episode41 強欲
---from 宰相ユミル side---
「ふははははっ。あの竜人やりましたぞ。レンジャーワンのレッドをリタイヤさせましたな。」
「宰相。ご機嫌だね。」
「これは、これは帝王様。礼を失することをし、申し訳ございませぬ。」
「いいさ。宰相が愉快だと僕も愉快だ。それにしても随分な浮かれようじゃないか。」
「ええ、レンジャーワンの要であるレッドを竜人がリタイヤさせました。正直、「傲慢」を絵にかいたようなあの竜人ではどうにもならぬのではないかと思案しておりましたが思わぬ収穫です。」
「へえ。宰相の見立てではレッドが要だったんだね。僕はまた戦術姫のアオイが要かと思ったんだけどね。」
「レンジャーワンのアオイ殿やイエローが後方で策を練ることができるのもレッドが前線にいるからです。現に前回の戦いでレッドがデビルフィッシュ殿と相対している間、アオイ殿やイエローが白井殿と相対しましたが止められませんでした。ライオンマン殿もいない今、策を練るために前線で戦う将が不在です。アオイ殿もイエローもその能力を十全に発揮できますまい。」
「そうだったね。となると宰相の十人衆企画は成功したわけだ。レンジャーワンのレッドをリタイヤに追い込み、エルフの剣士ルーという戦力を手に入れた。大成果じゃないか。」
「おお、帝王様。ありがたきお言葉です。」
「好機かな?」
「攻めるべき好機でしょう。」
「正直、帝都はどうでもいいけど、諸兄に会い、今度は強引にでも僕の主張を聞いてもらうよ。」
「そのためにはレンジャーワンのドラウプニルを奪わなければなりませぬな。」
「そうだね。そのために腰をあげようか。アオイもこちらの戦力を削ろうとしていたわけだけど、結局、削れたのはレンジャーワンだったわけだ。」
「御意。かの戦術姫の智謀も帝王様の威光に逆らませぬ。」
「さあ、いまこそ再び諸兄にあいにいくよ。」
「もちろんですな。」
---from ブルータス side---
俺たちはよ。冒険者だ。
冒険者ってのは様々な未開の地のお宝を探すトレジャーハンターのことだ。
まあ、命をBETして一獲千金を狙う大馬鹿野郎だな。
格闘家の俺とよ。戦斧と使い魔を操るマンタ。魔道具使いのパパイア。収納魔法使いのゴンザエモンというパーティでやらせてもらっている。
トレジャーっつっても多種多様だ。
わかりやすいのは洞窟や廃墟の奥底に眠る宝箱の中にある金銀財宝だな。
まあ、賢明な奴にはわかることだが、そんなものはまあ、存在しない。
考えてもみろよ。
洞窟のど真ん中に宝箱を置く。
盗んでくださいっていってるようなもんだろう?
だから俺達、冒険者が狙うのは洞窟内にあるレアな魔石だったり、洞窟を徘徊するモンスターの素材だったり。そうそう雑草だと思ってたのが金貨何枚にもなる霊薬だったこともあったな。あれは儲けさせてもらった。
要するに冒険者は儲けるためにやってるってことさ。
多少のロマンは必要だがな。
でだ。
ここからが本題だ。
俺たちは原状に不満がある。
青の国のプリンス。ブルーフェイスの旦那の「私の能力を舐めないでいただきたい。私は青の国の王子。いずれ王になる者です。私についてくれば王の配下として王侯貴族になれるでしょう。」という甘言にのってついてきてみればどうだい。
王侯貴族どころか、ただの帝国の居候じゃねぇかよ。
せっかく冒険者を続けるには年もとってキツクなってきたし、王侯貴族で第二の人生と考えていたプランがいつまで経っても実行されない。
不満も出るってもんよ。
かといって身動きも取りずらいんだよな。
今更、冒険者家業にもどるのも年齢的にきついし。
このまま帝国に与しているのが正解かどうかも、帝国とアオイ率いるレンジャーワンとどっちが勝つかまだわからねぇから何とも言えねぇしな。
そんなことをマンタ、パパイヤ、ゴンザエモンという仲間と駄弁っていたらブルーフェイスの旦那が現れた。
「皆さん、朗報です。」
ブルーフェイスの旦那が言うには、レンジャーワンの赤い奴が十人衆との戦いで戦闘不能になったらしい。ライオンマンも不在とのことで前線で戦える一騎当千の人材がいないらしい。
「帝王様はこれを機に反転攻勢を行う考えです。ここで手柄を立てて帝都そして青の国を奪い返せば、私は青の国の国王になることができるでしょう。そうなれば私についてきた皆さんも王侯貴族です。」
「ほんと? ほんと?」
パパイヤが目を輝かせて尋ねます。
「当然です。私を誰だと思ってるのですか? 青の国の第一王子ですよ。本来、王になっている人物です。」
ブルーフェイスの旦那は臆面もなく言い切ったよ。
自分の祖国である青の国を裏切って帝国についたのによく言うぜ。
仮にだ。仮にブルーフェイスの旦那の言う通り青の国の王になれたとしても国民はついてこないだろうな。
「そういう訳で皆さん頼みましたよ。ともに栄光をつかみ取ろうじゃありませんか。」
ブルーフェイスの旦那はそう熱弁して去っていった。
「なあ。どう思う?」
ブルーフェイスの旦那がいなくなってからマンタ、パパイア、ゴンザエモンに確認する。
「無理だぜ。ブルーフェイスの兄ちゃんわ、王の器じゃないぜ。」
「同感。同感♡」
「無理っスー。」
「だよなー。」
俺は仲間の意見が揃ったことを改めて確認する。
俺を含めた4人は見えねぇかも知れねぇがA級冒険者だ。
俺たちが装備している防具がそれを証明している。
全てアーキファクトと呼ばれる店売りじゃ絶対に手に入らない伝説級の防具だ。
え? ちぐはぐな格好だって?
何言ってんだ?
それこそがA級冒険者の証拠だろう?
店売りの防具ならデザイン揃ったもんを着れるだろうが、遺跡やダンジョンに眠る伝説級の武器防具の見た目揃ってるわけないだろう?
デザイナーがデザインしてくれている服とは違うんだ。
ちぐはぐな防具を着ているってことこそがA級の証明さ。
レジスタンスからの依頼でブルーフェイスの旦那といった帝国に軟禁されている奴らを救出する依頼をこなす実力はあるぜ。
だからこそ、それなりに修羅場をくぐっているし、その修羅場をくぐった分、いろんな人を嫌でも見ている。
その視点から見たブルーフェイスの旦那が王になる可能性は0%ということで仲間の意見が一致しちまった。
「となれば、これ以上、ブルーフェイスの旦那に付き合う理由がなくなっちまったな。」
「ちっ、折角、冒険者家業を引退して楽隠居できると思ったんだが、ブルーフェイスの野郎が甲斐性ねぇせいで当てが外れちまったぜ。」
「がっかり、うんざり。」
「でも、どうするっすー? 冒険者に戻るっすか?」
そうなんだよなぁ。
今、俺たちが冒険者に戻ったとしてだ。
「帝国に目をつけられるのは間違いなねぇ。」
「それを言うならもう、目をつけられてると思うぜ。俺達はレジスタンスの依頼で帝国が帝都を放棄したきっかけとなったタイタンと一緒に動いていた。帝国で軟禁していたブルーフェイスの野郎といった人質扱いの地底国家群の重役を開放したしな。」
「もしかして危険?危険?」
「まずいっすー。逃げるっすー。」
逃げるにしたってどうする?
