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episode47  帝王

---from 帝王 side---


まさかっ? 


ボクは嫌な予感に襲われ走ります。


走るという行為をしたのは何百年ぶりでしょうか?

諸兄が現世から消えた、あの時以来かもしれません。


ボクは目的の部屋にたどり着きました。


その部屋は「地の国」から拝借しました「碑石の間」です。

「地の国」は実に有意義な研究をしていたのです。


それは「守護者」の研究です。

守護者が顕れるパターン、現れないパターン

守護者に喰われた場合の変化

などです。


よくもまあ研究したという印象。

この情熱がどこから来たのか知りたいところだけど・・・まあ今は蛇足かな。


そしてその研究の中に・・・

ボクにとって重要な研究があったんだ。

守護者に喰われ「魅入られた者」と変化したものを元に戻す。


そこにつながる研究を地の国はしていた。

守護者に喰われても死にはしない。

「魅入られた者」になるだけ


この「魅入られた者」への変化だけど、大きく二つになるかな。


一つ目は行動原理が変わる。

具体的には自身の「願い」が行動原理の一番になる。

それこそ理性の介在はない。


二つは「願い」実行のために超常の力を発揮するということ

それこそ「願い」を叶えるためなら、神の奇跡をこえるようなことも実現できるようになる。

ただし、その超常の力を発揮する条件は「願い」の実現のためだけなので、意識して超常の力を任意に発動することは難しい・


まさに「願い」に「魅入られた者」ってわけだ。


では?

この「魅入られた者」になったら生活できないのかというとそうでもないと私は考えている。


今のボクが正にそうだ。

逆に「願い」の力を利用し、乗りこなせばよい。


私の「願い」は・・・

かつてのよう三柱の兄達とまた現世で過ごすこと。


三柱の兄弟たちはボクを庇い、「魅入られた者」となってしまわれたのです。。

そして・・・

「魅入られた者」となった諸兄は現世から御隠れになってしまった。


「私たちのような強大なチカラをもった者が「願い」を最優先で動くと世界の均衡が崩壊するよ。」と諸兄らは言ってお隠れになったのです。


なぜっ!


世界の管理者・世界の統制者であるチカラを持つボク達が隠らなければならないのか!

「魅入られた者」になったからといって現世に迷惑をかけると決まったわけではない、世界の均衡を崩すと決まったわけではないというのにっ


私は諸兄の決断に納得いかなかったんだ。


そもそも


諸兄が「魅入られた者」になった原因はボクなんだよ。


ボクは世界の管理者・世界の統制者であるチカラを持つボク達以上の存在を許せなかった。

しかし、世は非常。

「理」というボク達以上の存在は実際には存在していたんだ。

忌々しいことにね。

ボクはね。その「理」を超えようとしたんだ。

そうだろう。

ボク達こそ至高。私たちを超える存在など認めるわけにはいかない。


結果、ボクは窮地に陥り、諸兄は「魅入られた者」になり、暴走を恐れた諸兄はお隠れになった。


その時から―

ボクの「願い」は諸兄の開放となった。


そのためには手段は択ばない。

世界の管理者・世界の統制者であるチカラを持つボク達に世界が従うのは当然のこと


その途上、「地の国」の研究のことを知った。

協力を渋った「地の国」だったけどね。そこは宰相ユミルにお願いして、結果的にその研究成果を拝借することができたよ。


そのボクが欲した研究成果こそ今、私がいる部屋なんだ。


この部屋。

この地底内に点在する「魅入られた者」となった者の「理性」を洞窟内からかき集めて、実体化し、碑石にすることができる。


素晴らしい研究成果だ。

「地底内」に「魅入られた者」の「理性」が別な形で点在しているという発見

その「理性」の集積方法

そして「魅入られた者」が「理性」を奪われているという仮説の実証。


全てが今のボクの欲しているものだ。


この部屋には「魅入られた者」となった者の碑石。

つまり「魅入られた者」の「理性」がここに集まっている。


当然、諸兄の碑石もある。

ああ、なんとお美しいお姿!


碑石となっても、理性のみだったとしても諸兄はすばらしい。


帝都にて諸兄に現世への復帰を願い、袖にされたとき。

絶望から諸兄の碑石を破壊しようとした衝動が沸き起こりましたが、同時に「それがお前の願いなのか?」という心の声が聞こえ、思いとどまって良かったと感じています。


ええ、ボクの願いはあの尊敬する諸兄の現世の復活。

彼らの理性を司る碑石を破壊すると、二度と現世に来てはくれないでしょう。

それはボクの「願い」と真逆の好意です。


は!

いけない。


諸兄の碑石に見とれていました。

ボクはこのためにこの部屋に来たのではありません。


ボクは視線を転じる。

そこには諸兄の碑石に劣る無様な碑石が並んでいます。


無残にも割れた碑石もある。


ヘドリアの副官。ダルの碑石もそう。

デビルフィッシュの副官 ライオンマン、そして・・・ミスクロウの碑石もそう。

ミスクロウはお気に入りだったんだけどね。


副官任命直後に早々にタイタンに倒されたファストの碑石もある。

この碑石は命と連動しているというのはファストが倒されたときに知った。

ファストが倒されたと同時に碑石が割れたからね。


ボクがカグヤが生きていると断言できるのも、これが理由。

カグヤの碑石は割れていないんだ。


私は更に視線を転じる。


・・・・。

・・・・。

・・・・。


嫌な予感はあたった。

ボクとともに同じ願いへ共に向かう同志であった、宰相ユミルの碑石が割れていた。


目を瞑る。


・・・・。

・・・・。

・・・・。


宰相ユミルはボクのことを私以上に理解し、

ボクの「願い」のために尽くし、

ボクのために手を砕き、手を汚すのも厭わず、

本当は戦闘も争いも苦手なくせに、氷の心を纏い・・・ボ、ボクの「後悔」を「願い」に昇華させるために無私の献身を・・・


ボクの目から雫が落ちた。


ココロが乱れる。


ああ、仮に「願い」が叶っても、それに尽力した宰相ユミル。

そなたがいなければ意味がないではないか!


ボクの「願い」は・・・


そこまで考えた時、ズキリの頭痛がした。

む?

これは?

やがてその頭痛は体全体にまで徐々に広がっていった。

ぬ? 動けない?

そんな馬鹿な。

この全てを超越するボクが頭痛ゴトキに倒れるなどと


くっ。

これから、最低でも宰相ユミルの仇であるレンジャーワンを討たねばならぬというのに。


ここまで思考が至った時、その痛みが消えた。

これは・・・?


まあ、よい。

ボク自身が前に進むためにもレンジャーワンは消す。

後のことは後に考えるとよい。


ボクは割れた宰相ユミルの碑石を手に取りその場を離れた。


---from 赤石 side---


うむ。いよいよである。

我が尊敬する姉の救出。


最初から困難は予想されたが、ここまでとは思わなかった。

というのが正直なところである。


リサ姉の遭難場所は未知のモンスターが現れる「魔石の洞窟」と呼ばれる洞窟である。

姉が魔石の研究者であり、そして最前線にての研究を欲した。

そして、それを実行に移し、「魔石の洞窟」内に研究所を設置した。


その研究所が地震に崩落。落下した。

これが始まりである。


通常の遭難と違い、未知のモンスターと呼ばれる好戦的な生物がいる未知の洞窟での遭難。

実際に捜索は困難である。


我が単独で姉の元に向かおうとしたとき、当時のリサ姉の上司である黒滝教授が組織した有志によるレスキュー部隊が救出にむかったが洞窟内のモンスターと遭遇。危機に陥っていた。


つまり遭難した姉を救出するどころか洞窟内のモンスターで苦戦していたのである。


更に「魔石の洞窟」内の脅威はモンスターだけではなかった。


驚くべきことに「魔石の洞窟」の奥には多数の地底国家群ともいうべき国々があった。

つまり人の営みがあった。

驚くべきことである。我らが住んでいる地面の下に国があり、人々が住んでいたという事なのである。


それはいい。


その国々の中にリサ姉の救出にて脅威となる存在があった。

地底帝国と呼ばれる存在である。

この帝国は地底国家群を攻めとっていたらしい。まるで戦国時代である。

そしてその野心は地底のみでとどまらず、地上にも向かった。

つまり、帝国は地上に向けて攻める姿勢をとったのである。


リサ姉を救出するために地下に向かう我ら

地上を征服せんと地上に向かう帝国。


衝突するのは必然であった。

実際に我も帝国四天王デビルフィッシュと


帝国が「地上」の存在を知ったのがリサ姉の遭難の原因にもなった崩落事故というのは何と理不尽な事であろうか。


このままではリサ姉の救出など困難を通り越して不可能になる。


だが、世の中は理不尽だけではないらしい。


ありがたいことに2つの希望があった。


一つ目はアオイである。

アオイは地底国家群の一つ青の国の王族であり、帝国四天王の一人

彼女が姉の救出有志に応募してきたのである。


なんでも、その理由がこのまま帝国四天王に在籍していると死ぬ未来が待っているということらしい。


それで地底の知識とモンスターと戦える力両方を活かせるレンジャー隊、つまり現レンジャーワンに応募してくれたのはリサ姉の救出に対し理不尽な障害があった我にとって希望であった。


