第9話 ワニって人間が倒せるんですか?
まぁ、準備回
冷静に、現実の空間でワニ討伐しろって課題を考えたら
「ん???」ってなったんで、思考実験的に
俺たちは慣熟訓練というか、
4層まで行って帰るだけという
移動ルート確立から始めていた。
もちろん、そんな事をしてるだけでは
マイナスばっかりなので、2層か3層で
日当2~5ゴールド程度の稼ぎはしてで…ある。
何と200年前からある古いダンジョンだというので
その歴史上最も深い所まで探索された9層まで
迷宮の地図が作られており、
浅い層なら地図を買えば迷うことはないのだ。
地下一層毎に地図10ゴールド(10万円)と
ギルドで買うと、中々、イイ値段はするが…
ただし、コピー機なんてあるハズないので
羊皮紙にペンとインクで
昔の地図を横に写本して作ってるので
ギルドの地図作成係の子の仕事を見てると
値段相応という気もする。
ともあれ、現状、冒険者ギルドで
上級冒険者が潜れる限界層が6層で
たまに、偵察がてらに7層の先っちょを
見てくる事もある程度だというので
実際には、8層以下が、昔作られた地図に対して
どれほどの変化をしてるのかは、分からないらしいが。
今でこそ冒険者ギルドの取りまとめをしている
冒険者ギルドマスターのボブではあるが
昔はバリバリの戦士の冒険者をやっていたらしく
その当時の強力な仲間と共に
8層の深部を調査をする寸前までは、
7層の制覇ができていたという。
ああ、やっぱ、この酒場のおっちゃん
すごく強かったんだなぁ…
風貌と体格そして佇まいから、
只者ではないと思っていたが…
ちょっと前までの冒険者のエースだったとは…
たまに白髪の中年とも初老とも見える
髭を生やした爺さんが訪ねてきて、
酒を飲みながら昔話をして笑いあっていたが、
おそらく彼が当時の仲間の1人なのだろう。
マスター曰く、最近の冒険者は逸材が出てこなくて
自分たちの夢だった
8層への到達と制覇など夢のまた夢で
6層あたりが限界の現状を嘆いていた…
俺も白髪の爺さん風の人と、
酒を飲みながらちょろっと話した事があり
その人が教えてくれた事に
伝説の9層に到達し、そこを制覇した冒険者は、
実に200年前の話で、
後にこの国を建国した王になった人だという。
爺さん曰く、子供の頃はその話に憧れて
自分も大きくなるために、ダンジョンに挑戦したが
8層の先っぽを拝むまでが限界で
200年前の伝説、
9層の制覇など全く手が届かなかったという。
はー、スゲー話だ。
ダンジョンの深くに潜れたら、
王様になれたりするような世界か。
伝説があって、それに憧れて挑戦する者も
多く出てくるとな…
歴史まで積み重なってるとか…
何気に生活の糧にしてるこのダンジョン
スゲー所だったんだな…
しかし、4層で、
強いワニが出てくるようなダンジョンだもんな。
それはそうかもしれない…。
5層、6層なんか、どんな化け物が出てくるのか
聞きたくもない。
4層から下は、
危険レベルの桁が上がるとは聞いていたが
本当にそう。
まぁ初心者は、地下2層のゴブリンの集団にも
袋叩きにされるんですけど…。
ともあれ、その気さくな爺さんの話では
現状の深い層に行けずに、その資材が手に入らない事は、
この街では大きな問題になっていて
昔は自分たちが持って帰れてた7層の怪物の資材が
現在は入手が極めて困難になっているので
街の経済事情にも多いに影響しているらしい。
いや、4層のサラマンダーの素材ですら
入手不足になっているんだから、
5層以下はさもありなんか。
ボブが、新人にしては異常な成長を見せている俺に
将来的に何を期待してるのか、
これで分かってしまう。
四層に行く依頼を俺に振ったのも
成長性を見越しての事なのだろうか…
いや、事情は分からんでもないけど
俺にはフィアという大事な嫁がいるんで
死にかけるような所には、
行きたくないんですが?
