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第10話 あれ?嫁の方が何かに覚醒してません?

はいはい、戦闘回、戦闘回。

まぁゴブリン狩って1000ゴールド貯める

コツコツ蓄財話でも良かったけど、

大物も倒したいジャンって奴

決戦の日は来た。


いや、どーかなー?決戦になるかなー?

なるといいなー。


ともかく、準備だけは上々で

事前に弓矢などに塗布する毒液体を

樹脂に浸して粘着成分に加工し、

それを矢尻に付着させて、

更に矢尻を布で被ったりして毒矢専用の矢篭を作り、

これを俺とフィアの二人用に別々で作った。


作った矢の数は俺が10本、フィアが20本。


俺はもしもの時の盾専なので、

配分比率はこんなモンだろう。


矢で狙撃は思ったより

重要な攻撃という事が分かったので

毒餌を食わせた後に、

二人で積極的に矢を撃った方が良いという

戦術プランの修正になった。


ここら辺は仕方無い。

腐ってもワニ、

いや強くなってる赤いワニ。


毒餌食って、そのまま昇天とか

都合が良い展開にはなりそうにない。


そして仕方が無いが故に、

今までは俺が以前に買っていたロングボウを

ずっとフィアに渡していたので、

俺は今回の弓攻撃の為に

新しくロングボウを買わなければならなくなった…


はい、その代金30金貨、30万円…


『何だよ、ロングボウ30ゴールドかよ…安っ』


ってあっちの世界のゲーム感覚では笑っていたけど、

弓って、冷静に買うと結構な金額なんだよな…

数十万円単位の価値なんだ…。


まぁ色々な意味で剣ほどじゃないんだけど…


ともあれ、川釣りの漁民からサケの様な、

そこそこの大きさの魚を5銀貨で買って

その中に例の毒を染みこませ、毒餌を5匹作っては

毒の匂いを消すために、あえて腐敗臭を上塗りする。


マスターのボブや、猟師などの話を聞いていると

ワニのような爬虫類は腐敗した死体を狩猟するのに

鼻が効くそうなので、

ちょっと腐ってる臭いあたりが丁度良いという。


(ちなみにこの情報料に1金貨ばかり飛んだ)


作業を手伝ってくれたフィアは

腐敗臭に涙目にはなっていたが

農民時の肥料などの糞尿の匂いには慣れているそうで、

異臭耐性はあった…


ああ、美少女なのに、

そういう所でこの子、タフなんだよなぁ…

農民の娘はバイタリティが違うというか…


っていうか、俺の方が

腐敗臭がする液を塗ってて

吐きそうになって辛かったものだ。


そんな苦労をしながらも

奴を仕留める為の『特別武器』の準備は出来た。


ならば、いざ決戦の地へ!


俺達は決戦の為に余計な戦闘は徹底的に避け

荷車をゴロゴロさせながら、

迷宮をキャンプポイントから

キャンプポイントまで走破する。


毒に有効期限が存在する以上、

一度で決めないと、100金貨が丸損になるのだ!


雑魚を相手にしてる暇はねぇ!


っていうか、何だろうな…

このタイトな依頼は…

必要経費かかりすぎだろ…


俺達は、ため息を付きながら

4層のキャンプポイントまで無戦闘で到着し、

そこに荷車などの大荷物をひとまず置いた。


ここまで来るのに2~3時間はかかっている。

腹も減ったので、休憩所で焚き火を起こし、

その火の前で携帯食を二人で食べ、

心身共に回復させる。


おっしゃ、ここまで来るのに消耗した体力も

飯を食って回復した…

暢気に休憩もはさんだ。


なので、これからは…目星をつけてた、

サラマンダーの1体をハントの時間だ!


群れの中で1匹活動をしがちな奴を

予め観察しており、

そいつの移動経路に先んじて

地面にそっと毒魚を置く。


しかし、これではわざとらしくないか?

通路のど真ん中に餌があるんだぞ?


普通、警戒しないか?


と思わないでもない。


だが考えてみると、サラマンダーの生態って

普通のワニとも違うだろう?