アオイは魔法という不思議な能力をもっている。そのような未来を見通せる力があっても不思議ではない。

いずれにせよ。

地底国家の事情を知り、帝国四天王の一角でもある彼女がリサ姉の救出に参加してくれたというのは幸運以上のものである。


二つ目は山吹である。

彼はリサ姉の研究室の研究生という経歴の持ち主である。

リサ姉の研究室は「魔石の洞窟」内にあり、姉もそこで陣取り最前線で研究を行っていたが、それとは別に地上の大学内にも当然、研究室がある。


うむ。


研究所は大学内にあるのが一般的であろう。

いくら研究しやすいからと言って出城のごとく危険極まりない魔石洞窟内に研究所を設置するリサ姉が奇妙なのである。


もっともそのくらい常軌を逸したことをせねば、魔石の研究と言った前代未聞のことは無しえなかったであろう。


さすがは我が尊敬するリサ姉である。


そのりさ姉の研究室の研究員に山吹がいた。

山吹は魔石洞窟内の研究室ではなく大学内の研究所で研究を行っていた。

聞いたところによると魔石の洞窟から運び込まれる未知の物質の研究をしていたようである。


山吹はその研究から3つのドラウプニルを生み出した。

我が装着しているものである。

これにより地底のモンスターや帝国の戦士を超える武力を得ることができた。

この危険極まりない魔石の洞窟内での探索に必須の道具である。


このドラウプニルがあったからこそ、未知のモンスターどころか地底国家との衝突という理不尽な事があったが、乗り越えることができた。


だが。


世の理不尽はとどまる事を知らぬ。


単純にリサ姉を見つけて救出するだけである。

そう考えていた。


問題はモンスターや地底帝国であり、その問題はドラウプニルの武力をもってすれば対抗できる。

そう考えていた。


世の理不尽はもっと残酷であった。


リサ姉は魔石の洞窟内の研究所にいた研究者達とともに自ら脱出を図ったようである。

その行動力。

さすがはリサ姉である。


それはいい。

リサ姉のいた研究所は危険極まりない魔石の洞窟内にあるだけあって武装の類も充実している。

あとで把握したがタイタンの猛攻を籠城戦で防いだようである。


それだけの武装があれば洞窟内のモンスターは問題ないであろう。


だが、世の中は理不尽でできている。

リサ姉の前に立ちはだかったのはモンスターでも地底帝国でもなく「守護者」であった。


「守護者」は通常のモンスターとは違う。

それは相対してみて理解した。

洞窟の壁天井を破壊すると現れる。

まるで、洞窟の壁を守るかのように現れるため守護者と呼ばれるらしい。

もっとも、話をよくよく聞くと全ての洞窟の壁から必ず守護者が出てくるわけではないようである。


うむ。そうであろう。


魔石の洞窟は当然地下にある。

となると我らの立つ大地が実は魔石の洞窟の壁天井の可能性もある。


地上で地面を掘ったら、それが魔石の洞窟の壁天井であり、地上に「守護者」が出現した。という事件は聞いたことがない。


必ず出現するなら、土木工事や建築工事が盛んな地上は「守護者」で溢れかえっている。

実際にはそんなことはない。


また、アオイが言うには地底世界でも「発掘場所」と呼ばれる場所では壁を掘っても問題ないそうだ。

実際に我らも地上に近い魔石の洞窟を吹き飛ばしたり、垂直トンネルをつくったりしたが「守護者」は出てこなかった。


その「守護者」にリサ姉は理不尽なことに出会い、喰われたようである。


これは我の想像であるが、行動力があり知恵も回るリサ姉のことである。

脱出するために魔石の洞窟内を彷徨うのではなく、地上まで一直線に最短距離を移動するために洞窟の壁天井を破壊したのではあるまいか?


それで「守護者」を出現させてしまい「喰われてしまった。」


「守護者」は倒し方が分からぬと、倒すことが難しい。

我も「喰われかけた」ことがある。


「守護者」は他のモンスターと違うと何度も述べたが、その違いは我が考えるに「喰う」ということであろう。


生物だろうが、魔法だろうが何でも「喰う」のである

しかも「喰う」という行為自体が他の生物とは違う。


奴らは口を使わぬ。

なんと表現したらよいか


奴らは全身で喰らうのだ。


殴れば、その拳を体で喰らう。

魔法を放てば、その魔法を体で喰らう。


それゆえ奴らには武器は必要ない。

全身で抱き着けばよい。

それで敵を喰らうことができる。


山吹が外壁を破壊すると守るように現れ、敵を取り込むかのような動きをする「守護者」に対して「まるで白血球ですね。」と言ったが言い得て妙である。


であれば我らは魔石の洞窟から見るとばい菌ということであろうか?


それはともかく・・・

奴らの「喰く」という行為。

「喰った」後も他の生物と違う。


少なくと我が感じた限りでは。


我らも食事をとる。

栄養を得るためだ。筋肉をつくるタンパク質を。ミネラルを。ビタミンを、糖質などのエネルギーを得るためである。


「守護者」は違うようである。

食われても外見の変化はない。

倒される事は倒されるが、命を奪われるといったことは無いのである。


ただ


食われると


内面が大きく変化する。



自らの「願い」に忠実になる。

行動原理が変わる。


地底の人々は願いに魅入られたようになる事から「魅入られたモノ」と呼んでいる様である。


「守護者」の研究が進んでいた地の国では「守護者」に「理性」を食われるため、そのようになると考えているようである。


つまり「守護者」は肉のような物理的なモノを喰うのではなく「理性」の様な「内面的」なモノ。いや違うな「人格的」なモノを喰うようである。


ちなみに「守護者」に二度食われると完全に人格を喰われ「守護者」になるらしい。


我も一度だけ相対したことがある。

へドリアの副官 ダルがそうである。


ダルは過去に「守護者」に喰われていたらしい。


我らと帝都に向かう道中、当時、レンジャーワンを率いていた黒滝教授が迂闊にも不要な探求心をおこし「守護者」の卵に触れてしまう事故が起こった。


「守護者」の卵もまた「守護者」と同様の能力を持つ。

違いは歩けるかどうかだけのようである。


その黒滝教授を庇ってダルは喰われてしまった。


二度目である。


その後、ダルは完全に理性を失い暴走。我らに襲い掛かった。

「守護者」と同じ力をもって。


幸いにして「守護者」の対処法を知っていたアオイがいたおかげで助かったが、我も正直危いところであった。

何せ殴ったら、喰われてしまうのだ。

徒手空拳の我とこれほど相性の悪い相手はいない。


いずれにせよ。

リサ姉は脱出に失敗し魔石の洞窟を守る「守護者」に喰われ

「願い」に「魅入られた者」になったようである。


今も忘れもしまい。


魔石の洞窟を探しに探し、

地底帝国といった予想外の敵に遭遇し

研究所までたどり着くも、すでにリサ姉は脱出後でもぬけの殻。

姉から定期的に来ていたSNSもこなくなった。

帝都に向かう途中、「守護者」の大群と何故かそれを率いるようなリサ姉と思しき人も見かけたが「守護者」に阻まれ何も出来ぬ始末。


何と理不尽なことか!