「逃げて冒険者家業を再開するにしたって、帝国に目をつけられてるかも知れねぇ俺達に仕事を依頼する奴いるか?」
「アオイのところはどうだ。敵の敵は味方って言うぜ。」
「でも、でも信頼してくれる? 信頼してくれる?」
「そうっすねー。それに依頼をこなしているのに利益が出来ないで逃げるのは納得いかないっすー。」
だよな。
「それでよ。俺に考えがある。」
その一声でみんなが一斉に俺を注目する。
「俺達がA級冒険者なのは、いろんな理由があるが、冒険の末にいい装備を手に入れたってのはあるだろ?」
「まあな。俺のオリハルコンの2丁斧を超える武器なんてそうないぜ。」
「そうよ。そうよ。私の破壊のメガネも強い。強い。」
「そうっすねー。僕のマジックバック(特大)も使い方次第では最強っすー。」
俺はみんなの意見を聞き、大きく頷く。
「そうだ。俺達の装備は強い。そして世の中には、その俺たちの装備を超える、それこそ装備しただけで帝国と渡り合える装備がある。」
俺の言葉にゴンザエモンの目がきらりと光る。
「ドラウプニルっすねー。」
「そうだ。それを手に入れたら帝国も俺たちにうかつに手が出せないし、それこそ売ったら一生モノの一財産だ。引退してもいい。」
俺のこの一言でパパイアとマンタの目つきも変わった。
財宝を目にした冒険者の目だ。
「この国には2つのドラウプニルがあるな。それをいただくか。それこそ冒険者だぜ。腕が鳴るぜ。」
「いいね。いいね。やっとこのビキニアーマーから卒業できる!」
よし、俺達の意見はまとまった。
俺たちは冒険者だ。
冒険者は冒険者らしく、政略だの戦略だの、そんなことよりも目の前のお宝を狙う冒険者らしくしようじゃないか。
・・・それよりもパパイヤ。そのビキニアーマー嫌だったのか。
魔法・スキル抵抗力が段違いに高く、重量も軽いので良質な防具ではあるが・・・
女性としてあちこち露出してんのはやはり嫌だったか。
だよなぁ。
---from 山吹 side---
「帝都の守りを固める。」
アオイちゃんがそう切り出しました。
「ちょ、ちょ、ちょーっと待って。また敵が地上に来る可能性は? 最近、地上へのモンスターの進攻がちょいちょいあるじゃない。」
伊藤女史が異を唱えます。
確かに、モスの一族や竜人などが直接、地上に襲来しています。
地底国家群の交通の要所である帝都を抑えれば地上の襲来の可能性は低くなるというプランで動いていましたが、その目算通りにいっていないことを伊藤女史は気にしているのでしょう。
そして、守備兵力、具体的は僕たちレンジャーワンが地上ではなく地底の帝都にいるときに、地底のモンスターから来襲されることを恐れているようです。
「レンジャーワンは今や、ただのレスキュー隊じゃないのよ。」
伊藤女史が言葉を重ねてきます。
伊藤女史の言う通りです。
僕たちレンジャーワンはある意味、時の人になっています。
本来の目的であるリサ教授の救出は難航していますが
帝国の影響を排除し魔石発掘の再開の環境をつくり
地底国家群と交易をし
そしてレッドドラゴンや先日のモスの一族、竜人など地底から現れる脅威を立て続けに撃退した実績で、一種のヒーローのような扱いになってます。
非常に なんというか面はゆいですが。
そのヒーローが不在となると地上の人たちが「地底からまたレッドドラゴンのようなモンスターがでてきたらどうするの?」という不安になるのは目の前の伊藤女史の様子から容易に想像できます。
「そんなプロパガンダ気にしてたら勝機を失う。地底の戦いは基本的に狭いダンジョンでの戦い。軍という「数」ではなく少人数での「質」での戦いがメイン。こちらはライオンマン、赤石といった前衛タイプが不在。帝国はそのことを知っている。なら、この機を逃さず地底の交通の要所「帝都」奪還に動く。「帝都」が奪われたらこちらに味方した地底国家やそれこそ「地上」が危い。」
伊藤女史の懸念に対してアオイちゃんも引きません。
「なら、なおさらではないかしら?赤石クン不在で勝てるの?」
「逆! 前衛不在の私達が後手に回ったら負ける。最低、待ち構える状況を作らないといけない。」
うーん。伊藤女史とアオイちゃんのディスカッションが白熱してきました。
それはいいのですが、このまま平行線は不毛でしょう。
それに伊藤女史は気づいていません。
帝都を奪還されるということは、アオイちゃんの故郷である青の国が奪われるということです。なぜなら帝都からは簡単に青の国に行くことができるからです。
帝国は帝都を奪還したら次は青の国を狙うというのは十分に考えられます。
それならアオイちゃんは戦術面もそうですが、故国を守るという考えからも帝都を守る方針を変えないでしょう。
それに交通の要所である帝都を奪われると地上にも帝国が攻めやすくなるということなので危険です。
ここはアオイちゃんの方針で進めた方がよさそうです。
となると地上の防備を心配する伊藤女史をどう説得するかということになります。
「ちょっといいですか。」
僕は笑顔で二人の間に割って入ります。
こういうとき笑顔は大事です。ハイ!
笑顔効果でアオイちゃんと伊藤女史の二人が振り向きます。
「伊藤さん、先程の竜人の襲来。ゴーレムでの足止めのお陰で僕達が間に合いました。」
「? そうね? それが? あっ、補充のこと? 補充は既に石の国と話をつけてるわ。正直、地底国家との取引はレートが楽で助かってるの。石の国が必要とするものはこちらではそれほど高価じゃない食料品とかが多くてね。」
「それはよかったです。その大事な取引先の石の国のことです。帝都が奪われると石の国も連鎖的に奪われます。となると物理的にゴーレムの供給は無理になります。」
「あ・・・。」
「それに今まではモス・クイーンといった野良のモンスターや帝都を潜り抜けられる1名の地上への来襲で済みましたが、また帝国そのものの軍勢が地上に来襲してきます。」
「あ・・・それはいけないですわ。すぐに帝都へ向かってください。」
「ハイ!」
伊藤女史のころっと方針転換にアオイちゃんが何か言いたそうにあんぐり口をあけてますが、今は黙っておきましょうね。
せっかく、こちらのプレゼンが通って帝都死守の方針になったのですから。
そうですよね。
アオイちゃん。
---from 赤石 side---
「おい。」
ぬう。
誰かが我を蹴っている。
ぬう。
すまぬが体が休息を欲している状態であることは我が体のことながらわかる。
今は放っておいてほしいのだが。
更には寝ている我の頭を蹴るのもやめてほしいのだが。
「おい。」
再び何者かが我の頭を蹴る。
さすがの我でもこのような理不尽は許せぬ。
がばと飛び起きるとそこにいないはずの人物がいた。
「リサ姉・・・?」
「おう! 起きろ。」
ぬう。我の知る。
リサ姉がそこにいた。
我が現実認識できずに呆けているとリサ姉が言葉を続ける。
「いや。まいったね。」
リサ姉が頭を掻いている。
「遭難後、いろいろ考えたんだよ。」
考えた? 何をであろう? リサ姉は遭難したのだ。自力での脱出であろうか?
それは知っている。
自力で脱出しようとして、そしてショートカットしようとしてダンジョンを破壊し守護者に囚われたのではないかとふんでいる。
「何のことだ?って顔してるね。君のことだよ。」
我の?
「私が遭難したって知ったら。君は黙っていないだろ? 救出にくるだろ? ダンジョンは危険なのに。」
そう言って目の前のリサ姉は頭を抱えた。
当然である。
リサ姉のためなら危険など我の足をとめる障害にはならぬ。
「そう思ったからさ、君が妄動して危険な行為をしないように、いろいろ考えた末、君に正確な情報を与えることにした。 来るなって言ってもくるだろう? 自らの危険を顧みずにね。君には来るなという言葉は逆効果にしかならないと考えたんだ。」
さすがは尊敬する我がリサ姉である。
我のことを理解している。
「黒滝教授からも聞いていたんだが、そのドラウプニルとかいう道具のおかげで君の無茶な望みを叶えることができる能力を手に入れた。まったく山吹も余計な発見してくれる。おかげで私の愛する赤石が無茶をし続けている。」
ぬう。
リサ姉は我が捜索するのも反対だったということであろうか。
だが、反対しても我がリサ姉の捜索をするということを想定して、反対せずに消極的に現状の情報提供をし我が無茶しないようにしていたということであろうか?