と、既に危険が満載の4層の怪物である
サラマンダー討伐に出ている俺に
自虐的な笑いを送ってみる。
そんなこんなで、2~3日は慣熟訓練で
4層に行く最短ルートの構築だった。
効果時間が12時間しかない万象強化の能力である。
2~3層までは余裕で日帰りというか
リミットの12時間内で行って帰って来れたので
もうこれ以上、効果時間を延ばしても仕方無いか
と倍率を上げるのに切り替えてたが
こんな所で、時間の伸張をサボったツケが
回ってくるとは…
能力効果時間の制約上
ダンジョンでキャンプして1~2日かけて討伐する、
なんて悠長な事はできない。
キャンプ中に能力効果が切れて、敵に遭遇したら
弱体化している俺達ではひとたまりもないのだ。
だから時間と能力が上手く噛み合う
ダンジョン踏破の効率化が必要だった。
いや、これが凄い事に先人が構築してくれた、
『休憩所』なる、キャンプ用の領域。
ダンジョンの一角に、
怪物を寄せないようにする魔法の結界石を配置して、
その領域だけ怪物との戦闘が起きにくい様にして
そこでキャンプをするというのだ。
今回の様に、4層の何処にいるか分からん
獲物を探して狩らないといけない様な場合は
キャンプ地を利用して現地探索するとか、
長時間滞在が強いられる。
ゆえに、そのポイントがより安全になるように
魔法のアイテムで安全性を強化してるわけで
深い階層では、そこを拠点に活動したり
野営などの休憩をしたりするわけだ。
俺たちの様な特殊な事情の者には
そのキャンプ地で夜を過ごすというのは
それでも危険だが、しかし利用の仕方はある。
つまり、最短のキャンプポイントから
キャンプポイントまで高速に移動し
4層までの道のりを、日帰りでも行ける程に
最適化したルートを作る、という事に使えるのだ。
その成果もあってか、
今までダラっと移動していた、
2層から3層の区画は
地図とキャンプ地を使った最適化で
非常に高速なショートカットが出来てしまい…
敵との戦闘を最初から回避すれば4層までは、
2~3時間程度で行けるルートができたのだ。
いや、時計が無いんで、
たいまつの燃える量で時間を計っているので、
厳密な時間経過はよく分からないのだが…
ともかく、これはいい。
4層に行くだけではなく、
3層へのアクセスも早くなったので、
3層での狩りも主に出来そうだ。
いや、フィアが
「大蜘蛛だけは、イヤです!」
と涙目になるんで、3層をメインの狩りにするのは
ちょっと考えてしまうが…
大蜘蛛から取れる、大蜘蛛の糸って資材
結構な値段で売れるんだけどナー。
そんなわけで、ルート確立のおかげで
わりと4層も日帰りできる射程に収めた。
4層まで下り、最寄りのキャンプ地を確認し、
荷車など
(このダンジョン、迷宮というわりには
道幅が縦横ともに広く階層もスロープで下りるので
荷車を引いて移動でき、戦利品を入れる事ができる)
重量のかさばるモノをそこに置いて
4層の行動拠点として
それから、サラマンダーなる
強化されたワニの所在を探索し始める。
怪物たちには、
自分が住むテリトリーなる範囲があって
異種が混合する事は、ほとんどないか
むしろ、互いに境界の領域で
争っている所に出くわす事が多い。
なので相手の所在は
最低限度はどこら辺にいるか領域で分かり
また4層の怪物と言えど、歴史が深まれば
『どこら辺にいる』という情報も
地図に書き加えられるので
その情報に照らし合わせて、
そっちの方面に行ってみると…
うん…いた…
鱗が赤く熱っぽいワニが…
うーん…
遠視と暗視の両方が強化されているので
ランタンの火を消して、集中して遠くを見る。
普通の視野距離の5倍くらいの距離で
(どうも、この前の能力強化の選択で
集中3倍程度が、集中5倍程度に伸びたらしい。
体感なので、実際には4倍なのかもしれないが)
まぁ、おそらくは100mか200mは
距離がある所にそれらは居た。
ダンジョンでの距離を厳密に50mだ
100mだ200mだと測量するのは
何も測量器を持たない者には不可能で
気持ち100mくらいかなぁ?という
目視でのアバウトな測量でしかないが…
まぁ距離感としてはそんなだ。
ともかく、この距離なら簡単に逃げられるし、
キャンプ地も近いので
奴に結界石の力が通用するなら、
安全は確保できている。
そんな風に遠くから
赤熱して赤く自己発光しているサラマンダーを
観察しているが…
しかし…でかいな…。
いや、あの大きさなら、
俺の世界のワニと同じだが
いやしかし…
「あの…ご主人様…
あれを討伐するんですか?」
フィアも同じように暗視で観察して
頬を引きつらせている。
いやー、普通はそう思うだろう?