更にはリサ姉からSNSで「探しに来るな」と連絡がくる始末。

おそらく、このSNSを流した時には「魅入られた者」になってしまったのであろう。

この時、リサ姉に拒否されたときの我の衝撃は今でも心に残っている。


当然、それで諦めるわけにはいかん。

「魅入られた者」風に言えば我の「願い」は「リサ姉の救出」である。


その後、いくばくかの幸運を得。

魔石の洞窟の壁に隠れていた全面が緑色に光る大空洞と呼ぶに相応しき部屋にたどり着いた。

そこは「守護者」の巣のように多数の「守護者」が蠢き。


その中央にリサ姉の研究所の同僚と思しき男がいた。

リサ姉と一緒に遭難した研究所の同僚がいる。

ということはリサ姉もいるということである。


我は我らしくもなく胸が高鳴る自分を抑えきれなかった。


もちろん、我らはレンジャーワン。

リサ姉の研究所で遭難した人々を救出するのが任務である。

即ち、この男も救助対象である。

ところがだ、この男と会話が成立せぬ。


「「「UUUUUU・・・引き返せ。ここに居てはならぬ。」」」

「「「UUUUU・・・。引き返せ。これ以上深入りするな。」」」

「「「UUUU・・・・・・これは『願い』」

「「「UUUUUU・・・『願い』に囚われるな。」」」」


このようなことを一方的に言われるだけであった。


おそらく、この元研究員の男。

守護者に数度喰われたのであろう。


その姿、雰囲気は二度、守護者に喰われたダルと同じである。

まさか、リサ姉も同じ状態になってしまったのであろうか?


早く確かめたい。


気が逸る

気が逸る


そして、おそらく、この緑の大空洞の奥にリサ姉がいる。

ここを突破し、リサ姉の安否を確認を確認したい衝動に駆られる。


しかし、この時は闖入者の乱入もありドラウプニルの力をもってしても「守護者」の群れを突破し、その奥を確認することは叶わなかった。


無念である。


しばらく心穏やかならぬ日々が続いた。


リサ姉はあの男のように「魅入られた者」どころか「守護者」の仲間入りしてしまったのではあるまいか?

もしくは果てたのではあるまいか?

澱みのような不安が常に我にこびりつく。

仲間の前では「リサ姉は「魅入られた者」になったことで魔石の洞窟で適応する体を手に入れることができたと考えている。これで生存率があがった。」と嘯いてはいたが内心は不安の塊であった。


その後、音沙汰が絶えていたリサ姉からSNSの連絡がきた。




-----------------------------------------------------------------

大丈夫か? 無理してないか?

早よ助けにこい。

と言いたいところだが、こちらでミスした。

ちょっと厄介なことになっている。

今は助けに来ない方がよい。というか今は来るな。

下手にくるとお前も知ってるだろうが守護者と厄介な事になる。


なに、不便は焼き鳥とポテトサラダが食えないくらいだ。

心配無用。


いいな、ふりじゃないから。絶対にくるなよ。


あと、もし分かればで良いがこの洞窟内に石碑が並んでいる場所があるはずだ。

それがわかったら教えろ。


------------------------------------------------------------------


正直、ほっとした。

アオイにいつも眉間に皺を寄せてるから表情がわからん。と言われるが我にも喜怒哀楽はある。

心配もする。心細くもなる。

しかしながら、それを表に出さぬのが漢であろう。


ふむ、強がりだろうか?


いずれにせよ。

このリサ姉のSNSは我を安堵させるに足りるものであった。


文面を見る限り、あの緑の大空洞の元研究員のように完全に自我を失ったわけではないようである。

あの元研究員は会話が成り立たなかった。


リサ姉がそのような状態であればという不安が常に鎌首をもたげていたが、この文面ではそのようなことはあるまい。


ただし、楽観はできぬ。

「厄介なことになった」「今は来るな」「ミスをした」という文面からは何らかのトラブルに遭遇したと覚悟を決めた方がよかろう。


少なくとも「魅入られた者」と化したことぐらいは覚悟せねばならぬ。


守護者の巣とも考えられる緑の大空洞の奥にいると思われるということ

リサ姉と一緒にいた研究員と思われる人間が数度喰われたと思われる状態であること


このことから冷静に考えると、非常に無念だがそのようになっていないとおかしい上場であることは間違いないと言わざるをえまい。


だだ、さすがはリサ姉である。


正直、リサ姉の今の状況は、パニックになってもおかしくはない。


その中で、リサ姉は研究を続け課題解決の道を模索しているらしい。

碑石のことを書いているその一文でリサ姉がパニックにならず研究者らしく、打開策を研究していることは理解できた。


この碑石。


地の国の王が言うには「魅入られた者」と化した者の「理性」だという。

地の国の研究の結果「守護者」は人々の「理性」を「喰らい」「魔石の洞窟」へ送っているのだという。

そして地の国では「魔石の洞窟」内に取り込まれた「理性」を「碑石」という形で抽出することに成功したらしい。

「らしい。」というのは、その「理性」を抽出する部屋が帝国に奪われているためである。


いずれにせよ、ここでリサ姉のSNSにあった碑石の話とつながる。


リサ姉も独自の研究でそこにたどり着いたのであろう。

己の理性が碑石として、この魔石の洞窟内のどこかにあるということに。


であれば我はそれを取り戻すだけである。


幸いといってよいかどうかはわからぬが、その碑石の場所はわかる。


地の国から帝国が奪った「理性」を碑石として抽出する部屋にあるであろう。

即ち!

帝王の下にある。


おそらく、その碑石を取り戻せたならば、リサ姉は「魅入られた者」から人に戻る可能性がある。ということであろうことは推測できる。


また、そこまで考えたならばリサ姉が「くるな。」と注意を呼びかけたことも、元研究員が「引き返せ」と警告したことも理解できる。


我を心配したのであろう。


同じように我が「守護者」に喰われないように。


ふと、考える。


「魅入られた者」は「願い」を優先するという。


リサ姉の「願い」が我の安全であると考えるのはうぬぼれが過ぎるであろうか?


まあよい。


我には面倒なことはわからぬ。

シンプルがいい。

リサ姉の「理性」たる「碑石」を奪還し、

リサ姉の元に届け、

リサ姉を人に戻し

リサ姉を救出する


そして元の生活を取り戻す。


これだけである。


いざゆかん。

帝王の元へ


---from 帝王 side---


「来ましたかボクの宿敵。」

ボクは玉座から立ち上がります。


群臣不在の一人ぼっちの玉座ほど滑稽なものありませんね。


目の前には3人の人物がいます。


レンジャーワンです。


ボクの「地上」制圧を防ぎ

ボク等制圧した地底国家群を開放し

諸兄に選ばれ祝福された者たち


そして宰相ユミルを倒した者。

奥歯を噛みしめる。

ああ、宰相ユミルよ。なぜ僕を置いて逝ったのか。

諸兄を復活させても、君がいないと意味がないじゃないか。


―ズキン―


まただ。

最近、宰相ユミルのことを思うと頭痛がする。

それだけボクにとって宰相ユミルの存在は大きいということなんだろう。

ボクはそう思うことにしている。

ふーっ。


今は、今は宰相ユミルのことを忘れなきゃいけない。


ボクはレンジャーワンを過小評価していない。

ドラゴンや亜神の域にまで達していた宰相ユミルやデビルフィッシュを倒した力は本物だ。

そして、なんといっても諸兄の加護を受けている。


所詮は人の身ではあるが諸兄の加護を受けているのであれば侮ることは失礼だろう。


ん?

んん?


これは?


レンジャーワンの面々だがドラウプニルで武装していない。

どういうつもりだ?


ドラウプニルで武装していないのであれば、魔法を使え四天王の域にいるアオイはともかく、他の二人は簡単に屠ることができる。


侮られた?

このボクが?


ボクはレンジャーワンを観察する。


ふーん。

少し面白い状況だね。


少なくともアオイはボクと戦う気だね。

それはそうだろう。

ボクによって祖国を一度は踏みにじられたんだ。

その後、祖国を人質にボクの配下になっていたのも屈辱だろう。

アオイの心情は理解できる。


もう一人の地上人。確か山吹とかいったかな?

彼も臨機応変にうごくつもりみたいだね。

アオイほど僕を敵視していないが、戦闘に移行してもすぐに対応できるようにしている。

警戒しているといった表現が適切かな?


このボクに相対しようとしているんだ。

それは正解だと思うよ。


さてと


そうなると臨戦態勢の二人が武装していないのが謎なんだけどね。


どうやら先頭に立っている巨漢クンが原因のようだね。

赤石クンと言ったかな?


彼から敵意が感じられない。

見た目では筋肉隆々の彼が一番、戦闘しそうなんだけどね。


さて、なぜ彼に敵意がないのかな?