「まったく、私も間抜けだが、君も無茶をするな。私にとって君の無事が一番の望みなのだから。」
ぬう。
その言葉はありがたいが、であればなおさらリサ姉の救出を諦める事はできぬ。
「脱出を狙って守護者に囚われたのは我ながら間抜けだったが、「願い」に対してはこのように超常の権能を使用できるというのはありがたいな。いくつか条件はあるが、離れている君と、このようにコミュニケーションがとれる。」
「リサ姉・・・ではやはり。」
「そう! ご想像通り! 間抜けにも自力で脱出しようとして守護者に捕まっちゃった。」
ぬう。そのように想定してはいたが、改めて本人の口からいわれると衝撃的ではある。
「でもね。私は自業自得なのさ。」
リサ姉は自嘲気味に笑った。
「自分で研究にのめりこんで、モンスターって危険がいるエリアだってわかっているのに研究成果が捗るからといってダンジョン内に研究所を構えた。いつ死んでもおかしくない死地に自ら飛び込んだんだ。結果、守護者に襲われたが命があるだけマシともいえる。だが君は違う。自分の命の危険を顧みないこの大バカ者に付き合う必要はないんだ。君も山吹も、アオイ姫もだ。」
ここでリサ姉は一息ついてから言葉を続ける
「ああ勿論、こんな言葉で君が諦めない事は理解している。理解しているからこそ君が妄動して危険な状態にならないようにSNSで正確な情報提供に努めたし、自分が守護者に囚われている状況を打破する方策を研究した。いろいろ考えたが、私が助かると、結果的に君が無茶しなくなる。無茶をしなくなる理由がなくなると考えたからだね。どう間違っていないだろう?」
我は肯定の意味で頷く。
「だけどね。君がそんな危険な状態になるなら話は別だ。」
一変。
リサ姉の表情が見たこともない厳しいものに変わる。
「私が石碑を欲したのは、研究の結果、守護者から囚われた状態を脱するに必要なファクターだと判明したからだ。フフフ、私はこの状態でも研究は欠かしていないのさ。我ながら研究馬鹿だと思うがね。それはともかく、その目的は君を危険な目に合わせないためなんだよ。君が危険なことに首をツッコム理由を無くすためなんだ。だがね。それで君が危険な目にあっていたら本末転倒だ。だから、ここから『お願い』だ。」
ここでリサ教授は言葉を区切る。
そして厳しい顔のまま、強い言葉を我に投げかけた。
「あとは私のことは諦めて手を引き給え。」
リサ姉のこの言葉を聞いた時、我の体が、いや魂が裂けるっ!
そんな痛みを我は受けた。
なんだ? これはっ。
我の中から何かが出てくる。
その出てきたもので我が塗りつぶされるっ。
「嫌だ。リサ姉の願いが僕の安全なら、僕の『願い』はリサ姉の無事だっ!」
・・・ぬう。なんだこれはっ。
我の中から出てきた何かが、我の体を口を支配し我の意思とは別に体と言葉を発している。
「リサ姉は大バカ者なんかじゃない! 自分のことを省みないし、ファッションよりも研究を一番にしているけど、それもこれも皆のためじゃないかっ。僕はそんなリサ姉が好きだ! 絶対に諦めない! それが僕の『願い』だ。」
・・・・
・・・・
・・・・
我の中から出てきた何か・・・そう・・・別な意志とでもいうべき存在が啖呵を切る。
リサ姉が驚いた顔をした。
その後、暗い暗い顔をする。
「もう一度言う。私の『願い』は君が平穏無事に危険な目にあわずにいることだ。」
我の中から出てきた別な意志がそのリサ姉の言葉に反論する。
「僕の願いはリサ姉を救出して、また一緒に暮らすことだっ!」
・・・・
・・・・
・・・・
リサ姉がため息をついた。
暗い暗い顔が元に戻る。
「そんなら、私を安心させなさい。もうぶっ倒れるような無茶はしないこと。いい?」
我の体から別な意思が消え、制御が戻る。
我は頷きリサ姉の質問に答える。
「まったく。一度だけよ。次に同じようにぶっ倒れたら強制終了だからね。」
そう言ってリサ姉は我に手をかざす。
ぬう。
これは!
我の体に活力が戻る。
意識が浮上する。
「なぜって顔ね。」
我はリサ姉の問いに頷く。
少なくともリサ姉にこのような超常の権能は無かったはずである。
「私も研究途中だから仮説段階だけど、守護者に一度、囚われると、自分が最も望む『願い』に自己の行動が囚われるようね。まるで理性を司る前頭葉が無くなったかのようだ。今の私は理性なく『願い』のためだけに活動する獣に近い状態かもしれないな。そのため自分が最も望む『願い』以外の行動がとれなくなる。つまり自ら脱出が出来なくなっているようだ。」
!
「その代わり自らの『願い』に対しては奇跡のような力を使う事ができる。このようにね。」
ぬう。
我のダメージが消えた。
「もう一度言う。私の『願い』は君の無事。次に倒れたら、この奇跡の力を使ってでも私の捜索をやめさせる。よく覚えといて。」
リサ姉のその一言と同時に我は目覚めた。
当たりを見渡す。
どうやら病室らしい。
我はあの竜人との戦いで意識を失い、ここに入院していたのであろう。
それにしても、今のは夢か?
いや、この体に漲る力が夢ではないと訴えている。
リサ姉が助けてくれたのか?
その『願い』をかなえる超常の力で。
超常の力と言えば我の中から出てきた別な意思のようなもの
あれはなんなのだ?
我は今まで経験したことのない、得体の知れぬ、漠然とした不安に襲われた。
---from アオイ side---
「せ、せ、せっ接敵! こ、こ、これはっ! 帝国です! 帝国が攻めてきました。」
帝都で待機していた私たちにメンドーサから連絡がきた。
このことは既に想定済み。
私が帝国にいたら、この機を逃さず攻めてくるだろう。
さすがは地底を一時制覇した帝国。
戦術に隙が無い。
「敵は?」
「し、し、し四天王です。四天王デビルフィッシュがきました。その他は白井さんにエルフの剣士。あとアオイ様のお兄様一行もきています。その他、十名程度の兵士が従っています!」
その報告に私は眉を顰める。
基本的に地底国家同士の戦いは国家間の通路になっているダンジョン内で行われる。
狭いダンジョン内では軍隊は機能しない。
そのため勝敗を分けるのは個々の強さだ。
そしてその個々の強さでは持てる限りの最大の戦力を投下してきた。
「本気だ。」
『そうですわねぇ。さすがのお姫様も難しいかしら。』
カグヤが揶揄とも本気ともとれる質問をしてきた。
確かにカグヤの言う通り難しい状況。それなら、僅かばかりの状況への抵抗として定石じゃない方法で進めるだけだ。
「相手に付き合ったら難しい。なら付き合わないだけ。」私はカグヤの問いにそれだけを答えた。
---from 白井 side---
「ちぃ。隙が無いな。」
俺はイラついた声をあげた。
俺達は」帝都奪還へ向けてダンジョン内を進軍している。
メンバーは四天王デビルフィッシュを頭に俺とブルーフェイス一行。そしてエルフの剣士ルールに荷物持ちを兼ねたマーマンの戦士15名だ。
デビルフィッシュの副官ミスクロウとプロミネンスは前回の戦いでの負傷が重く今回は従軍していない。
俺としてはミスクロウとプロミネンスとの経緯から二人が残っているという状況に不安を覚えているが、あの怪我であればしかたがない。傷がいえるまでミスクロウには休んでもらわなければならない。
それはともかくだ。
俺達がダンジョンを帝都に向けて移動していると目の前が光った。
即座に敵の光魔法による攻撃と判断した俺はドラウプニルを起動。
変身し、斬魔剣で迎撃する。
俺の斬魔剣は文字通り魔法を斬る剣だ。
フン、俺に魔法は通じんよ。
という油断が悪かったか。
間断なく四筋の光魔法による攻撃が間断なく行われた。
これには正直、閉口した。
俺の斬魔剣は振りかぶる→斬るという2アクションが必要だ。
しかも背丈より大きな幅広のバスタードソードでのアクションだ。
そう連続して行うことはできん。
つまり、ここまで連射という表現が生ぬるいと思えるほど、洞窟を埋め尽くす光の攻撃魔法が間断なく続けられると、モーションの大きい斬魔剣では対応できない。
これが俺がイラついている原因だ。
ちぃ、対魔法では絶対的なアドバンテージを持っていると思ったんだがな。
まさかこんな課題がでるとは思わなかったぜ。
これは被弾覚悟で突っ込むしかないか?
このドラウプニルの鎧と乗騎白澤の防御結界なら、それでいけなくも無いが・・・
俺はデビルフィッシュの顔を伺う。
このパーティではデビルフィッシュがリーダーだからな。
独断専行はできん。
その時だ
「これはマイハニーの仕業ですね。ここは私に任せていただきましょうか。」
とブルーフェイスが名乗り出た。
こいつに何かできるのか?
