中で、レイとルークは依頼掲示板の前に立っていた。


無数の紙が並ぶ壁。


そこには依頼ごとに文字と印が記されている。


F、E、D、C、B――。


「……ランク?」


レイが呟く。


ルークが横から説明する。


「依頼の危険度です」


「下からF、E、Dって上がっていって……」


「新人は普通、FかEから始めます」


「薬草採取とか、荷運びとか、街中の雑務とかですね」


レイは黙って聞いている。


ルークは指差しながら続けた。


「Dになると護衛とか、弱い魔物討伐」


「それで……Cランクから一気に変わります」


「一気に?」


「はい」


ルークの表情が真面目になる。


「単独行動が危険な魔物」


「複数出現の可能性」


「森の奥や危険区域での任務」


「死人が出てもおかしくない依頼です」


レイの視線が、一枚の紙で止まる。


森の獣型魔物討伐。

危険度――C。

報酬も周囲の依頼より明らかに高い。


「……これだな」


「え?」


ルークが固まる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「僕いま、“危ない”って説明したところですよね!?」


「聞いてたか?」


「聞いてましたよ!?」


レイは無言で依頼書を剥がした。


ルークの顔色が青くなる。


「新人がいきなり受ける依頼じゃないです!」


「普通はFです! せめてEです!」


「やるぞ」


短い一言。


「えぇぇぇ……」


受付へ向かう。


カウンターの女性職員は、依頼書を見て目を丸くした。


「こちら……Cランク依頼ですが」


「受ける」


「お二人とも登録したばかりですよね?」


「そうだ」


職員はルークを見る。


ルークは気まずそうに目を逸らした。


「本当に大丈夫ですか?」


「危険度が高く、経験者向けの依頼です」


「負傷者も出ています」


ルークが小さく手を上げた。


「あの……僕もそう思います……」


「ならやめるか?」


レイが聞く。


ルークは口をぱくぱくさせたあと、観念したように肩を落とした。


「……やります」


受付嬢は深く息を吐く。


「無理だと思ったらすぐ撤退してくださいね」


「生きて帰ることが最優先ですから」


その言葉とともに、依頼受注の札が渡された。



王都を出てしばらく。


石畳の道は土の街道へ変わり、やがて深い森へ続いていく。


依頼地は王都近郊の森。


レイとルークは並んで歩いていた。


だが空気は重い。


「……まだ間に合いませんかね」


ルークが呟く。


「何がだ」


「帰ることです」


「無理だな」


「ですよね……」


森へ入る。


空気が変わった。


木々が陽光を遮り、昼間なのに薄暗い。

風の音も消え、枝葉の擦れる音だけが耳に残る。


レイの目が鋭くなる。


「ルーク」


「は、はい!」


「周囲を見ろ」


「え?」


「怖がるのは後でいい」


ルークは慌てて周囲へ目を向ける。


震える手で杖を握り直した。


その時。


ガサッ――


茂みが揺れた。


「ひっ!?」


灰色の獣型魔物が飛び出す。


鋭い牙。

低い唸り声。

一直線の突進。


「下がってろ!」


レイが踏み込む。


父から託された剣が抜かれた。


爪が振り下ろされる。


半歩ずらしてかわし、そのまま横薙ぎ。


浅い。


だが勢いは止まった。


「ルーク!」


「は、はいっ!」


「補助!」


ルークは杖を構え、震える声で詠唱する。


「身体強化術式――《ブースト》!」


淡い光がレイを包んだ。


足が軽くなる。


レイは一気に間合いを詰める。


魔物が反応する前に、剣が閃いた。


――一閃。


首元へ深く刃が入り、魔物は崩れ落ちた。



「……や、やった?」


「ああ」


レイは剣の血を払う。


「今の補助、悪くなかった」


「ほ、本当ですか!?」


ルークの顔が明るくなる。


だが、その瞬間。


森の奥から低い唸り声が響いた。


一つではない。


二つ。

三つ。


ルークの顔色が変わる。


「……レイさん」


「なんだ」


「これがCランクです」


次の瞬間、周囲の茂みが一斉に揺れた。


三体の獣型魔物。


しかも先ほどより大きい。


左右へ散り、包囲するように迫ってくる。


「うそでしょぉぉ!?」


レイは剣を構え直す。


「下がるな」


「無理です!」


「できる」


短く言い切る。


ルークは震えながらも杖を握りしめた。



一体が飛びかかる。


レイが迎え撃つ。


だが左右の二体も同時に動いた。


(まずい――)


その瞬間。


「防護術式――《ライトウォール》!」


光の壁が展開される。


横から迫った一体が弾かれた。


レイの目がわずかに開く。


「……やるな」


「ぼ、僕だって必死です!」


レイは正面の一体を斬り伏せ、そのまま反転。


体勢を崩した二体目へ剣を突き立てる。


残る一体がルークへ迫った。


「ひぃっ!?」


尻もちをつくルーク。


牙が目前まで迫る。


間に合わない。


――だが。


レイが地面を蹴った。


全力で飛び込み、魔物ごと斬り飛ばす。


土煙。


そして静寂。


「……はぁ……はぁ……」


ルークがその場に座り込む。


「し、死ぬかと思いました……」


「生きてる」


「それはそうですけどぉ……!」


涙目で抗議するルークに、レイは思わず笑った。


自然な笑いだった。



討伐証明となる部位を回収し、二人は森を出る。


夕日が王都への道を赤く染めていた。


しばらく歩いたあと、ルークがぽつりと言う。


「……レイさん」


「なんだ」


「僕、足引っ張ってばかりでした」


「そんなことない」


「え?」


レイは前を向いたまま言う。


「最初の《ブースト》がなければ一体目は長引いた」


「《ライトウォール》がなければ囲まれてた」


「お前がいたから勝てた」


ルークが足を止める。


夕日に照らされたその目が揺れていた。


「……僕が?」


「ああ」


短い返事。


だが迷いはなかった。


「あとさんはいらない……レイでいい」


ルークはしばらく俯き、やがて拳を握る。


「……はい!」


今までで一番、強い声だった。


王都へ戻る道。


夕日が二人の背を照らしていた。


まだ未熟な剣士と、気弱な支援術師。


噛み合っているとは言い難い。


けれど――


確かに二人は、共に戦った。


それが最初の一歩。


いつか大きな道へ繋がる、はじめての共闘だった。

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