彼からするとボクは「地上」を侵略しようとした危険極まりない人物だよね。


実に興味深いし、面白い。

このボクが理解できないことがあるなんてね。


こういう時は聞いてみるのが一番早い。


「どうしたのかな?」


ボクの質問に対して間があった。

聞こえてないわけではないらしい。

赤石クンは物凄い顔で考えていた。

もう、見た目でわかるくらいに。


戦闘では脊髄反射を超えているような反応をする彼ではあるが、こういった会話は苦手ならしい。


「お願いしたいことがある。」

しばらくの間の後、彼はそう答えた。


へえ?

幾多の戦闘を経て、苦難の末にボクにたどり着き「お願い」ときたか。


まあ、彼らが非武装でボクのところに来た理由は分かった。

武装し戦闘態勢で「お願い」というのはないからね。


それにしても敵であるボクに「お願い」かぁ。


「そのお願いが何かは分らないけどボクが聞くと思ってるのかな? ボクと君たちの間には血が流れ過ぎた。とは思わないかい?」


そう

宰相ユミルを倒した相手の「願い」なぞ、きけるわけがない。


-ズキリ-


頭痛がする。

なんだ?

この頭痛は?

宰相ユミルのことを考えるたびに頭痛がする。

ここまで頭痛が続くとさすがのボクでもとイラつくなぁ。


「うむ。そうかも知れぬ。」


「そうだろう?」


「我はヘドリアという人物とともに行動をともにしたことがある。」


なんでしょう? 唐突に。

四天王ヘドリアの名前を出すなんて。

確かにレンジャーワンはヘドリアとともに行動していた時期がありました。


ヘドリアが奇妙というか面白い策を立案したのです。


あの頃、地上進攻の一番手をお任せしていたタイタンが敗れ、二番手としてヘドリアにお願いしていました。


ヘドリアは「地上」の広大さを確認し、「進攻」ではなく「和平」による「地上進出」を考えたようです。


ボクも宰相ユミルも「面白い発想」という感想を持ち、そのヘドリアの企画を承諾しました。

ボク達が各地へ進攻しているのは領土欲のような低俗な発想からではないのです。


ボク達の目的はあくまでも諸兄を現世に呼び戻すことです。

しかしながら、この広大な地底から自らお隠れになった諸兄を探すのはこのボクをもってしても容易ではありません。


ではどうするか?


宰相ユミルと額を突き合わせて打ち合わせを重ねました。

そこ答えはシンプルなものになりました。


捜索範囲が広いなら、捜索人数を増やせばいいのです。

人海戦術です。


初めは普通に頼んだり、依頼してみました。


結果は・・・

残念なことに非常に効率が悪かった。


あくまでも依頼のため、探し先は頼んだ相手の判断になります。

探し先の重複の多いこと。


宰相ユミルが珍しく青筋をたてていましたね。

「そこは既に捜索済みです。」とね。


ボク達はもっとロジカルな方法をイメージしていました。

例えば捜索先を10の区画に割り、一つ一つの区画を順番に有無を確認していくといった方法です。

しかし、依頼という方法をとると、受けた側は、各々の判断で動きAの区画ばかり探して、Bの区画を誰も探さない。ということがおきるのです。

宰相ユミルがそのことを指摘すると

「だから現場を知らない人は困る。そこにいるはずがない。」と反論を受ける始末。

それで成果が上がればよいのですが、一向に成果が上がらないのですから困ったものです。


また、利を説かないと動かない。ということも多かったですね。


これなら自分が動いた方が早いと何度も思いましたね。

何しろ相手の説得に時間をとられるのですから。


どうしたものかと思案していると、珍しく宰相ユミルがキレました。

後にも先にも宰相ユミルがキレたのは僕が覚えている限りではこの時だけです。


あることを耳にしたのです。


「このまま探し物が見つからなけりゃ。ずっと依頼料がはいるぜ。見つけてしまったら、そこで終わりだ。捜索するフリして、依頼料をもらっておこうぜ。」

ボク達の依頼を受けたグループがそのような話をしているのを宰相ユミルが耳にしたのです。


ボク達も甘く見られたものです。


宰相ユミルが怒りに任せて、そのグループを血祭りにあげ、それに怒ったその他のグループの襲撃を一蹴し、殲滅させた後、宰相ユミルと打ち合わせを行いました。


何が失敗だったのか?。


人海戦術は誤っていないと考えました。

課題は統制がとれていないことです。


では統制がとれるようにするとよいのです。

そうすると捜索の無駄がなくなるでしょう。


そのためには「依頼」ではダメです。

依頼を受けた側が自己判断で動き出します。不正もします。場合によっては逆恨みで襲ってきます。


上下関係が明確な「支配」でなければならない。

宰相ユミルとの打ち合わせの結果、そうボク達は結論付けました。


そこで地底に割拠する地底国家群を支配することにしまいました。


え? 話が飛躍している?

そんなことはありませんよ。


数は力です。

地底各国の国民総動員で虱潰しに探した方がボクと宰相ユミルで探すよりも早いでしょう?

勝手な行動による非効率的な状況も「支配」であれば解消できるでしょう。

手始めに「中の国」と呼ばれていた国を攻め落とし「帝都」と定めました。


そして「帝都」から順次、地底国家群を攻め落としました。

「帝国」の始まりですね。


つまりボク達は領土欲から「帝国」をつくったのではなく、あくまでも諸兄を探すための効率を求めたにすぎません。


ですから、ヘドリアの提案もボク達の諸兄を探すという目的から、それほど外れたことではなかったのです。

せいぜい「支配」ではなく「和平」だと効率悪くならないかなぁ?

まあ、ボク達にはなかった発想だから、とりあえずやってみようか?

程度のものでした。


結果は・・・

探し物が見つかったという意味では大成功でした。

目の前のレンジャーワン。

彼らこそ探し物だったのです。


しかし、諸兄との再会は最悪の結果になりましたがね。


いずれにせよ、その成功をもたらしたヘドリアの名前を彼は出してきました。

すこしは話を聞こうという興味がわいてきました。

フーっ

とボクは息を吐いた後


「それで?」

と赤石の問いに聞き返す。


「ヘドリアは戦いではなく「和平」を願った。」


「そうだね。」

ボクは肯定する。


「我もヘドリアに倣いたいと考えている。」


「へえ。」

ボクは考える。

この赤石という人物。中々、面白い


デビルフィッシュやライオンマンのような格闘馬鹿とは思ったがそうではないようですね。

今まで出会った、どのタイプとも違う。


よろしい。

このボク自らが掘り下げて差し上げましょう。


「赤石と言ったね。君はボクにお願いがあると言ったね。このボクに何を願う?」


「うむ。碑石を一つ譲ってほしい。」


「碑石? 地の国の研究成果のこと?」


「うむ。」


ボクは少し考える。

狙いは碑石?

あれは「魅入られた者」になり喰われた理性を地の国の技術で碑石という形でかき集めたモノ。


様々な利用法があるが、シンプルなのは「魅入られた者」を「支配」するための人質。

自分の理性を破壊されたくなければ、こちらの言うことを聞いてもらう。という利用法。


逆に言えば敵対勢力にを「理性」という人質をとられないようにするためのものでもある。

おいそれとは渡せない。


赤石はこの「碑石」の利用法に気づいているのでしょうか?

意外と侮れないかもしれません。


しばらく考えたあと出した質問は

「なぜ?」

という言葉です。

赤石にはストレートに聞いた方がよいと判断しました。


「我が大切にしている人がが守護者に襲われ「魅入られた者」となった。その人物を救うため理性たる「碑石」が必要である。」


「大切な人のためですか・・・?」


ボクは少し拍子抜けします。

もうちょっと、政治的な、打算的な思惑を想像していたのですが、出てきた彼の「願い」が「大切な人を想う。」純朴なものでした。


そのセリフを聞き、私は宰相ユミルを思った。少し頭痛がしました。


「うむ。我にとって大切な人であるリサ姉は「魅入られた者」となって以来、暗に救出を拒んでいる。奪われた理性たる碑石があれば救出を拒む理由も無くなるのではと愚考したのである。」



ボクの中に衝撃が走る。

救出したい者に救出を拒まれる。


ああ。


この男もまたボク と同じ想いを抱えていたのですか!

急に赤石という人物に親近感がわいてきました。

この男は敵どころか、同士ではないでしょうか?


この男のことをもっと知りたい。と思ってしましました。

知るには聞くしかありません。ボクは質問を繰り返します。

特にこの質問は外せません。


「それでこのボクに大切な人の理性である碑石を譲ってほしいということですね。真偽はともかく、赤石。そなたの願いは理解しました。しかし、ボクにはまだ、貴方が理解できない。貴方はボクが怖くないのですか?」


赤石はこの質問に対し表情を動かさず何も答えません。


質問の意味が解らないのでしょうか?