いや、アオイと同じく青の国の人間だ。
俺の知らない魔法か何かをもっているの可能性がある。
「ゴンザエモン、お願いしますよ。」
「ちょ、ちょっとー。そこで俺にふるっすかー。ブルーフェイスの旦那がやるっていったんですから。旦那がやってくださいよー。」
「何を言うのです。ゴンザエモンであればこの程度は簡単でしょう。私は状況に応じて犠牲の少ない最適な方法を提案しているのですよ。」
「まあ、できなくもないっすけど。」
そういうとあんこ型体系のゴンザエモンという男は文字通り大風呂敷を広げた。
これは比喩じゃない。
物理的な話だ。
広がった大風呂敷はダンジョン一面を覆う。
当然、広がった大風呂敷に今、進軍を止める原因となっている光魔法の間断ない砲撃が直撃するが大風呂敷は破れない。
「へー、すごいじゃん。どうやってんのこれ。」
エルフの剣士ルールが興味をもってゴンザエモンに聞く。
ゴンザエモンは顔を真っ赤にし照れながら
「空間魔法ッスー。あの風呂敷の内側はマジックボックスになってるっスー。」
と答えた。
フン、なるほど。
マジックボックスは亜空間にものを収納するマジックアイテムと聞く。
敵の光魔法の砲撃を収納していってるわけだ。
「さあ、この大風呂敷を広げたまま進軍しましょう。小賢しい砲撃など無駄です。」
ブルーフェイスが得意げに言った。
いや、てめぇ何もしてねぇだろっ。
とは思ったが、このまま進軍することに嫌はねぇ。
防ぐことできているしな。
御大将のデビルフィッシュもそのまましたがったのでだまって従うことにした。
---from アオイ side---
「て。て。敵。ゴーレムの砲撃を気にせずこちらにむかってます。」
メンドーサの報告を受けて私は思案する。
被弾覚悟でダメージを受けながら進んでくるなら良し。そうじゃなくてノーダメージで進軍するなら方針の変更を考えなければいけない。
「どんな風に進軍しているかわかる?」
「え、え、えーっと。ちょっと待ってください。あ、こんなことできるの?」
「どうしたの? 報告は明確にしてっ。」
「あ、あ、あ、あ。はい。マジックボックスです。洞窟通路の大きさのマジックボックスを盾にしてゴーレムの砲撃を収納しながら進んでいますっ。」
「なっ。」
なんてデタラメな進軍方法。
これは帝国正規軍の手法じゃない。
そうか。あそこにはアホ兄ィもいた。
アホ兄の仲間に空間魔法の使い手がいたはず。それか。
あのアホ兄め。どこまでも邪魔をしてくるな。
それはともかく、相手がノーダメージならゴーレムの間断ない砲撃で洞窟通路を埋め尽くす作戦は無意味だ。
「作戦変更。水際作戦へ移行っ!」
私はその指示を出すとともに機械仕掛けの狼ゲリとフレキを呼び出す。
今回、出し惜しみは無しだ。そんな余裕はない。
---from 白井 side---
「ふぉ ふぉ ふぉ さすがのアオイも無駄だと気づいたらしいな。」
デビルフィッシュが状況を見て誰ともなくいう。
光魔法の攻撃が止んだことを言ってるのだろう。
「愛しのマイシスターも馬鹿ではないのですよ。」
ブルーフェイスが得意げに答えてやがる。
敵を褒めてどうする?
「ふむ。さすがはアオイを出し抜き、青の国を帝国にもたらしただけはある。」
デビルフィッシュはブルーフェイスをおだてた。
フン、実際には単に祖国を裏切っただけだがな。
アオイとやらも実刑に裏切られるとは思いもしなかっただろう。
俺はクイっとメガネをあげた。
「ふぉふぉふぉ。それで、そのアオイはどう動くと思う? ブルーフェイス殿の見立てをお聞きしたい。どうやらアオイ殿の戦術は兄であるそなたが一番理解されているようですからな。」
「そうですね。」
ブルーフェイスは思案する。
「一対一では不利だと想定しているでしょう。ですから逆に入り口にて大勢で待ち構えて数の暴力で対抗するのではないでしょうか?」
「ふぉ ふぉ ふぉ、定石とは真逆だな。」
「ええ、定石通りダンジョン内での少人数の戦いでは勝てないとは思っているでしょう。ですから・・・」
「ふむ?」
「こちらも帝国の定石ですすめるのはどうでしょう?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ 帝国の定石とな。」「
「ええ、デビルフィッシュ様が真の姿をお見せしたら敵に勝ち目はないでしょう。」
フン、このブルーフェイスという奴。
いけ好かないが、頭は回る。
アオイは狭い軍勢の入れないダンジョン内の戦いを捨てて、広い帝都に引き込んで戦うと読んだ。
それに対抗するため帝国が覇を唱えた必勝の策を使えとあのいけすかねぇ野郎は提案している。
具体的には巨大モンスターを人化魔法で人間サイズに縮小して狭いダンジョン内を移動。敵の街に入ったら人化魔法を解いて巨大モンスターで制圧する帝国必勝パターン。
そしてデビルフィッシュは巨大化ができる。
つまり必勝パターンがとれるわけだ。
気に入らねぇ。
気に入らねぇが最善の策だ。
「何、イライラしてんの? 怖いんだけど。」
エルフの剣士ルールが俺をジト目でみてやがる。
「フン、文句あるのか?」
「文句っていうか・・・恋人が一緒にいないだけでそうイライラしないでよって感じ?」
は? 恋人? 何を言ってるんだこいつは。
「あれー、違った? ミスクロウって恋人じゃないの? いつもー一緒にいるじゃん。」
は? 何を言いやがる。
ミスクロウは・・・・
ミスクロウは・・・・
俺の・・・
俺の何だ??
---from デビルフィッシュ side---
ライオンマンは逝き
地上の勇者 レンジャーワン レッド 赤石は倒れた。
タイタンも去った。
ふーむ。好敵手が退場していくのう。
致し方ないところではあるが、物足りんのも事実よのう。
好敵手との戦いは俺がフリーの格闘家だった時代からのライフワークのようなもではあるが・・・ライオンマンとは違い目的ではない。
しかたあるまい。
善悪を内包し神に至るという俺の目的に戻るとしよう。
帝王、そして宰相ユミルのお陰で神に似た力は手に入れた。
姿形は我ながら神は神でも邪神のようではあるがな。
つまりは俺が目的とする神にはまだ至ってはおらぬ。
俺が神を意識したのはいつからだろうか。
一度、一度だけ見たことがあるのだ。
善悪を超越したような存在に。
その存在はこの地底世界の格闘大会で10年連続№1の格闘家存在となった俺をして勝てぬ。どころか同じ土俵にすら立っていないと感じさせるには十分の存在であった。
あれこそ神ではないか?
衝撃的であった。
上には上がいる。
使い古された言葉ではあるが、目の前に存在するとなる怒りや理不尽を通り越すようだ。
俺はそのような存在になりたいと思った。
俺やライオンマン、ミスクロウがいた国は亜人の国だ。
亜人の国というと亜人が支配しているように聞こえるが実態は違う。
亜人の数が多いだけだ。
実際は多数の亜人を少数の人間が差別している国だ。
俺はその国に嫌気を感じていた。
手っ取り早く考えたのは強くなる事だった。
強ければ侮られなくて済む。
そのため格闘技を学んだ。
今思えば才能はあったのだろう。
すぐに頭角を現し、紆余曲折の末に格闘大会の王者として君臨することになった。
ちなみにライオンマンとミスクロウはその時代の対戦相手だ。
ライオンマンはその後も俺を好敵手として接してくれていた。
ミスクロウは逆に闘争ばかりを続ける俺を心配し、いろいろ手を焼いてくれるようになった。
ま、だから俺にとってはあの二人は副官ではなく戦友だ。
思えばあの頃が一番楽しかった。
元々は差別に負けぬように、侮られぬようにと始めた格闘技だったが、王者になるとは人生どうなるかはわからぬものよ。
王者になった俺だが「まだ上に行ける。」と内なる声が常に聞こえていた。
強欲なことだ。
戦う相手すらもはやいないというのに。
そんな時期だ。
先に話した善悪を超越した存在にであったのは。
これだ!