ワニだぜ、ワニ…
あんなの近づいて倒すとか想像できないじゃん。
「こっから先に近づいたら
命の保証ができないな…」
俺はそう言って頭を抱えた。
「絶対にあんなの、殺されますよっ!!」
フィアがそう言って涙目になる。
何という討伐対象か…。
フィアが言うように、あんなん無理。
俺の大盾で防げるか?って自分に問ったら
『イヤイヤ無理っすわw 規格が違いすぎるww
あんなの盾で防御しても、吹き飛ばされるだけwww』
って変な笑いマーク付けながら否定してくれる。
まぁ、そうやな…。
ワニだもん…。
無理無理。
近接戦を仕掛けて狩るとか無理。
少なくとも2人で近接戦とか無理。
ありえん。
いや、やっぱ毒っすわ、毒。
人類の英知の毒に頼るしかないっすわ。
俺は相手を見て、
そういう風に『英雄的暴力解決』
の選択肢を諦め『人類の小賢しい知恵』で
あの手合いに対応する事にした。
そして段々、獲物を仕留める為の
狩人の様な形相と思考になる。
群れほど多くは無いが
サラマンダーが拠点としている場所に
サラマンダーが3匹いる。
3匹。
ワニが3匹たむろって居る光景を考えてみろ。
それだけでもう、圧倒的な暴力感であり
死の危険を感じる光景だ。
そこに俺が最近接に対応する為に持ってる
護身用のショートソードで
「わ~~」って突撃してみろ?
まぁ、そんな事したら普通、死ぬ。
凄い英雄だって、そんな事やったら
死にそうな気がする。
いや、もう人間辞めてます、超人です
ってレベルの英雄なら一蹴もしようが、
人間の能力が2倍か5倍になった程度なら
やっぱり、3匹のワニに殺される。
なので、誘き寄せて
1匹だけに毒餌を与えて、毒殺。
これしかないが、その為、サラマンダーが
分散して動く様子が観察できないといけない。
っていうか、普通に怖いんで
これ以上は近づけない…。
観察しかできないのが実情だ。
いや、普通の冒険者はどうやってんだ…
あんな化物…
俺達は万象強化の能力で、
こんな距離で観察できてるが
一般人は、望遠鏡でもなければ
相手の様子を見る事なんか出来ないだろう?
あ、だから望遠鏡か…
なるほど、あんなのに近づいたら確実に死ぬから、
1000ゴールド払っても
望遠鏡を使って、遠くから観察するのか…
それに1000万円の投資…
しかし、命を代償とするなら
トントンかもしれない道具購入か…
小さな家なら、購入できそうな金額で
望遠鏡1つ…
ああ…中世…
中世のテクノロジー…
ともかく、長い時間、相手の様子を観察し、
3匹でいる時と
3匹がバラバラになって
1匹だけで行動する時があるのが分かり
1匹だけで孤立して動いた時に
毒餌を置くというプランを練って
実行する事にした。
まぁ、そういう時は、
赤いワニが個体で餌を探しに、
ダンジョンの中にある水辺!
(地下なのに、泉みたいな所があって
何でか魚までいる…
どうなってんだ、ダンジョンの生態は!)
に行く時なので、毒餌を食べさせるのに
うってつけではある。
いや、ダンジョンにいるモンスターも
食事とかしてんだな…。
今までゲームでは気にした事もなかったが
生きてる以上、そうなるのか…
いやしかし…
ダンジョンがモンスターを生成するんだろ?
なのに生態はあるんだ…
ふっしぎ~~~!!