確かにこの御仁は鈍いところがあります。

もう少しかみ砕いた方がよいのでしょう。


「赤石。君は「地上」に住んでいるのだろう?」


「うむ。」


「その「地上」を侵略しようとしたんだよ。実際にボクは「侵略」と「支配」を繰り返した。

そこのアオイの青の国のようにね。」


ボクの発言にアオイが憎しみを込めた目をボクにむける。

そうだよ。このアオイの反応が普通なんだ。

だからこそ理解できる。


「ボクは四天王に地上進攻を命じた張本人だよ。つまり地上の人々からすると恐怖の対象。または警戒の対象になるよね。」

ボクはレンジャーワンの最後に一人、確か山吹と言ったかな。彼の方を見る。彼はボクの言葉にさらに警戒を強める。

そうなんだ。この山吹の反応が普通。

一度でも祖国を襲った相手を無条件に信じるなんて神でも無理だよ。恐怖し、その恐怖の裏返しとして警戒するのが普通なんだ。

だからこそ理解できる。


「その自分が言うのもなんだけど、地上人の君にとってボクは地上を侵略しようとした危険人物だ。なのに憎悪も嫌悪も恐怖も警戒すらしていない。それがボクにはわからない。なぜなんだい?」


ボクの問いに赤石は・・・フリーズしてます。

え? ええ?

そんな難しい質問したかな?


やがて、ようやく赤石が口を開きました。

長かった・・・


本当にどうしよかと思いました。


「ふむ・・・・実際に「地上」を侵略できたわけではあるまい。」


え。


赤石が暫く経ってから放った言葉にボクは凍り付きます。


確かにボク達を地上を目指しましたが、レンジャーワンに阻止され侵略できませんでした。

赤石は事実を述べたのでしょう。


しかし・・・


ボクの耳には結局、侵略できなかったのだから問題ない。

つまり、「取るに足らない。」と言っているように聞こえました。


このボクがとるに足らない存在?


はははははっ。

笑えて来ます。


この超越者たるボクが赤石にとってはどうでもよい存在であると。


ああ。

だからなんですね。


理解しました。

理解しましたとも


取るに足らない存在だからこそ恐怖も畏怖も憎悪も警戒もないということなんですね。


だから、何も考えずお願いしようとしたわけですね。


これは放置しておけませんね。

赤石にはボクがどういう存在か理解していただく必要があるようです。


やはり、人などと分かり合えるなどどいうことは難しいという事ですね。

宰相ユミルと一緒に人々に「依頼」した時に理解していたことではあったのですけどね。


仕方ありません。

ボクは大きく6枚の翼を広げました


---from 赤石 side---


「ぬう。」

急に帝王が臨戦態勢に入った。

やはり我のような戦うしか能の無い武骨者に交渉事は無理であったか。

ヘドリアの理想に共感した我は、ヘドリアの真似事をしてみたのであるが、所詮は真似事ということであろう。


あるいはリサ姉の救出とヘドリアの理想の実践と欲深くも二つの願いを行おうとした報いであろうか。


「ぬう。」

帝王の6枚の翼から弾幕の如く攻撃力を伴った羽が飛来してくる。

幻想的なくらい洞窟を覆う白い羽

天地の境界がとけるかのような羽の洪水


いかん。

あの技は以前、帝都で見た。

見た目は幻想的であるが、あの羽根一枚一枚が必殺の威力を持っている。


まともに受けるならば塵と化すであろう。


「赤石っ!」

「赤石クン!」


背後からアオイと山吹の注意が飛ぶ。


うむ。致し方あるまい。


我はドラウプニルを操作する。

「An armor changes Tor」の機械音が鳴り響く。


我の体が派手な真紅の西洋甲冑のようなものに覆われる。

腰回りは大きなスカート装甲。

肩の倍はある巨大な肩当に、膝から下もフレア装甲。右腕には二回りも大きな円筒形の腕あて。左手には腕には炎をデザインしたようなシールドが装着される。


「Completion! The Fighter ・RED」

我は機械音と共に真紅の重装戦士に変身した。



アオイもドラウプニルを操作した。

同時に「An armor changes Wodan」の機械音が鳴り響く。

アオイの体が青い全身スーツに覆われる。マントのような青藍のパーカーとフレアスカート。鍔の広いとんがり帽子に杖を装着。

「Completion! The magicians・blue」

機械音と共に青を基調とした魔法使いに変身した。



山吹もドラウプニルを操作する。

「An armor changes Frey」の機械音が鳴り響く。

山吹も変身したようだ。

山吹の体が派手な黄色の全身スーツと軽鎧に覆われる。

フルマスクのようなヘルメットに頭部が全て隠され、その容姿はフル装備のモトクロス選手にも見える。腰に大剣、背にはマントを装備している。

「Completion! The Commander・yellow」

機械音と共に山吹も黄色を基調とした戦士に変身した。


「出し惜しみは無しです。」

そう山吹は言うと神の剣レーヴァティンを振るう。

炎の壁が出現。

帝王の羽を防ぐ。


ぬう。帝王の羽の方が数で勝るか?


炎の壁の隙間を帝王の羽攻撃が抜けてくる。


「ふーっ。連発っ!gandir gandir gandir gandir!」

アオイが息吹の後、マジックミサイルを連続で放つ。

マジックミサイルを放つ都度、蒼い魔法陣が生み出され、これもまた幻想的である。


アオイのマジックミサイルが炎の壁を抜けて向かってくる帝王の羽を迎撃する。


ぬう。

しかし、まだ、帝王の羽の方が優勢か。


「スキーズ! 大砲の出番です。」

『イエス! マスター。』 


山吹が空飛ぶ船スキーズを帝王の側面に呼び出し、砲撃を浴びせる。


「チャンス! gandir Fimbul!」

アオイも同時に巨大な魔法弾を打ち出す。


帝王に直撃する二方向からの遠距離攻撃

帝王が洞窟を揺るがす轟音とともに光に包まれる。


「これでどうです?」

「帝王自体の戦闘力は低い。倒すまでいかなくても、これならっ。」


洞窟を覆う眩い光が消える。


その先にいたのは三対六翼の翼を広げる帝王。

「さすがだよ、だけどね。ボクも「願い」で「奇跡」の力を得ることができるんだよ。」

そう言うと帝王の翼の内、4の翼が変化した。


一つ目の翼は光り輝く体を持ち黄金色の翼を背にした骸骨頭の戦士に

二つ目の翼は赤銅色の筋肉隆々の肉体を持つ緋色の翼を背にした骸骨頭の戦士に

三つ目の翼は青いフードに蒼い翼を背にした骸骨頭の魔法使いに


そして


四つ目の翼は帝王と同じ姿をしていた。ただ頭は骸骨である。


「君たちの強さは理解している。その連携こそが強さだ。それを断ち切らせてもらうよ。」


帝王は薄く笑った。


同時に翼から変化した骸骨の戦士達が我らに向かってきた。


黄金色の翼を持つ戦士は山吹に

蒼い翼の魔法使いはアオイに

緋色の翼の戦士が我に向かってくる。


「ぬううん。」

敵の放ったミドルキックを膝と肘を合わせてブロッキング。

ぬう。重い!

重い蹴りである。かのデビルフィッシュ以上かもしれぬ。


ぬ!