とも思った。
俺が「まだ上に行ける。」と感じたのは決して無根拠の希望的なものではない。
根拠がある。
それは俺のファイトスタイルにある。
蹴りと投げ技を駆使した正統派スタイル・・・この時に俺の顔は赤いらしい
蛸足を槍にして敵を刺す。首を絞める。蛸墨での煙幕による目隠しという残虐ファイト・・・この時に俺の顔は黒いらしい。
客観的な意見としてミスクロウにこのことを指摘されたとき、俺はまだまだだと思った。
正統派スタイルの赤い顔。残虐ファイトの黒い顔。
詩的に言えば「善と悪」
これを別々に行うのではなく、融合しあえば、もっと上に行ける。
それこそ善悪を超越した神のごとくだ。
そういう確信のようなものがあった。
だから、まだまだなのだ。
王者と言われてもなお、まだまだなのだ。
強欲なものだと自ら思うが、この衝動はとめられぬ。
その時に出会ったのだ。
善悪を超越した存在と
神と
それが地底帝国帝王
俺は彼の下で神とは何かということを見たいと思った。
見て学びたい思った。
同じように「神」に至るため。まずは「神」を間近で見たいと思った。
一方、帝王も俺の戦力を欲していた。
何でも生き別れになった3人の兄弟神がいるという、彼らを探すのが目的だといった。
ただ、地底国家群は広い。
国の数も多い。
協力するどころか「神」の権能を利用しようとする輩もいる。
そのために解りやすく「力づく」でその「願い」を叶えようとしていた。
そのために俺の戦闘力が欲しいと言った。
俺と帝王の利害は一致した。
俺も少しづつだが「神」に近づけた実感はある。
帝都を占断していたタイタン戦で見せた巨大な姿もそうだ。
ただし、あれは神は神でも邪なるもの。邪神だろう。
俺が目指す。
善悪を超越した存在とはいえない。
とはいえ邪神にまでは成れたのだ。
そう遠くない未来ではないか。とは感じている。
そのためにもまずは帝都奪還し、地底帝国を復活させようではないか。
そして帝王のいう三柱の神を探す。
今は帝王、一柱のみだが、これに三柱が加わるならば、俺の「願い」にまた近づくといいうものよ。
アオイよ。
申し訳ないが、俺と帝王の「願い」のために消えてもらおう。
その思いを秘め、俺は一行を率いダンジョンを進み
そして帝都の入り口付近まで来た。
ここまで敵がいないということはアオイはダンジョン内での防衛を諦め、帝都での広い場所での決戦。つまり広さが生かせる数による勝負を考えてるのであろう。
ブルーフェイスのいう通りの展開よ。
なら、俺はブルーフェイスの進言に従い、裏をかいてやろう。
つまり、帝都に出ると同時に巨大な邪神に変化し、一気に占領しようじゃないか。
そう思い。
俺は一行に先じてダンジョンを抜け帝都に出る。
「む。なんだっ!」
俺の体に衝撃波が叩きつけられる。
慌てて前方を見ると巨大な機械仕掛けの狼が2体いた。
その一体から衝撃波が発せられていた。
あの機械仕掛けの狼は見たことがある。
アオイの眷属だ。
たしか、衝撃波で敵の動きを封じる奴だ。
もう一方の狼は確かー。
そう考えるやいなや。
俺の足元から巨大な鎖が無数に顕れ、俺は封じられてしまった。
もう一方の機械仕掛けの狼の仕業だ。
「こちら余裕ないので失礼します。スキーズ!ドラゴンブレスです。」
『イエス! マスタードラゴンブレス!』
目の前の帝都の上空に浮かぶ空飛ぶ船から五筋のドラゴンブレスが俺目開けて発射される。
ぬ、ぬおおおおおおっ
神に至らんとするこの俺がこんなところでっ!
俺はここで意識を失った。
---from アオイ side---
賭けに勝った。
狭い通路を利用したダンジョン内での防衛はゴーレムの光魔法の砲撃が無駄に終わった時点で諦めた。
敵のメンバーはメンドーサの報告で把握済みだ。
こちらの戦力。
私と山吹。そして最強剣士ライトもいるが、これでは役不足だった。
そのため広い帝都まで引き込み戦う作戦を狙ったが、一つ私の作戦には大きな穴があった。
帝国が地底国家群に覇を唱えることができた戦術。
人化魔法を用いた巨大モンスターの降臨。
地底の国家間はダンジョンで結ばれている。
これが攻めるうえで非常に厄介。
軍隊は通れない。巨大モンスターも通れない。
それを解決したのが帝国の戦術。
巨大モンスターを人化魔法で人間サイズにしてダンジョンを通過
通過後、人化魔法を解いて巨大モンスターに戻り暴れまわる。
その暴れまわった隙をついて軍勢がダンジョンから出る。
というシンプルだけど効果的な戦術。
私の作戦の場合、帝国がこの戦術を使ったらどうしようもない。
という穴がある。
最悪なのは攻めてきたメンツから想像するに巨大モンスター役が四天王デビルフィッシュということが想定されること。
あいつも成長していて、先日、帝都で相対した時、タイタン相手に巨大化した姿を見せていた。不気味で グロかったけど。
幸い、山吹の先制ドラゴンブレスで倒せたからあの時はよかったけど。
だから、前回同様、今回も真っ先にデビルフィッシュを狙った。
デビルフィッシュが巨大化した時点で詰みだから。
巨大化する前に二体の機械獣で動きを封じ。前回同様、山崎のドラゴンブレスをぶっ放してもらった。
山崎のドラゴンブレスはスキーズの変形モーションがあるため、発射まで時間がかかるのが弱点。
そこを補う、開幕ドラゴンブレスだ。
最初から変形しドラゴンブレス発射形態になっていれば、その弱点はカバーできるから。
狙いは上出来!
これでデビルフィッシュはリタイア。
残るメンツで巨大化の可能性があるのは、メンドーサの報告にあった十名程度の兵士。
その兵士に人化魔法で人間サイズになった巨大モンスターがいるとも限らない。まっさきにそこを叩く。
私は最強剣士ライト、山吹、メンドーサ、そしてゴーレム軍団に号令をかけた。
---from 白井 side---
「フン。やりやがるっ。」
俺は目の間のアオイの軍団に切り込みつつ感嘆の声をあげる。
アオイの兄。ブルーフェイスがアオイの戦術の穴を見抜き、デビルフィッシュに献策した策はアオイに読まれていたようだ。
真っ先にデビルフィッシュがリタイアとなった。
いけ好かないブルーフェイズに対する「アオイの方が上手じゃねぇか。」という嫉妬にも似た気持ちと、真っ先に倒れたデビルフィッシュの安否を気にする気持ちが俺の中で交錯する。
が、ここは戦場だ。
目の前にゴーレム軍団も、レンジャーワンのイエローが呼び出したであろうバイク軍団もいる。
目の前の敵に集中だ。
ふと見るとゴーレムの砲撃とバイク軍団が俺に集中している。
俺を狙っている?
フン、ゴーレムの砲撃は魔法の砲撃。俺の斬魔剣で対応できる。バイク軍団は直線的な動きしかできん。
この程度でドラウプニルを装着している俺を倒せると思うなよ。
---from 山吹 side---
デビルフィッシュさんには早々に退場してもらいました。
もちろん、これで倒せたと慢心はしていません。
過去にデビルフィッシュさんは僕のドラゴンブレスを受けて戦場からは一時撤退しましたが後に復帰しています。タイタンさんの魔法で作った溶岩の海に落ちても復活しました。恐ろしい生命力を持っています。
ですが、この、今の戦いでの戦線復帰は難しいでしょう。
一番の難敵がリタイアしました。
次の難敵は僕達と同じくドラウプニルをもつ白井さんとエルフの剣士さんです。
エルフの剣士さんはライトさんが受け持つそうです。
前回の対戦の悔しい気持ちがあるのでしょう。
となると残るは白井さんです。
白井さんは白い乗騎に乗って突撃してくる可能性があります。
非常に危険です。彼をどうにかする必要があります。
僕はスキル「錬金」と炎の剣レーヴァティンを組み合わせてバイク軍団をつくります。
開幕ドラゴンブレスで魔力的な何かが枯渇しているのか、かなり疲労感がありますが、気にしている余裕はありません。
ゴーレム軍団を指揮する青の国のカイ将軍と目が合います。
お互いに頷き、僕はバイク軍団に突貫をカイ将軍はゴーレム軍団に砲撃指示を出します。
標的は白井さんです。
これで仕留めれると思ってはいません。
足止めできればいいのです。
アオイちゃんとメンドーサさんがブルーフェイス一行や敵の兵士を倒すまでです。
白井さん申し訳ないですが、少し足止めさせてもらいます。
---from アオイ side---
「gandr! gandr! gandr!」
私は敵の帝国兵をマジックミサイルで打ち抜く。
巨大モンスターが人化魔法で帝国兵に化けている可能性が払しょくできない以上、最優先で倒さなければならない。
敵の帝国兵は事前のメンドーサの報告では10名程度ということだったが、実際は15名のマーマンという種族だった。
5名程度の誤差なら問題ない。
「gandr! これで・・・ラストォ!」
最後の帝国兵を倒したあと拍手が聞こえる。
「ブラボー! さすがは愛しのマイシスター。まさに無双無敵だ。」
そう言ったのは私のアホ兄-ブルーフェイス-だ。
「・・・ずいぶん余裕。今は敵味方だって理解してる?」
「もちろんさ。マイシスター。だから敵として伝えるよ。帝都を譲り給え。それは元々帝王様の所有物だよ。」
「あんた馬鹿? はいそうですかと渡す人がどこにいる?」
「何を言っているんだい。高貴な人間に譲り渡すのが摂理だろう?」
ダメだ。
実の兄ながら会話が成立する自信がない。話題を変える。
「私が怒っているのを理解してる?」
「何故だい?」
「なっ、祖国をっ! 青の国を裏切っておいてっ!」
「裏切る? ですか?」
「アンタ自分の仕出かしたことも理解してないの?」
「愛しのマイシスターも言っていいことと悪いことがありますよ。いいですか? 私は青の国の王子です。つまり私が青の国なのです。裏切るも何もないのですよ。」
「アンタ、それ本気で言ってるの?」
「? 本気も何も当り前のことじゃないですか。」
なんだ。こいつ、我が兄ながら会話が成立しない。さらに問い詰めようとしたときカグヤがささやいた。
『アンタ。アホですわねぇ。何を呑気に敵の術中にはまってるんですの。』
ん? どういうこと?