ともあれ、その様な作戦プランが構築できたら
後は毒の餌を作って、奴の前に設置だ。
討伐見込みが付くまでは、
購入を先送りにしてた毒液を、
地上に帰って商館で購入しようとする。
下手なりに、値引き交渉を頑張ったが
サラマンダーを討伐できるのなら
90ゴールドにしましょう、という
成功するかどうか微妙な線で
妥協案が出て来たので
100ゴールドで渋々買った。
討伐失敗して、その場から逃亡…
という事も十分もありえるのだから
討伐の確約はヤバイ。
そんな風に、値引き交渉に失敗して
定価で買った毒液の仕様を説明して貰うと、
内容物の価値が80ゴールドで
容器の価値が20ゴールドという。
内容物の毒が日光と空気と水分に弱く、
容器から外に出してしまうと
1~2日しか効果が保たないらしい。
なので、色の付いたガラス瓶に
コルクで栓をした、俺達の世界でもあった
化学者が使うガラス薬品の様な
ガラス容器に入っており、このガラス瓶が
20万円ほどの価値があるという。
いや、ガラス瓶なんて、こっちでは珍しいので
なるほど、と価値の高さに納得するが…。
ガラス容器にモノが入ってるのって
日光や空気や水に弱い内容物を
外界から護る為にしてんのね…
それって、
この時代からあった保存技術なんだ…。
へ~~~。
で、毒だが、作用として
それが体内に入ったら、
精密には血管の中に入ったら、
血が凝固していって、全身に血が回らなくなって
臓器不全か、血流不足で死ぬ作用があるという。
恐っ。
ナニソレ、恐っ。
蛇の毒って、そんな効果があったんか?
ともかく、そういう作用なので、
直接、血管に入れる為に、
剣で切るや弓矢で射るという方法なら
即効性が期待できて
毒餌に混ぜて食わせるなら
効果が出るのに少し時間がかかり
効果も直接血に入れるよりは
緩慢になってしまうという。
おっと、
食わせると容易にポイズン状態になるとか
どこぞのゲームの様にはいかないですか…。
また、人間に使うなら
凄まじい毒性効果なので
間違っても自分の血の中に
入れないように…と…
解毒薬も買っとく?
とか、50ゴールドで解毒薬を薦められ
悩んで悩んで悩んで悩んで…
結局…買った…。
フィアの体に、うっかり毒が入って
フィアが死んだらどうするんだ!?
という事で、毒と解毒薬を両方買って
150ゴールド…
あっち換算で、150万円…。
必要経費が高すぎる…。
これ、採算度外視の仕事じゃないか!?
サラマンダーは魚を餌にするので
(何で地下泉に餌の魚が生息してるのか…)
新鮮な魚の中に毒を仕込むとして
新鮮な魚を当日に
川魚を釣ってる漁民から買ったとして、
餌の十分量で、およそ5シルバーくらいか…
5000円相当の魚を買うとか
人間の飯に使うなら、豪華すぎる食費だが…
でも、サーモンに近いような魚が釣れて
それを丸々5匹くらい買うんだったら
一匹1000円で、まぁまぁな値段か?
あっちの世界でも、サーモン丸々一匹なんて
1000円で買えるかどうかだし、
結局、物価って、似か寄るのだろうか?
ともかく、討伐の段取りの手順と
準備はほぼ出来た。
いよいよ、サラマンダーを討伐する時か…
いやー、上手く行くかなぁ…
ぶっちゃけワニだもんなぁ
ワニ…。
いやー、最近、流行りの「スゲー人間に都合のイイ、ダンジョン存在感」を採用しましたが
(つーても、1層毎に、別世界の空間が広がってるとか、トンデモ系は避けましたが)
そんな40年前からD&DのDMやって、ダンジョン作ってきた人間としては
「何そのダンジョン設定…」
って、最初に読んだときは、唖然としましたね…
ゴブリンが住む洞窟とか、「まぁ、あっても可笑しくはないか?」
レベルのダンジョンはともかく、昔っから
「財宝が眠る、偉大な魔法使いが作った迷宮」
とか、それっぽいんだけど、
「何でそんな不思議なモン、魔導師が作るんや?」
という存在矛盾にダンジョン設計者はいつも悩んでいたんで
強引でも「なるほど~~」って
なる最近の設定は、嫌いではない…
っていうか、話を円滑にするには、そんな都合のイイものが
あってくれると助かるというか…
無いと、主人公達のお金の稼ぎ方が、普通の農業生産になって
話にならないんで…
そこら辺が、物語的妥協って奴ですねぇ…