そのままジャブ気味の正拳突きを放ってきた。


我は後方に飛んで射程距離から逃れる。


再び、敵はミドルキックを放ってくる。


ぬう。いかん。

これでは先ほどと同じパターンである。

このままでは体力を削られる。


我はスキル「幻獣の角」を使用し、大きく後方空中に飛びミドルキックを避ける。

そして、そのまま空中を蹴り、敵に向かって飛び蹴りを放つ。


「!」


敵は驚いたことに飛び蹴りをガードせず、そのままパンチを繰り出してきた。


「ぬう。」

相打ちである。

敵は我の飛び蹴りで吹き飛んだが、我もカウンターで拳をもらってしまった。


ぬう。このままでは負ける。


我は横目で帝王を見る。

その帝王の横には帝王と同じ姿をした骸骨頭が控えている。


我と緋色の翼を持つ戦士との戦いは拮抗している。

この状態で帝王と帝王の傍に控える骸骨頭の攻撃を受けるなら負けは必定である。


アオイも山吹もそれぞれの敵を相手にし、身動きがとれぬ。


むう。

見事に連携を封じてきたか。


ふー。

我は丹田を意識し大きく息を吐く。

焦りは禁物である。


我は目の前の緋色の翼を持つ骸骨頭の戦士が立ち上がるのを見て、構えた。


---from 山吹 side---


僕は驚きました。

帝王が自らの翼を触媒に呼び出した4体の骸骨戦士の姿にです。

頭こそ骸骨ですが、その姿は僕にドラウプニルをくれた三柱と同じ姿をしていたからです。


驚いている間に虚を突かれました。

4体の骸骨戦士の内、光り輝く黄金色の翼を持つ戦士が剣を振りかぶり僕に襲い掛かってきました。

「うわっと!」

僕は慌ててレーヴァティンを盾にして防ぎます。

相手の攻撃は当然、一撃では終わらず連続で剣を僕に叩きつけてきます。


不利な展開です。


僕は元々、剣なんて使ったことありません。

剣道もフェンシングもやったことないです。

少し、ライトさんに剣を習いましたが、文字通り付け焼刃です。

剣での戦いでは負け必死です。


こういう時に焦って力技で突破しようとしてはジリ貧になります。

誰かが言っていました。

僕たちの強さは冷静に状況分析して最善手を打てることであるというニュアンスのことを。


それなら、ここで焦りは禁物です。

レーヴァティンで相手の剣を防ごうとして、防ぎきれず、ドラウプニルの装甲でなんとか斬られずに済んでいる状況でもです。


僕はスキル「錬金」を発動させます。

ダルさんを倒したときに得たスキルです。

ダルさんは「剣」を生成して飛ばす格好いい攻撃してましたが、僕の場合はなぜかバイクがでます。

剣よりバイクの方が精密機械な分、難度が高いと考えられるのですが、なぜかバイクが出ます。

それはともかく、この状況の場合、バイクの方が都合がよいです。

至近距離で僕と敵の間にバイクを出現させ、バイクを飛び道具替わりにぶつけます。

敵が吹き飛ぶ隙に僕自身もスキル「錬金」で作り出したバイクに乗り、その場を離脱し距離をとります。


「まずいですね。」

周囲を見渡して僕は眉を顰めます。

赤石クンは緋色の翼を持つ骸骨戦士と

アオイちゃんは蒼い翼を持つ骸骨姿の魔法使いと交戦中のようです。


その場に釘付けと言っていいでしょう。


対する帝王側は、帝王と帝王そっくりの骸骨戦士が控えています。


僕たち三人が釘付け状態でフリーの帝王ともう一人の骸骨戦士が攻撃してきたら、僕たちに防ぐ暇も連携をとる暇もありません。

詰んでいます。


考えているうちに帝王が

帝王そっくりの骸骨戦士が

翼を広げ、浮かびました。


あのモーションはあの羽によるの絨毯爆撃攻撃です。


それぞれが釘付け状態であの攻撃を受けたら防ぐすべがありません。

チェックメイトです。


帝王の戦術にインスパイアに似た戦慄を覚えます。


よく漫画や小説だと。

攻撃が防がれると、より強力な攻撃を繰り出して、強さのインフレがおこるなんて展開がベタです。

けど、現実にはそんなことは難しいです。簡単に今自身が持っている最高の攻撃以上の攻撃方法なんてどれだけの努力と歳月を必要とするでしょう。


帝王はその課題を別な選択で解決しました。

攻撃が通じる「状況」を整える選択、戦術をとったのです。


「強い」です。


っと感心している場合じゃありません。


ここは四の五迷ってる場面じゃありません。

目の前には僕と相対している光り輝く黄金色の翼を持つ骸骨戦士が剣を振りかぶり再度、迫ってきています。


僕は急ぎドラウプニルを起動させます。

「An armor changes Frey」の機械音が鳴り響きます。

僕の体がフレアスカート型のドレスアーマーに覆われます。頭には王を示す黄金のティアラが装着されます。

「Completion! The vala・yellow」

機械音と共に僕は黄色を基調とした神の指導者に変身しました。

この際、変身の副作用で性別チェンジしているのは無視です。

ええ、無視ったら無視です。


僕は「歌い」ます。

「願い」をこめて。


僕の周囲の全てが

僕の「旋律」で吹き飛ばされます。


攻撃態勢に入っていた帝王と帝王似の骸骨戦士も

赤石クンもアオイちゃんも


そして帝王の戦術の要である。

僕たちを釘付けにしていた三体の骸骨戦士も。


戦況のオールリセットです。

帝王の戦術は理解しました。

その戦術を一度リセットします。


ここから反撃です!


---from aoi side---


「ああ、もううっとおしいわ!」

私は悪態をつく。

『やれやれ。お姫様、アンタがいつもやっていることですよ。』

「うっさい。カグヤ黙れ。あと、アンタっていうな。アンタ・・・私をお姫様だとこれっぽっちも思ってないでしょ。ああ、もう。自分の戦法をやられるとこんなに鬱陶しいのね。

めちゃくちゃ実感したわ!」


なにをイラついてるかって?


私の得意とする戦法を敵がつかってきていること。

これが非常に鬱陶しい!


私はドラウプニルを手に入れてからマジックミサイルの連打を主戦法としてきた。

魔法の弾幕で相手に主導権を渡さず、数で押し切る戦法。


このドラウプニルの凄いのは多少の被弾をモノともしない守備力だけじゃない。

この装備中は魔法がほぼ無尽蔵に使用できた。

その特性を活かした弾切れのない弾幕戦法。


これを今、敵の蒼いフードを被った骸骨頭の魔法使いが使用してきている。

負けてられない。

私も同じく弾幕を張る。


お互いに多少の被弾はしているけど、戦局をかえるほどじゃない。

焦って大魔法でも使用してくれたら、その隙にマジックミサイルを叩きこむんだけど、その様な素振りはない。

かといって私が別な戦法や魔法に切り替えようとしてもその隙がない。

ええい、鬱陶しいっ!


私はちらりと帝王を見る。

帝王の傍には彼そっくりな容姿をした骸骨戦士が控えている。


この膠着状態で帝王やその傍に控える骸骨戦士まで参戦したら負け必死だ。


ん-。少しの。少しの隙さえあれば、この盤面をひっくり返せるんだけど、その隙が無い。

ムカツク!

『お姫様。焦ってはダメですわよ。』

カグヤがいつになく真剣な声色で言う。

「わーってる。でも愚痴ぐらいは言わせてー。」

『やれやれ。しょうがないですわね。このお姫様は。』

「なによ。」

『いえ。こういう時は深呼吸して周りを見るのも一つですわ。仮にも元四天王。魔法撃ちながらでも周りくらい見ることができますわよね?』

「当たり前」

私はムッとしながらもカグヤのアドバイスに従う。

カグヤは口は悪いし、性格も悪いが、そのアドバイスは正確。

認めたくないけどね。


私は赤石を見る。

ああ、私と同じ状況じゃん。

赤石と同タイプの格闘系の敵と互角の格闘戦繰り広げている。

これは厳しい。

互角ってことは今の私と同じ状況。

帝王が横やりを入れたら負け必死じゃん。


それでも赤石らしく焦らず腐らず愚直に戦いを継続しているのは好感が持てるけど、正直、今の状況を打開する一手が欲しい状況。


ってことは山吹も同じか?


私は山吹の方に視界を変える。

うわっ!

もっとダメダメじゃんか。


山吹は敵の光り輝く骸骨戦士に剣での戦いを強いられている。

山吹はレーヴァティンという名剣を持つが剣士ではない。

元々はただの研究員。

山吹の戦いにおける本領は後方にいて戦場全体を把握し最善手の援護を行い、勝利を手繰り寄せること。

最前線で剣を振るうことじゃない。

どちらかと言えば、それは苦手。

その苦手を強いられている。

まずい。


帝王が動く前に山吹から崩れる可能性がでてきた。

山吹はなんだかんだ言って頭がいい。

その状況は理解していると思う。


だけど、理解していることと

実際に出来るかということは違う。


私も赤石も援護しようにもこの釘付け状況であれば厳しい。


帝王にしてやられた。

見事にこっちの連携を断った。


私は歯噛みする。

このまま負ける?

最期の最後で?