私がアホ兄の術中にはまっている?
『普段の観察眼はどうしました? 今、彼の周りには誰もいませんわ。』
ん?
そう言えば、ヒートアップしてたから気づかんかったけど、いつも護衛のようにいる冒険者4人組がいない。
『あそこにいますわ。』
カグヤに促されて見ると二手に分かれて、白井、エルフの剣士のほうにむかっていっていた。
援軍にいったの。
するとこのアホ兄は・・・
『アンタの足止めのために巧妙な弁舌をふるっているだけですわ。それにしてもスゴイ弁舌能力ですわね。四天王の一人アオイを口先三寸だけで足止めし、戦況を有利にさせました。』
む。
む、む、む。
言われて少し冷静になる。
確かに戦術的に拙い。
エルフの剣士と相対しているライトだが、これにブルーフェイスお抱えの冒険者2名が加わるとなるとライトの負けが確定する。
白井の方もそうだ。
山吹とカイ将軍にゴーレムを率いて足止めをおねがいしているが、この戦局に冒険者2名が加わるとなると、こちらも足止めは難しく突破される可能性が一気にあがる。
私が担当のこの場所は敵兵士は倒した。その後、アホ兄と一戦もせずに・・・足止めを受けていた。しかも物理的にも魔法的にも何かされたわけではなくて、ただの「言葉」でだ。
私は青くなると同時に急ぎマジックミサイルを繰り出す
「gandr!」
「ぐべらぁ!」
不意を打たれたアホ兄はまともにマジックミサイルをうけて吹き飛ばされた。
いや、あのな。
仮にも魔法で名前を売っている青の国の王子がそれでいいのか。
それはともかく
「サンキュ。カグヤ。」
『なんですか急にキモチワルイですわ。』
「キモチワルイってひどくない? あのアホ兄ィの弁舌でヒートアップして、まんまと足止めを喰らっていた私に忠言してくれた感謝を言ったのに。」
『あまりにもアホ過ぎて、呆れていただけですわ。キモチワルイ。』
「あー。またキモチワルイって言った。」
『そんなどうでもよいことよりも、お姫様 どちらに向かいます?』
む。
むむ。
確かに、ここでカグヤと言い争っている場合ではない。
場合ではない。場合ではないがなんというか・・・
ええーい。
カグヤとの議論はあとだ。
どっちにいくかというのは
ライトVSエルフの剣士の戦局の方か
山吹VS白井の戦局の方か
という意味だろう。
私は目を一瞬、目をつぶり決断する。
そしてライトの方へ向かった。
---from ルール side---
「ちょ、ちょーっと待って。性急過ぎじゃない。余裕がない男ってキライなんだけどー。」
「・・・生憎、本当に余裕がない。」
目の前の敵。
最強剣士として名高いライトがうざいくらいの超接近戦を挑んでくる。
うざい。
狙いはわかるけどさー。
少しでも離れたらスキルやドラウプニルから得た権能を使われると思ってるんでしょ。
だから純粋に剣の勝負ができる間合いを維持したいってことよね。
わかる。わかるんだけどさー。
私がそれに付き合う義理はないっつーか。うざい。
まとわりつくな。
シルフを呼ぶ暇もないじゃんか。
かなり強引に接近戦にもってきたのは正直、焦った。
もっとスマートな戦い方をすると思ってたもんなぁ。
それにしても・・・。
正直、この間合いだと不利なんだけどー。ドラウプニルの鎧のお陰で何とかなっている感じ?
この鎧すごいよね。
対戦しているライトは最強剣士という名がつけられるだけあって強い。
純粋な剣の勝負だと負ける。
悔しいけど。
あーあ。剣の腕には自信があったんだけどなー。
それはともかく。
本当であれば致命傷を受けるような斬撃も実は受けている。
でも、このドラウプニルの鎧のお陰で斬られることなく五体満足で戦えている。
レンジャーワンはこのドラウプニルを装備して戦っているわけだ。
ずるいよね。
確かにこの鎧があれば四天王が相手でも、装備者が素人でも勝てるんだよね。
今、膠着してるのはライトが無理やり接近戦に持ち込んでいるからなんだけどー。
その無理やり持ち込んだ接近戦で致命傷を受けないんだったら、勝ちよね。
この無理やり持ちこんだ接近戦もいつまでも続かない。
スタミナは無限じゃない。
スタミナが切れたら間合いをとって反撃する。それで勝ち。
焦る必要もないなー。
うざいけど。
何気にこの最強剣士さんも不幸よね。
剣技は最強なんだけど、勝ちが取れないっていうか、運がないっていうか。
実力はあるのに勝利の女神に見放されてる感じ。
まあ、こんだけしつこいと女に嫌われるよね。
およ?
ブルーフェイスお抱えの冒険者2名がこっちにきたー。
なんて言ったっけ?
あー。そうそう、ブルータスとパパイアちゃんだっけ。
なんで?
援軍てわけ?
それともブルーフェイス倒されちゃった? それでこっちにきた?
どっちでもいいや。援軍には変わらないよね。
この最強戦士はとことん勝利とは無縁だね。カワイソー。
これで完全に勝ち目なくなったじゃん。
その時-。
「え?」
思わず声がでた。
ドラウプニルの装甲が魔力の塊に変化して消えた。
「え?」
現実に理解が追い付かずフリーズする。
だって、そうでしょう?
この最強剣士と剣の間合いで戦って、それでも互角だったのは偏にドラウプニルの装甲が最強剣士の剣を防いでいたから、それが無くなったというのなら―。
「・・・山吹殿のいう通りだったな。ドラウプニルには時間制限がある。」
うそ。そんなこと聞いてない。
「・・・これは最初から俺のスタミナとドラウプニルの制限時間。どちらが勝つかの勝負だった。俺の勝ちだ。」
最強剣士の剣が迫る。
「それはダメ。ダメ。」
パパイアちゃんのメガネが光る。
ライトとの間に光線が走り、とどめを刺そうと迫るライトが飛びのく。
「おっとぉ!」
誰かが倒れ掛かる私の体を支えた。
振り向くと筋肉だるま・・・いや違った。ブルータスがいた。
「助けてくれたの?」
その問いにブルータスは白い歯を見せにこりと笑い。
「そういうわけではない。どうしても欲しいものがあってな。」
そういうとブルータスは剣を握っている腕をとり、関節技に極めた。
急な痛みと急展開に気が動転し、地面にそのまま倒れこむ。
関節を極められた痛みで思わず剣が手から離れる。
「パパイアっ!」
「はい。はい。ゴメンネ。ゴメンネ。」
パパイアちゃんはそういうと極められた腕に装着されたドラウプニルを奪った。
え!
あまりの展開に頭がついていかず戸惑う。
「キャハハっ! やったよ。やったよ。お宝だ。お宝だ。」
「ドラウプニルには制限時間があるという情報は正しかったようだ。パパイア、次に行くぞ!」
そういうと二人の冒険者はこの戦場を去った。
残ったのは目の前の最強剣士ライト
「・・・不憫な。やつら援軍ではなく。ドラウプニルを盗みにきたのか。だが、それはそれ。敵は確実に減らす。」
ライトの白刃が容赦なく迫った。
---from 山吹 side---
「フン、雑魚どもがぁ!」
白井さんの叫びが戦場に響きます。
僕の呼び出したバイク軍団を蹴散らしながら突っ込んできます。
確かに雑魚ですね。
もはや僕の得意とするバイク軍団もレベルが違いすぎて、白井さんクラスだと役にたたないようです。
僕は深呼吸します。
ここで飛び出して行っては前回の二の舞です。
僕の本領は後方からのディレクション。
前線で戦うことではないのです。
いざとなればもう一段変身を行いますが、まだ早いです。
僕はレーヴァティンを振るいます。
レーヴァティンは炎を生み出すことができます。
その権能を活かして、炎をバリケードを設置します。
そしてゴーレムの砲撃やバイク軍団の突撃攻撃の射線に白井を誘導し、可能な限り足止めを狙います。
「フン! 斬魔剣!」
・・・っ!