どうなのか?


いやそもそも、ダンジョンで生まれるサラマンダは

天然のサラマンダと同じなのか?


いや、それを言うなら天然のサラマンダって何だよ…

どっかに居るのかな?


ボブ曰く、ダンジョンが生み出す怪物とは、

現実にいるモンスターに対して

魔力を蓄える魔石を核にして、

ダンジョン内の魔力で

それを複製して徘徊させているモノと

学者達に考察されているそうだが

という事は、

外の世界に本物がいて

奴等はそのコピーなのか…


等と、愚にもならない思考を巡らせていると、

サラマンダーが毒餌の前に歩いてきて…

じっと、毒餌を見て…


そのまま…餌を食べた…


あ…俺が思っている以上にアホだった…


ムシャムシャと餌を食べるサラマンダー。

いや、あれでは赤いだけのワニだな…

知能が高そうには見えない…。


そして完食し…


…ん? 何事もない?


あれ?


欠伸をしてるぞ、おい…


あれ?毒効いてない?

ええ!?100万円の毒なんですけどぉ!?

ちょっと…それは無いんじゃない?


俺達は遠くでじっと様子を伺いながら

せっかく食わせた毒が、

全然、相手に効果無い事に落胆する。


そんなぁぁぁぁぁぁ!!!!


俺は討伐計画の最初から

いきなり躓いた事に狼狽えた。


俺は狩人としては素人で

何にでも『即効性』があるのだと、

勘違いしてたのだ。


「いやいや、まだですよ、ご主人様」


泡立った俺を見て、びっくりしているフィアが

そう俺に手をやって静止しようとする。


その言葉を聞いて、少し落ち着きを取り戻し

フィアの手を振る仕草を目にした。


そんな、”もうちょっと様子を見ましょう”という

ジェスチャーに従って、暫く肩を落として

サラマンダーの様子を観察していたら…

突然、サラマンダーが激しくその場で動き出し

両手両足で地団駄を踏み出したのだ。


え?何?


どういう事?


サラマンダーが苦しそうに藻掻いては

一回転、己の体で寝返りを打って壁に体を叩きつけた。


まるで人間が食あたりにあって、悶えているように…


食あたり??


食あたり…


食あたり!!!


ああっ!毒が消化器系を通っていって

ようやく何らかの効果を出し始めたのか!!


食ったら即コロとか

殺虫剤を食らったゴッキーの様に

瞬殺するんじゃなくって

ジワジワと生命を削っていく様になるんか!!


それはそうか!!!


フィアがちょっと待てと言ったのは

こういう事か!


そして、今だ!


このままただ見ているだけでは

腹の中のモノを吐かれて、

効果が無くなってしまうかもしれない。


追撃だ。

追撃をして奴に回復のいとまを

与えない様にしないと!!


「フィア! 今こそ矢だ!!」


そう合図して、俺は毒矢の矢筒から毒矢を取り出す。


「あっ!はい!ご主人様っ!!」


フィアも頷いて、俺の行動に準じた。


包んであった布を革のグローブで不器用に開きながら

矢尻に毒ノリが塗ってある矢を出して、

自分のロングボウに矢をつがえる。


その姿を見て、フィアも同じ様に矢を準備し始めた。


「フィア、毒の矢尻を出す時は気をつけて!!

 俺達の体に入ったら、タダじゃ済まない!!」


目の前で苦痛に悶絶しているサラマンダーを見、

やっぱり相当の毒効果があるのを確認して

俺は彼女に毒の扱いの繊細を注意した。


「は、はいっ!分かってます、ご主人様!」


同じ様に皮のグローブ越しから包装している布をめくり

ゆっくりと、毒矢の矢尻を取り出すフィア。


「一緒に、二射、撃つぞ!

 奴に俺達の事が気付かれるからな!!」


そう確認して、ロングボウの弦を引っ張って

力の具合を確認する。


およそ50~70mの距離くらいか?

安全マージンをとった距離だ。


だからこの距離でロングボウを撃って

当てるのも難しいし、

矢の威力も奴の装甲を貫通できるか怪しい。


でも、怖いのだ!!