「あうっ!」

まずい、思考が負に偏ったとたん、敵の魔法を受けた。

ドラウプニルの装甲があるから致命傷にはならない。

だけど、このままでは少しづつダメージを受け続けるなら帝王の追加攻撃を受けるまでもなく敗北する。


『・・・お姫様・・・』

「あ? 何よ。今、めっさ忙しいんだけど。」

『ほんとにまあ。その口のききかた。育ちが疑われますわね。』

「ちょっと、さっきの私の話聞いてる?私は今、い・そ・が・し・い・の。 アンタの空いてしている暇なんてないっ!」

『あらそうですの。せっかく今が好機と教えて差し上げようと思いましたのに。』

「あん? 好機?」

『さきほどもお伝えしましたでしょうに。もう忘れたのですか? こういう場合は周りを見るのも一つと。』


あん?


私はもう一度、カグヤのアドバイスに従って周りを見る。


えっ!

あの劣勢だった山吹が敵の骸骨戦士と距離を取ってもう一つの姿に変身していた。

女性の神官のような姿に。



となると山吹の狙いは一つ。

確かにこの好機逃しちゃいけない。


ナイス山吹!

明暗を分けるボーダーラインだ。


私の読み通り山吹は「詠った。」

私を含め敵味方すべてが吹き飛ばされる。


山吹のオールリセット。


のおおおおっ!

思いっきり吹き飛ばされ体を動かすことも難しい。

けど、ここだ。


ここしか勝機が無い。


私は無理やり体を動かしドラウプニルを起動する。

「An armor changes Wodan」の機械音が鳴り響く。

「Completion! The valkyrie・Blue」

機械音と共に私は変身する。

いつもの魔法使いルックじゃない。

全身が鎧に覆われる。肩回りと手甲にファーがつき、青い腰布がはためく。

手にはロングソード。

そして、背中には金属製の天使を模した翼。


私は金属の翼を持つ戦乙女に変身した。


この山吹が作った好機を逃すわけにはいかない。

必ず勝利へ繋ぐ。


私は一言唱える。

『マジックルーラー』

これは周囲の魔法を掌握するスキル。

私と相対している敵の骸骨頭の魔法使いの武器は魔法。

スキル『マジックルーラー』さえ発動できれば敵ではない。

敵の魔法弾を掌握。

そのまま敵にぶつける。

骸骨頭の魔法使いは自らの魔法で倒れた。


この好機は逃さない

出し惜しみ無し


ぜーったいやりたくなかったけど

私は新タイプの2つ目の権能を発動する。

「スキル『ヴァルハラ』」


私の横に私と同じ格好をしたカグヤが出現する。

『お姫様。どちらが先に敵を倒すか勝負ですわ。』

カグヤはそういうと赤石が相対している敵に向かった。

「ふん。負けない。」

私は山吹が相対している金色の翼をもつ敵に向かう。


今までは一対一だから釘付けだった。

今度は二対一だ。

確実に勝てる。

盤面はひっくり返ったぞ帝王


「さすがですね。でもね。ボクも簡単に負けるわけにはいかないよ。」

帝王とその横に控える骸骨戦士が揃って翼を広げる。

羽による絨毯爆撃攻撃の体制。


さっきは発動を許したけど、この距離ならっ!

「「胡蝶の舞!」」

私とカグヤは同時にスキルを発動する。

魔法の蝶の群れがこの戦闘空間を覆う。


帝王の羽の攻撃が魔法の蝶の群れにあたったとたん消滅する。


間に合った。


私は安堵の声をあげる。


この「胡蝶の舞」というスキル。

雑魚敵相手なら気にならないレベルではあるが発動が遅い。

対する帝王の翼の攻撃は発動がめちゃんこ早い。


その発動速度による相性で、ある程度距離をとらないと発動する前に、羽による絨毯爆撃を受けてしまう。


今回ギリギリ間に合った。

帝王。

アンタの翼はこれで封じた。

このまま押し切る。


---from 赤石 side---


ぬう。

我の体も敵の骸骨戦士の体も吹き飛ぶ。


これは山吹の「唄」

オールリセットか!


敵との距離が開く。

これなら仕切り直しができる。


山吹が作った好機。

必ず勝利へつなぐ!


我はオールリセットが終わり地面に着地すると同時に手じかにある。石を手に取りスキル「レールガンM2」を発動する。


我の唯一の遠距離攻撃である。


突っ込んできた骸骨戦士に見事に当たり、コントのように転倒した。


うむ。

ここで決める。


「ぬおおおおおッ。」

肩から背中にかけて力を入れる。腰を捻転。腕を鞭のように広げる。


ぬう。

予想外に骸骨戦士の立ち上がりが早い。

このままでは技を回避される。


『必殺技を回避するなんて無粋な真似はやめなさいな。』

その声と同時に骸骨戦士の真上から剣が投擲される。

骸骨戦士はその剣を回避しようとするが間に合わず、太ももに剣を受け、地面に縫い付けられた。


うむ。

これで回避の心配はない。


「吐ーッ!」

捻転を戻すと同時に高速で 掌底を敵の脇腹に突き入れた。

腕がバネが戻るかのような速度で回転する。

そこから速射で繰り出される大砲のような我が最も得意とする片手突き。

『Mjollnir hamme』

機械音と同時に右腕装着されている二回りも大きな円筒形の腕あてから放電。 電撃が突きと同時に敵にむかって走る。


緋色の翼を持つ骸骨戦士は爆散した。


残心の構えを残す我の元に空から一人の人物が降り立つ。

その人物はアオイのドラウプニルの装甲と同じ格好をしていたが、漆黒の黒髪をもつ別人であった。状況から察するにこの人物が上空から剣を投擲し、敵の骸骨戦士を地面に縫い付けたのであろう。

我にはその人物に心当たりがある。

「カグヤ殿で間違いないか?」

我の問いに彼女は軽く顎を引いて肯定の意を表した。

『そういえば、こうしてちゃんと顔をあわせるのは初めてでしたわね。では改めてカグヤと申します。よろしくお願いしますわ。』

「うむ。カグヤ殿には例を言わねばならぬとは思っていた。あのレッドドラゴン戦で戦闘不能となったアオイの代わりに、我とともに戦ったのはそなたであろう礼を言う。」

『あらあら礼儀正しい方ですわね。しかし礼は不要ですわ。私は私の願いに従っているだけですので。』

「願い・・か。」

『ええ、私も守護者に襲われましたの。つまり『魅入られた者』ですわね。つまり私の行動原理は私の願うこと。それに沿って動いているにすぎませんわ。』

「お主も『魅入られた者』か。」

「あら? 聞いていませんでした? 四天王の副官は皆、『魅入られた者』ですわよ。」

「うむ。」

こうやって話をしている限りでは普通に見えるが、彼女もまた『願い』に『魅入られた者』であったか。


・・・ライオンマン、ダル・・・幾人かの『魅入られた者』に出会ったが、そこまで危険という感じはしない。


しかし、リサ姉は『魅入られた者』になったとたん、我との接触を断った。

理不尽なことに「来るな。」と救出すら拒んだ。

腑に落ちぬところではある。


「あら、私が『魅入られた者』と信じていらっしゃらないのかしら。」

「うむ。理性的に思える。とても『願い』に『魅入られている』とは思えぬ。」

我は感じたことをそのまま伝える。


うむ。『魅入られた者』といっても普通ではないか。とても危険人物には見えぬ。

であればリサ姉も『魅入られた者』となっていたとしても問題ないのではないか?

救出を拒むことが理解できぬ。


後で我思うに、

我はそのわだかまりを目の前のカグヤという人物にぶつけて、安心したかったのだと思う。

リサ姉は『魅入られた者』という危険人物ではないと

普通に生活できると。


しかし、目の前のカグヤという人物は我のその心情を奥底まで理解していたようである。

彼女から発せられた言葉は我の淡い希望、思いの否定であった。

「理性的ですか・・・まあ、どうでもよいことに関しては強制力も奇跡も働きませんからそう見えるのでしょうね。それとも『魅入られた者』は理性的だから問題ないと思い込みたい事情でもあるのかしら?」


我は心の奥底の思っていることを指摘され黙る。


「ふふっ。しょうがないですわね。あれを見てくださいな。」

そいってカグヤは帝王を見る。

「帝王もまた『魅入られた者』ですわ。」


なんと!


「帝王の『願い』は・・・これは人づてに聞いたのですが・・・人探しらしいですわ。」


人探し・・・


「貴方と同じですわね。」


むう。確かにそうである。

我と同じく誰か愛しい人が行方をくらましたのであろうか?