炎のバリケードを回避すると思いきや、炎のバリケードを叩き壊して突撃してくるようです。
白井さんの斬魔剣は魔法を斬ります。それにはレーヴァティンで生み出した炎のバリケードも含まれるようです。
バイク軍団もNG ゴーレムの光魔法の砲撃もNG 炎のバリケードもNGとなると・・・
「おい、ゴーレム軍団前に出るぞ。」
ゴーレム軍団を率いる青の国の将軍。カイさんがそう言って僕の横に立ちます。
ゴーレム軍団は制作者である石の国のファイブ親方やシン少年らが当初率いていましたが、やはり軍の運用はゴーレムの制作とは別な能力らしく・・・現在は軍の運用に長けた青の国のカイ将軍が指揮をとっています。
そのカイ将軍が僕に提案してくれた内容は僕の考えと一致しています。
「お願いします!」
僕は頭をさげます。
「狙いは時間稼ぎです。」
「あいよ。わーってる。」
カイ将軍はそう言って手の平を振って合図し、背後のゴーレム技術者へ
「ゴーレム前へ!」
と号令をかけます。
カイ将軍は僕の意を汲んでゴーレム軍団に指示してくれました。
ありがたいです。
こういったチームで動く場合。一番の懸念は組織の意思がバラバラになることです。
勝利まであと一歩というところで足の引っ張り合いや裏切りで負けたというのは歴史が何度も教訓として残してくれています。
まだまだ戦える。そう思いました。
白井さんの特徴は「斬魔剣」です。
文字通り魔法を斬る剣です。
魔法を斬れますし、当然、物理的にも攻撃できます。どちらかと言えば斬るというよりは重量で叩き潰す感じですが。
魔法にも物理にも対応できます。
こういうと無敵のようですが見たところ弱点も多いようです。
大きく振りかぶり大上段から振り下ろさないと魔法を斬る効果が発揮できないようです。
つまり連続対応はできません。
実際によくよく見ると白井さんあちこち被弾しているようです。
それを感じさせないのはドラウプニルの鎧の装甲と乗騎白澤が創り出す結界。
この防御力で被弾を防いでいるのが実際のところのようです。
少し安心しています。
僕は元々、リサゼミの研究員です。
戦いの訓練をしているわけではありません。
リサ教授の捜索という成り行きと、
神々が封じられていた魔石を研究した結果ドラウプニルを手に入れたという成り行きから、このような場にいるわけで戦闘そのものが得意と言ったことはありません。
白井さんも同様のはずです。
元は伊藤女史の同僚。詳しい役職はわかりませんが元政府関係者と思われます。
趣味で筋トレはしていたようですが、特段戦闘訓練と言ったものをしているわけではありません。
それでもあそこまで戦えるのは驚いていました。
よくよく見ると実際にはドラウプニルの装甲や白澤の結界に守られていたということでちょっと安心してます。
僅かな期間に歴戦の戦士として戦えるようになっていたらちょっと凹みます。
そして突くのはソコです。
いくら強くても戦闘経験で言えば1年ですらありません。
ここで職業軍人のカイ将軍が砲台となっていたゴーレム軍団を接近戦へ移行させます。
ゴーレム軍団が中々いやらしい動きをします。
徹底的に白井さんの振りかぶるモーションを阻害する動きです。
さすがはカイ将軍。
これで白井さんの動きはとめました。
あとはアオイちゃんがくるまで待つだけ・・・
ここでものすごい轟音が鳴り響きます。
見ると一体のゴーレムが粉砕されていまます。
「フン。この程度で! デビルフィッシュに鍛えられたのは伊達じゃねぇ!」
白井さんが剣を両手にし、ゴーレムを叩き伏せています。
「いくぞっ!」
白井さんが僕に突撃をしかけます。
僕はレーヴァティンで迎撃しますが、一撃で吹き飛ばされます。
ぐっ! ダメージもそうですが、白井さんの実力が想像以上だったことに衝撃を受けました。
「フン。ここまでだな! もらったぁ!」
「くっ!」
僕は急ぎドラウプニルを起動させます。
「An armor changes Frey」の機械音が鳴り響きます。
僕の体がフレアスカート型のドレスアーマーに覆われます。頭には王を示す黄金のティアラが装着されます。
「Completion! The vala・yellow」
機械音と共に僕は黄色を基調とした神の指導者に変身しました。
くぅ! 結構エネルギー持ってかれます。
開幕ドラゴンブレスでエネルギーは少ないですが、今ここで倒れるよりはいいでしょう。
僕は「歌い」ます。
「願い」をこめて。
白井さんが僕の「歌」で吹き飛ばされます。
そしてダンジョン入り口まで転がっていきました。
まさに「振り出しへもどる」です。
これで時間が稼げます。
「フン、やるな! だが同じことだ。」
白井さんが乗騎白澤に騎乗して、再び突撃の構えをとります。
「白井さん、その言葉、そのままお返しします。何度でも突撃してもすべて振り出しに戻りますよ。」
僕も決意をこめて白井さんん伝えます。
「フン、ただの学者の卵かと思いきや言うようになったな。」
「ありがとうございます。いろいろ経験積ませてもらいましたから。」
僕も覚悟を決める。
何度でも振り出しに戻しますよ。
その僕の執念が実を結んだか、戦況に変化が現れました。
『そろそろ時間です。』
白井さんの乗騎白澤が焦った声をあげます。
「・・・・・・チッ。テメェの粘り勝ちか。」
その声と同時に白井さんの変身が解除されました。
白澤も消えます。
やっとこの時がきました。
白井さんたちはこの帝都に来る前のダンジョンでゴーレム達の砲撃の嵐を受けています。
つまりかなり前に変身しています。
そしてドラウプニルの変身に制限時間があるのは赤石クンが実証済みです。
このための時間稼ぎでした。
さすがの白井さんも生身ではどうしようもないでしょう。
「白井さんの負けです。投降してください。本当は僕たちに戦う理由はないはずです。」
僕は白井さんの目をまっすぐ見て言います。
白井さんが帝国側に行ったのは帝都でのタイタンのクーデターの時です。
あの時、白井さんと伊藤女史は政府の使者の一人として帝都にいました。
そしてクーデターに巻き込まれ伊藤女史を逃がすために奔走したと聞いています。
本人は、強くなるためとうそぶいていますが、本当にそれが目的の利己的な人なら伊藤女史を逃がすために動くはずがないのです。
その時の成り行きで仕方なく帝国に与しているなら、今が抜け出す好機です。
・・・
・・・
・・・
白井さんが長考しています。
確かに政府関係者として同行していた時はもっのすごく無口な方でしたが。
無口に戻っちゃったのでしょうか?
「無理だな。」
深いため息とともに白井さんは独り言ともとれる小さな声で、それでいて明瞭な声で拒絶を伝えました。
「なぜですか? 帝国に残る理由はありません。」
「フン。それがあるのさ。」
「え?それは・・・」
そこで僕は質問を途中でやめます。。
敵の援軍が来たからです。
その援軍はブルーフェイスに従う冒険者2名でした。
インパクトのある格好しているから覚えています。
だって、すごいですよ。
サンタクロースと昭和風泥棒の格好で戦場に出てるんですよ。
いやでも覚えます。
それにしてもブルーフェイスに付き従うこの二人がこちらにきたというのはどう考えればいいのでしょうか・
ブルーフェイスと相対しているのはアオイちゃんです。
アオイちゃんの身に何もなければいいのですが。
「フン。いいところにきたな。」
白井さんが二人の援軍をみてにやりと笑います。
「そのようだな。」
「好機っすー。」
二人の援軍は前に進み出て・・・白井さんを取り押さえました。
「え?」
僕が唖然としていると。
「お宝ゲットっすー。」
と昭和風泥棒が白井さんのドラウプニルを強奪したじゃありませんか!