これ以上、

あんな化物に近づくとか、ありえん!!


「用意できました、ご主人様!!」


フィアもようやくロングボウに矢をつがえ、

構えを見せる。


実の所、射撃はずっとフィア担当だったのもあって

弓の命中精度は、今はフィアの方が上だ。


元々、遠距離攻撃のロングボウがあったら良いな的に

1人の頃に買ってみて、運用の難しさに

持ってるだけは持ってますという武器だったのだ。


実戦では1人で使用する場合

最初の奇襲で1匹しか攻撃できずに

敵の接近の際には武器持ち替えを要求され

『使える時間が短いな…』

と、1匹を狩った後は無用の長物になってしまう長弓。


今の、先制攻撃の奇襲で1~2匹をフィアが弓でやって

俺が大盾で守りながら、盾で相手の動きを抑えて

3匹を至近距離で射るという

戦闘スタイルになって、

ようやくロングボウが武器として光り出したのだ。


つまり、そんな生活を続けたので

弓で攻撃する事においては、

圧倒的に攻撃回数も練度もフィアの方が上になり

俺は

『まぁ、当てるぐらいは出来ます、

 フィアより遠くに飛ばせます』

程度の腕前で、

急所に当てるとかの芸当が出来ない。


威力の俺、技のフィア。


このロングボウ攻撃は、

そういうバランスになっていた。


ともかく二人で矢を構えて…


「今だ!撃てっ!!」


斉射の合図と共に互いに矢を放ち

万象強化によって限界まで力を与えられた矢は

サラマンダーに吸い込まれるように宙を走った。


二人とも、上手く命中…


俺の矢があの熱で赤くなっている鱗を貫き

フィアの矢が鱗と鱗の僅かな隙間に突き刺さる。


ここら辺がパワーだけは上の俺と

弓の練度が高くなったフィアとの差か…。


引ける弦の量が、男と女で違うんだから

こうなるのは仕方無いか…。


っていうか…え?

あんな小さな隙間に当てたの?

フィアさん…


「上手く行きました!」


フィアが思わず声を上げる。


おお?快心の一撃って奴か?

狙ってたけど、出来たのは運だったって奴か?


いや、そうじゃないと、

俺の立場が無いんですが!


なんて事を考えてる場合ではないのだが。


その矢の命中で、

毒の成分が直接サラマンダーの体内に入り

血流の異常に更に悶え出す怪物。


だがしかし…


奴に俺達の存在が認識され

猛烈な眼光がこちらに向けられた。


攻撃すれば、こうなる事は分かっていたが、

やっぱり、こんな展開になるか。


サラマンダーは苦しみながらも

その苦痛の元凶が俺達だと認識して

更なる攻撃を阻止するべく、

こちらに向かって突進して来た。


俺達を絶命させて、

恐ろしき毒の追撃を止めようという

クレバーな判断だろうか?


それともタダの条件反射か?


サラマンダーが逃げるか俺達を迎撃するかは、

五分五分だったが、奴は迎撃を選んだ様だ…


それはこちらの想定内なので、まぁいい。

逃げられるよりは、

このまま狩りを続けられるので

狙い通りだなのだ。


だから、これでいいのだが…


え!? アイツ、何!?


めっちゃ早いんですけど!?


赤いワニが、超高速でこちらに突進してきて

俺はその様に、恐怖した。


待て待て待て待て!!!


赤いワニが突進してくるっ!!


お前、それは、

どこぞのロボアニメの誰かみたいやないかっ!!


っていうか、冗談言ってる場合じゃねぇ!!


俺はフィアの体を持ち上げては、なるべく優しく投げ

(いや緊急時だったんで、流石に繊細な投げは無理だったが)

サラマンダーから距離を取らせては自分の大盾を構える。


出来るのか!?


あんな化物の突進を止めるなんて!?


でも出来ないと、フィアが危ないっ!!