「帝王はね。その人探しのために地底国家群に侵略戦争をしかけたのですわ。どうです?馬鹿げてるでしょう?狂ってるでしょう?」


我は眉を顰める。

人探しと侵略戦争が我の中で結びつかぬ。


「もう少しわかりやすくいいましょうか。そうですわね。この広い地底で人探しは大変ですわ。人手もいりますわ。でしたら、地底国家群全ての国民総出で探せば効率いいですよね?」

「それを実行したのか?」

「ええ、いうことを聞かない人や国も力で屈服させましたわ。」

「・・・狂っている。」

「ですわよね。そして厄介なのは『魅入られた者』は『願い』をかなえるため神の権能をも超える『奇跡』味方につけること。どうです?『願い』叶えるため手段を選ばず、それを実現するために『奇跡』さえも起こす。危険ではありませんか?」


我は頷く。


確かに危険である。

自らの『願い』のためならば他者どうなってもよいという思考。そして、それを実現するための『奇跡』という力まで持っている。


認めたくはないが目の前の帝王が『魅入られた者』の本質を具現化した存在であるならば『魅入られた者』は危険であるということになるのであろう。

同時にリサ姉は危険であると認めるしかあるまい。


世はなんと理不尽なことか。


「さあ、いきましょう。帝王の『願い』は『魅入られた者』らしく暴走してます。彼は『魅入られた者』。自己の『願い』のために他人の不幸、犠牲を一切考慮しない化け物です。彼をとめなければあらゆるものが彼の『願い』の犠牲になるでしょう。」


うむ。

いくのはやぶさかではない。


思い人を探すという点で共感はもてるが、他人の犠牲の上というのは共感が持てぬ。

仮に我がリサ姉を救うため、そんなことをしたらリサ姉は怒るだろう。


「一つ聞こう。」


『なんでしょう? 怖気づきました?』

カグヤは揶揄っているかのような笑みを我に浮かべる。


「『魅入られた者』は己が願いのためには『奇跡』の力を発するという。その対策法を知ってはいまいか?」


帝王が『魅入られた者』であるとするならば、追い詰められたなら・・・

このままでは『願い』が達成できないとなれば必ず『奇跡』の力がおきるのであろう。

ならば対策が必要である。


『ほほほ。そんなことですか。』

カグヤはコロコロと笑った。


『『魅入られた者』は己が『願い』のために奇跡を起こす。なら『魅入られた者』同士が相対した場合どうなるのでしょう? より強い『願い』を持つ側の『奇跡』がおきるだけですわ。』


む。

『願い』の強さか・・・


『私の『願い』は帝王に劣りませぬ。貴方の思い人を想う気持ちもそうでしょう。』


うむ。我がリサ姉を想う気持ちは誰にも負けぬ。

これだけは断言する。


『それならば、帝王の『奇跡』を発露を気にすることはありませんわ。それに・・・。』



『私は普段、帝王の探し人と同じ世界にいます。当然、お会いしてます。そして彼らから話を聞いています。』


なんと。

ならば帝王の思い人に合わせる橋渡しをしてもよいのではないか?そうすれば帝王も暴走することはないのではないか?


『帝王の探し人は帝王に会う気はないそうです。』


「なぜだ。」


『帝王の探し人もまた『魅入られた者』になっていました。彼らは現世に戻ると今の帝王のように他者の犠牲を厭わなくなるように自らも成り果ててしまうことを危惧してました。ですから、帝王のいる現世には戻らないそうです。』

む。


・・・。

・・・。


もしかして・・・・

もしかしてリサ姉も同じ考えであろうか?

だから探すなと。


『そして、帝王を危険視してました。』


む?


『帝王は『魅入られた者』の権能をコントロールできると錯覚していると。確かに能力的には『奇跡』をおこせる『魅入られた者』という存在は強力ですわ。それがコントロールできるならできた方がよいでしょう。でも、実際は哀れにも己が『願い』に支配されているだけの存在。その悲しい彼の『願い』の幕をひいてあげましょう。』


・・・・。


『ああ、そうそう。貴方も注意してくださいね。『願い』の権能をコントロールできるなどと思わないことですわ。奇跡は意図的におきないからこそ奇跡なのですから。』


---from 帝王 side---


「そうですか。ボクの戦術を覆し、翼まで封じられるとはね。」

さすがは宰相ユミルを倒したもの達。

このままではボクの負けだ。


だけどね。

ここで負けたら宰相ユミルが無駄死になんだよ。

ここでボクの『願い』を諦めるわけにはいかないんだ。


・・・もっとも宰相ユミルがいない今、『願い』が叶ったとしても空しいだけということに気づいてしまったけどね。


『魅入られた者』は己の『願い』に対して『奇跡』の権能を発揮すると言われている。

仮に・・・

ボクの『願い』が宰相ユミルの復活だったとしたら、『奇跡』が起きて復活するのだろうか?


・・・あれ? 待っておくれよ。

ボクは今、諸兄のことを考えていない。宰相ユミルのことばかりを考えている。


ボクは・・

ボクの『願い』は・・・

諸兄を現世に呼び戻すことが『願い』じゃなかったか


諸兄やボクのような優れている者を超える『理』という存在。

それが許せず『理』に挑み、惨めにも敗れ、ボクを庇った諸兄は守護者に喰われ『魅入られた者』にされた。


普段なら天地がひっくり返っても守護者ごときに喰われる諸兄ではない。

ボクの所為だ。


諸兄はその後、「『願い』に囚われるようになった我らは現世に害を及ぼす。」と姿をくらませてしまった。

ボクの所為だ。


諸兄のような崇高な存在が現世から消えるなんてことは世の損失だ。

だから『願った』

諸兄の復活を


それこそ『魅入られし者』の『奇跡』の力を利用してまでも


これがボクの『願い』だ。


そのはずだ。


なのにボクは宰相ユミルを失ってからというもの宰相ユミルのことばかり考えている。


宰相ユミルとは・・・

諸兄が現世から消え、失意のボクを精神的に支え、ボクの『願い』を叶えるにはどうしたらよいか共に歩んできた。


それはボクにとってかけがえのない日々だった。



だからか。


その日々はボクにとって大切な宝物

それならボクの本当の『願い』は・・・


この時、ボクにとって忌々しいアナウンスが流れる。

「An armor changes Tor」

「Completion! The einherjar・RED」


ボクが慌てて思考の海から現実に戻り、その忌々しいアナウンスがあった方を振り向くと、ボクの現身である白い翼の骸骨戦士が一刀のもとに両断されていた。


両断したのは赤石だ。


黒と赤のカラーリング。巨大両手持ちの直剣。

そして骸骨のようなフルフェイス。「死」を連想させるデザイン。


普段の赤石の変身した姿ではない。が、ボクはこの直刀をもった死神のような戦士が赤石だと直感した。


こいつにだけは負けない。


ここで山吹が剣を振るった。

「スキル:無慮の炎!」

同時に山吹が呟く。


その剣から噴き出すのはいつもの炎ではない。

黒い炎とも魔力の波動とも怨念ともいいがたい黒いものが出現した。

その黒い炎がボクを包む。


こ、これはプロミネンスが使っていた魔法!

くっ、なんだこれは、肉体的なダメージはないが・・・

理性が・・・理性が消える・・・意識が刈り取られる。

ボクの中の「願い」が暴走するっ。


こ、こんなことで!

「帝王は負けない!」

「ぬうううううん!」


ボクの攻撃と赤石の直剣の振り下ろしが交差する。

同時にボクの意識が薄れる。

ボクの体を、赤石の直剣が両断していた。


くっ。こういう時こそ『魅入られた者』の本領発揮じゃないのか!

ボクはまだ『願い』を叶えていない。

ボクに『願い』をかなえるための奇跡を!


ERROR CODE072

願いが複数あるため奇跡を発動できません。


ERROR CODE1151

敵対する願いと相反するため奇跡を発動できません。


なっ!

薄れゆくボクの意識に謎のアナウンスが流れる。

ボクはそのアナウンスを聞いて愕然とする。

特にERROR CODE1151とやらは聞き捨てならない。

ボクの願いが赤石の願いに打ち消されるというのか・・・

ボクの願いは赤石に劣るというのか・・・

それじゃあ。まるでボクの願いはニセモノといっているようなものじゃあないか・・・



【次回予告】

帝王をついに倒したレンジャーワン。しかし、脅威はまだ残っていた。

遂に最後の脅威が姿を表す。


次週、episode48  暴食Ⅰ

毎週 日曜日 9時30分 更新

☆よろしくお願いします


【お知らせ】

別な作品の紹介です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■剣と魔法の義経記 https://ncode.syosetu.com/n1604mi/

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