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第12話 【出会い】

第12話「出会い」


王都グランセル――。


人の流れの中を、レイは一人で歩いていた。


ミアと父が去ってから、初めての朝。


昨日まで隣にいた気配がない。

それだけのことなのに、街の音がやけに遠く感じる。


行き交う人々の声。

店先から聞こえる呼び込み。

荷車の軋む音。


王都は変わらず騒がしい。


けれど、自分の周りだけが妙に静かだった。


(……変な感じだな)


ぼんやりとそんなことを考えながら歩く。


気づけば、足が止まっていた。


視線の先。


ひときわ人の出入りが多い、大きな建物。


木と石で造られた重厚な外観。

入口の上には、大きな看板が掲げられている。


――《グランセル冒険者ギルド》


その文字を見た瞬間、ふと記憶がよぎった。




「王都に行くなら覚えとけ」


父の声。


まだ宿にいた頃のことだ。


「依頼を受けて金を稼ぐ場所がある」


「魔物討伐、護衛、採取……なんでもありだ」


淡々とした口調。


だが、その内容は現実的だった。


「腕があれば食っていける」


「逆に言えば――」


一瞬だけ、言葉が止まる。


「死ぬ場所でもある」



記憶が途切れる。


レイは小さく息を吐いた。


「……ここか」


目の前の建物を見上げる。


装備の整った者たちが、次々と出入りしている。


鎧。

剣。

槍。

弓。

杖。


明らかに“戦う者”の空気。


レイは迷わず、その中へ足を踏み入れた。


中に入った瞬間、ざわめきが耳に届く。


酒の匂い。

鉄の匂い。

人の熱気。


広い空間には多くの冒険者たちが集まっていた。


笑いながら酒を飲む者。

依頼書の前で相談する者。

武器の手入れをしている者。


その全員が、どこか鋭い。


一瞬だけ、視線が集まる。


見慣れない顔。

若い男。

腰に古い剣。


そんな値踏みするような視線。


だが――


すぐに興味を失ったように逸らされた。


(……まあ、そんなもんか)


レイは気にせず歩き出す。


壁一面には、無数の依頼書が並んでいた。


魔物討伐。

護衛任務。

薬草採取。

荷運び。


難易度も報酬も様々だ。


レイは一枚ずつ視線を走らせる。


どれなら今の自分でこなせるか。

どれなら実績になるか。


その時だった。


「……あの」


背後から、小さな声がした。


レイは振り向く。


そこにいたのは、小柄な少年だった。


年は自分と近い。


装備は軽く、杖と小さな荷袋だけ。

鎧もなく、いかにも頼りない。


目が泳いでいる。


「その……」


言葉を選ぶように口を開く。


「パーティ、探してて……」


声は弱々しかった。


「誰でもいいわけじゃないんですけど……」


「でも、全然組んでもらえなくて……」


困ったように笑う。


レイは少年を見つめた。


弱そうだ。


だが、それ以上に必死だった。


「……なんで俺に」


少年は少し困ったように頭をかいた。


「……なんとなくです」


「え?」


「なんか、話しかけても大丈夫そうだったので……」


レイは少しだけ呆れた。


適当な理由だ。


けれど、不思議と嫌な気はしなかった。



「名前は?」


レイが聞く。


少年は背筋を伸ばした。


「ルークです!」


さっきまでの弱気な声より、少しだけはっきりしていた。


「……レイだ」


その一言で、ルークの表情が少し明るくなる。


「僕、回復とか補助が少しだけ使えて……」


「でも、あんまり強くなくて……」


自信なさげに続ける。


だが次の言葉だけは違った。


「騎士になりたいんです」


その一言には、確かな芯があった。


レイの目がわずかに変わる。


(……同じか)


自分も騎士を目指している。


理由は違っても、進みたい先は同じだった。



「……依頼は?」


レイは壁へ視線を向ける。


ルークも慌ててそれを追った。


並ぶ依頼書の中に、一枚だけ残っている紙がある。


魔物討伐。


森の奥に現れた大型個体の討伐補助。


報酬は高い。


だが、危険度も高い。


他の冒険者たちは、その紙だけを意図的に避けているようだった。


「……それ、無理だと思いますよ」


ルークが小さく言う。


「新人が手を出す依頼じゃ……」


レイは無言でその依頼書を剥がした。


「えっ」


「やるぞ」


短く告げる。


「え、えぇ!?」


ルークが目を見開く。


「無理ですって!」


「死にますって!」


レイは振り返る。


そして、ぽつりと言った。


「死ぬなよ」


その言葉に、自分でも一瞬だけ止まる。


父に言われた言葉だった。


ルークも固まっている。


「支援、できるんだろ」


「……はい」


「ならやれる」


迷いのない目だった。


その視線を受けて、ルークは息を呑む。


しばらく黙ったあと――


「……わかりました」



さっきまで一人だった。


けれど今は違う。


隣には、不安そうな顔をした少年がいる。


「ほんとに行くんですね……」


「今さらやめるか?」


「やめませんけど……怖いです……」


「正直でいい」


レイが言うと、ルークは少しだけ笑った。



こうして二人は、パーティを組んだ。


まだ小さな一歩。


頼りない始まり。


けれどそれは――


確かに未来へと繋がる出会いだった。

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