俺は瞬発力を高めれば

瞬間5倍になる万象強化のパワーをアテに

サラマンダーの突進を止めようとした。


その時、不意に、今まで感じなかった

不思議な力の増幅を感じて、僅かに眉をひそめる。


だがそんな微細な変化を完全に知覚する前に

サラマンダーが俺の盾に突進してきた。


ええい、こんな掛け算が成り立つか分からんが

人間が自然に持つ火事場のクソ力が

通常筋力の5倍で

万象強化の瞬間強化が5倍なら

5×5=25で

25倍のパワーだっ!!!


なんか、

どっかの頭の悪い超人マンガのような掛け算だが

きっとそれだけのパワーが出てるに違いない!!


人間の持つ筋力の25倍のパワーで押し返したら

ワニの突撃くらいっ!!


そうやって、タイミングを合わせて

サラマンダーの突進と同時に、

シールドバッシュで押し返すと!!


あれ?なんか気のせいか?

一瞬、盾が白く光ったような…


ともかく、

俺は無我夢中でサラマンダーを止めるために

シールドバッシュをぶちかました。


挿絵(By みてみん)



その結果…


俺は吹き飛ばされた…。


いや、というか、俺の大盾がその激突で

ぶっ壊れて、その反動で弾き飛ばされたのだ。


俺は後方に吹き飛ばされて大地に叩きつけられ

何とか無意識の受け身で、頭などの重要部位が

叩きつけられる事だけは回避する。


痛い…

というほどは、痛くなかったが、

それでも痛みを感じるくらいは

地面に激突した衝撃は強かった。


反射的な動作であったが上手く受け身というか、

叩きつけられた時の衝撃を

回転ゴロゴロで吸収して転がり

回転転倒の見た目には派手な叩きつけに対して

そんなにダメージを貰わなかったのだが…


で、逆にサラマンダーの方は…


激突した瞬間だけがチラっと見えたが、

アイツも何でか、俺と同じくらいの勢いで

逆方向に吹き飛んでいた。


え?

凄く重量ある相手だったのに

あれ、派手に吹き飛ばなかった?


俺は後ろに転がったので、

その後が見えてないが…


僅かな痛みに顔をしかませて

俺はなんとか立ち上がって、その後を見ると

おや? 不思議な事に

サラマンダーが結構な距離、吹き飛んでいる。


およそ、10m?

いやそこまではないか?

5m?

もっとあるか?

分からん。


しかし、あんな巨体が、何であんな所まで?


俺と同じ様に後方に叩きつけられて

その場で衝撃の痛みに暴れているサラマンダー。


俺の30金貨も払って作って貰った

木の大盾の上に鉄板を張った

木の盾+鉄板加工カスタムの大盾は

たった一回の激突で大破してしまったが

その甲斐というべきか、

サラマンダーの足止めは成功して

よく分からんが、追加で

衝撃のダメージまで与えたみたいだった。


いや、こっちは盾を損壊させられたんで

金銭的にも、武装的にも、大ダメージなんだが…


苦しみ方が、激突衝撃だけではなく

毒が効いているからだろう

足をジタバタさせて内部的な苦痛によって

暴れている様に見えるサラマンダー。


なので奴は吹き飛ばされた地面でずっと暴れ続け、

次の攻撃に移れずにいた。


俺はその様に僅かな勝機を感じ、

腰のショートソードを抜く。


そして、まじない程度ではあるが

腰布から取り出した毒のペーストを刃に塗った。


そういう風に毒の塗布を終えると、

ショートソードを構えて

おもむろに俺は奴に向かって走り出した。


もう大盾が無くなって、

奴の突進を止める術が無いのだ。


だったら、刃による刺突か斬撃攻撃しかない。


大盾の重量物が無くなったので、

逆に敏捷性が上がった俺は高速に走って間を詰め、

飛び込むようにサラマンダーに

ショートソードを叩きつけた…


だが…


ボキン…


サラマンダーの鱗ごと切ってやろうとか

英雄的暴力を振るってみたモノの…


奴の熱を帯びてなおかつ硬いというトンデモ装甲に

俺のショートソードの刃が激突したその瞬間に

ショートソードは折れてしまったのだった…


音が文字で分かるかの様にボキンと…。


ええええええ!?