「何をっ!」
白井さんも想定外だったのかサンタクロース風の男に取り押さえられながら珍しく焦った声をあげてます。
「ふふふ。やはり冒険者家業はお宝を狙ってこそだな。」
「そうっすーねー。」
「フン! 何が冒険者だ。コソドロだろうーが!」
喜ぶ冒険者二人に白井さんが押さえつけながらも抗議の声をあげます。
確かに二人の内の一人は昭和風泥棒の格好してます。
「状況を分かっているのか? 口の利き方に気をつけろよ。」
真っ赤なサンタクロース風の男が得物の二丁斧で白井さんを滅多打ちします。
「があああああっ。」
切れ味が悪いのか。腕が悪いのか。それとも嬲っているのか。
二丁斧で白井さんが真っ二つという最悪の事態にはなりませんでしたが、それでも抵抗できない状態で滅多打ちにされ血まみれです。
赤いサンタクロースの服が返り血でさらに赤くなりました。
「やめるのです!」
僕は慌てて二人を止めるために駆け寄ります。
「うおっとっ!」
「ドラウプニル所有者はヤバシッス!」
白井さんを嬲っていた二人は素早く僕から距離をとります。
「なんで、こんなことを。味方ではないのですか?」
僕は問います。
「味方・・・味方ねぇ。」
「ボランティアじゃないんで、仕事で冒険者やってるんで、いつまでもお宝無しでは付き合えないっス。」
えっ!
僕は予想外の言葉に戸惑います。
えっと、帝国は報酬も与えないで仕事だけを与えるブラックなのでしょうか?
もしかしたら白井さんもブラックな環境で帝国に仕えていたのでしょうか?
もしかしたら帝国がブラックなために、帝国を辞めるに辞めれなかったとか事情があったりするのでしょうか?
「という訳だ。もう一つのお宝もいただこう。」
「そうっすね。ドラウプニルというお宝に対抗するにはドラウプニルっす!えい! こうっすね!」
昭和風泥棒の格好した冒険者が白井さんから強奪したドラウプニルを腕に装着して操作し始めました。
「An armor changes Lóðurr」の機械音が鳴り響きます。
昭和風泥棒の格好した冒険者の体が白いのフルアーマーにに覆わます。
両手には幅広で身長の倍もあるバスタードソードを持ち
同時に出現した白澤という神獣にまたがります。
「Completion! The Knight ・WHITE」
機械音と共に白い騎兵に変身しました。
「さあ、あんたの持つドラウプニルもいただくっす!」
白い騎兵が中身を変えて再び出現です。そして当然のごとく突撃してきました。
---from アオイ side---
私がライトの方に向かう途中。
二人の戦士がむかってきた。
アホ兄の傍にいつもいた冒険者の二人
僧侶の格好をした筋肉達磨
メガネ、ビキニアーマーという何とも言い難い格好をした女戦士
この二人だ。
ライトの方から来たということは、あちらの戦場は終わったということだろうか?
そしてライトではなく二人がきたということはライトが敗北したということだろうか?
しかし、それであればエルフの剣士も来るはず。それがこないのは?
私は警戒レベルをあげる。
「あ! いたよ。いたよ。」
「おお、次の得物か。あいつのも奪うぞ。そのドラウプニルがあれば可能性があがる。」
「はい! つかうよ。つかうよ!」
そう言ってビキニアーマーの女戦士が右手の装備を操作する!
「! まさかドラウプニル!」
私は一瞬、山吹のドラウプニルが奪われたのかと焦る。
いろいろな想定が頭の中でぐるぐる回り。
顔も思考も青くなる。
『ハァ。注意してください。お姫様。山吹様のは黄色い魔石が使われてますわ。あのドラウプニルは白い魔石が使われています。山吹様のとは別物ですわ。それに方向が違いますわ。あれはエルフの剣士のものではないかしら?』
若干、呆れの入った忠言をしてきた。
むう、確かに私は山吹ではなくライトの方へ向かっている。
その方向から来たのに山吹のドラウプニルを持っているのはおかしい。
では、なぜエルフの剣士のドラウプニルをもっている?
残念ながらその考察をしている時間はなさそうだ。
ビキニアーマーの女戦士のドラウプニルが起動した。
「An armor changes Lóðurr」の機械音が鳴り響く。
ビキニアーマーの女戦士の体が白いマントに覆われる。
大型の白い肩当。頭部にはティアラを模した冑
ビキニアーマーは白銀のドレスアーマーに変化
体一つ覆う巨大な白銀のシールド
「Completion! The Lord ・WHITE」
機械音と共にビキニアーマーの女戦士は白銀のドレスアーマーに身を包んだ女王様のような戦士に変身した。
「これで、互角!互角!いきますよ。」
「おう、俺もいくぞ。あいつの青いドラウプニルもいただきだ。」
ビキニアーマーの女戦士改め、メガネのドレスアーマーの戦士と僧侶の格好をした筋肉達磨が襲う。
私は戸惑いながらも迎撃するためにドラウプニルを操作する。
「An armor changes Wodan」の機械音が鳴り響く。
私のからだが青い全身スーツにつつまれる。そしてマントのような青藍のパーカーとフレアスカート。鍔の広いとんがり帽子を被り。杖を持った。魔法使い然とした姿と変わる。
「Completion! The magicians・blue」
変身完了の音声がなる。
そして、いざ迎撃というところで異変が起こった。
『ふふふ。強欲だね。その姿勢は嫌いじゃないけど神の許可なく神のものに触ると祟るというを知らないのかな?』
この声が帝都内に響く。
この声は・・・
「帝王!」
姿は見えない。
しかし声だけは聞こえる
「カグヤ、気配感知できる? 私の感知では反応しない。」
『大丈夫です。お姫様。帝王様自身はここにはいないようですわ。』
その声に安心する。
このタイミングで帝王自身が後詰にこられたらまず負ける。
となると帝王は声だけをこの場にとどろかせているらしい。
『さあ、強欲なる者たちよ。神罰の時間だよ。』
姿を見せぬ帝王がそう言うと異変がおこった。
「いたい。いたい!いたい? いたい いたい。いたい!いたい? いたい。。。。。。うぐぉ。」
ビキニアーマー改めメガネのドレスアーマーの戦士が悲鳴をあげる。
同時に体が肥大化する。
急な巨大化についてこれないのか、体中がバックり裂け、血があふれる。口からも得体の知らないものが吐瀉される。
「パパイア!」
冒険者仲間の僧侶服を着た筋肉達磨が慌てて駆け寄るが、痛みで暴れる彼女に吹き飛ばされ、その後、踏みつぶされた。
「いたーっす。いたいっす。いたーっす。いたいっす。いたーっす。いたいっす。」
もう一方からも絶叫が聞こえる。
見ると、白井の装備する白銀の鎧を着た男が巨大化している。
目の前の冒険者の女性と同じことがおきているのか、鎧の隙間からは血があふれ、白銀の鎧を赤黒い血に染めている。
声は白井とは違う。
鎧の中身は白井ではない。
ということは目の前の冒険者2名と同じように白井のドラウプニルを盗み、帝王の言う神罰をうけているのか。
いずれにしろ。
「このまま帝都で暴れられるのは困る。 おいでフレキ!」
私は機械仕掛けの巨大狼を喚ぶ。
呼び出された機械仕掛けの巨大狼は地面から無数の鎖を呼び出す。
その鎖で血を流す白銀の鎧をきた巨大化した二人をまとめて拘束する。
「とどめ! スレイプ!」
私は機械仕掛けの騎馬を呼び出す。
騎馬は眩い光を纏い巨大な二人に突撃。
二人をまとめて倒した。
その時だ。聞くことのないと思っていた音が聞こえた。
「An armor changes Tor」の機械音が鳴り響く。
「Completion! The Fighter ・RED」
この音と同時に真紅の重装戦士が現れた。
この姿をしているのは一人しかいない。
「レッド?」
私は驚きでつぶやく。
レッド・・・赤石は前回の戦いでヴァン・アースというエネルギーを極限まで消耗する状態で、さらにエネルギーを消耗する骸骨顔を呼び出すという無茶を突破した無茶をして倒れたはずだ。
その男が目の前にいる。
「大丈夫?」
赤石は私の問いに無言で頷く。
「動ける?」
赤石は私の問いに無言で頷く。
「うむ。心配かけた。だが大丈夫だ。我も戦うぞ。」
赤石はそう言って、前に出る。
「あーっ。とその・・・。」
「?」
「無茶してきてもらったのにゴメン。敵はもう倒しちゃった。」
「・・・。なんと理不尽なことかっ!」
赤石は地面に突っ伏した。
【次回予告】
ブルーフェイスの雇っていた冒険者ブルータス達の裏切りに怒り心頭の宰相ユミル
ブルーフェイスは信頼回復のために打倒 レンジャーワンを謀るが
次週、episode42 怠惰
毎週 日曜日 9時30分 更新
☆よろしくお願いします
【お知らせ】
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