そんなぁぁぁぁぁっ!!!


また折れたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


何という格好を付けたシーンでの大失態っ!!


折れちゃったーーー!!!

俺のショートソードォォォォ!!!


これで3本目ぇぇぇぇぇ!!!!!!


俺の心の絶叫が、俺の心の中だけで木霊する。


1本10金貨(10万円)の量産品。


ゴブリンを切ってても刃こぼれしていって

段々切れ味が悪くなって、最後には刀身が折れ

ダメになっちゃう微妙な武器。


こうなっても、

『まぁそういう事もあるかな?』

という武器ではあるが…


でも、これ新品に近い奴だったのよぉぉ!!!

最近はショートソードで切るとかしてなかったんで

買ってから全然使わなかったから

新品同然だったのに

全力で切ったら、折れるのかよぉぉぉ!!!


俺は目の前で近接護身用の武器が

一瞬にして損壊した事に、呆然となった。


そんな俺を見逃さなかったのか

毒で苦しみながらも

赤いワニは爪で大振りで攻撃してくる。


俺はあわやという所で

左腕の鉄板で装甲された革籠手で

パリィ気味に爪を弾き、

爪の威力に合わせて後ろに飛んで回避行動する。


大きく飛び跳ねて

重力によって地面に叩きつけられる俺。


しかし、奴の爪を胴体に貰っていたら

致命傷になりかねなかったわけで

この程度の痛みや傷は、許容範囲だ。


っていうか、爪が籠手の鉄板を切り裂いて

ちょっと腕が切れて血が滲んでるじゃねーか!


かすり傷でこのダメージを受けるのか!

なんつうパワー!

…というか爪の鋭さか?


俺は慌てて腰に付けていたポーションを飲み

傷の回復に努める。


ポーションとは不思議なモノで

神官の回復の祈祷と同じく、

効果が始まったら、みるみるウチに傷が治っていく。


こんなのあっちの世界であったら

超速再生医療として、世界が沸騰しただろうに。


と、奴との一連のやり取りと

傷の回復を瞬時にしたモノの…


ヤベェェェェェェ!!!

大盾もショートソードも無くなった!!


後ろに後退しながら

丸腰に近くなった状態に狼狽える俺。


そんな時、後ろから声が


「私のご主人様は、やらせませんっ!!!」


そう声が響いたかと思えば、

後ろを振り返るとフィアが毒矢をつがえ

弓矢でサラマンダーを狙っていたのだった。


ナイス、俺の嫁!


俺がサラマンダーの突進を食い止めていた後で

体勢を立て直して、

毒矢の狙撃攻撃に移っていたのね!


という事は分かったのだが、その光景が妙だった。


フィアの構えている弓、

その矢の部分が、何故か白く光っていたのだ。


挿絵(By みてみん)


え?

あれ何?


何で、弓矢が白く光ってるのフィアさん?


だがフィアは夢中だったのか、

そんなおかしな事になってるのに気付きもせずに、

鬼の形相で狙いを定め、力を込めていた。


え?アレ何?


何で光ってるの?


俺が知らない万象強化の強化能力か何かか??


ええ!?

俺も知らん謎の能力を

フィアが先に開花させたって言う事!?


だが、そんな混乱を他所に、

フィアの光る矢は放たれ

それはサラマンダーの方向…

ではなく、明後日の方向に撃ち込まれた。


えええええ!?

そんだけやってファンブルなの!?


…と一瞬、血の気が引いた後に

更に凄まじい光景を見る事になる。


その放たれた光の矢は、直線ではなく

放物線を描くように空を飛び

ぐっと大きく曲がって、サラマンダーの目に

吸い込まれて行ったのだった。


フィアの光の矢の攻撃は

サラマンダーの片目を貫き奴の視界の半分を奪った。


「ギャヒィィィィ!!!」


ケダモノの何とも言えぬ苦悶の声が

ダンジョンに木霊する。


俺はその光景を見て、呆然とした。


ええええええ!!!!!

ナニソレ!?


矢が曲がったんですけどぉぉぉ!?


えええええええええ!?

何したの俺の嫁!?


俺は、あまりの事に、パニックになっても良かったが

もう長い事、危険なダンジョンで戦ってきたせいか

『それはそれ、これはこれ』という思考停止力が

無意識の中に刷り込まれていた。


それが戦闘経験の積み重ねという奴なのか。


今、明らかにおかしな事が起きたのだが

そんな事よりも、目の前のサラマンダーを仕留めなければ

自分達の安全確保も、冷静に考える事もできないと感じ、

まず戦闘を早く終わらせようという意識に誘われた。


俺は自分の中から湧き出す無意識の指示に従い

フィアの方に駆けていって言葉を発する。


「フィア! 槍を貸してくれ!!」


そう言って、得物が無くなって、

半ば戦闘不能な今の状況をフィアに伝える。


「はい! ここに!」


と彼女は背中に担いでいた、元々、俺の槍を差し出した。


それを走りながら受け取り、

Uターンして、今度はサラマンダーに向かって駆けていく。


毒のペーストを腰布から取り出し

また刃に塗っては、その槍をしっかり構えた。


そう、あんなに簡単に折れるショートソードなら

刃が折れても刃だけ付け替えれば再生する槍の方が

継戦能力が高いと思って、

安物のショートソードが折れた体験の後に

この槍に武器を変えたのだ。


ちょっと前までの俺の主兵装だ。


扱いなら、まだ俺の方がフィアより上のハズ。


そんな謎の自負心もあり、

また、フィアが示してくれた事

『硬い鱗を狙うぐらいなら

 目などの急所に当てて、戦闘能力を奪う』

という事にも気付けたので、

同じ様にもう片方を槍で狙う事にした。


不思議に軽快に走ることが出来、

まるで光のステップで

疾走しているような感覚に陥りながら

サラマンダーの残った視覚の方に躍り込む。


残った視界に獲物の俺が映り込んだからか

痛む体を押してでも、

俺に迎撃の爪を放ってくるサラマンダー


しかし、その時の俺の五感は研ぎ澄まされ

その動作がスローモーションの様に感じられ

僅かな間を空けただけで、優にその攻撃を交わす。


これも万象強化による五感強化のおかげだろうか?


実質的な筋力などの身体能力向上よりも

自分の五感が2倍も5倍も研ぎ澄まされる事の方が

よほど恐ろしい強化に思えた。


俺はそのまま、カウンター攻撃で槍を突き出す。


その時、俺の槍にもまた不思議な事が起こった。


俺の体の中から何かが槍の方に流れ込む様な感覚が生じ

それが白い光になって槍の刃に現れたのだった。


何だこれは!?


とは思ったが、そんな事を気にするより先に

目の前の脅威に攻撃する方が大事だった。


もう少し硬いだろうと予想していたのだが

何故か槍の刃は柔らかい物を突き刺す様に

簡単にサラマンダーの目を貫き、

その奥まで深く突き刺さったのであった。


おお、凄い! とは思ったが

逆にそれは困った事だった。


深く突き刺さりすぎたので、

槍が抜けなくなったのだ。


そんな状態で顔の近くで、まごまごしていると

視界を全て失ったハズだろうサラマンダーは

当てずっぽうで顔の辺りを爪で攻撃して来た。


俺はその攻撃に背筋を凍らせ

思い切りをよくして槍から手を離し

その場から飛び出す。


サラマンダーはその攻撃で、

己の顔にあったモノを吹き飛ばし

俺の突き刺した槍の柄まで破壊してしまった。


あああああああ!!!

また武器が無くなったぁぁぁ!!!


槍なんか、3金貨(3万円)だけどサァ!!

次から次へと、

俺の武器を壊してくれるなよワニがぁぁぁ!!!


俺はサラマンダーの両方の視界を奪った事で

少し余裕を得て、心の中でそう腐ってみる。


だが、んな事を毒づいてる場合ではない。


相手の視界を奪って、圧倒的な有利を得たが

死に際の生き物ほど怖いモノはないのだ。


奴は相手が見えずとも、臭いで相手を探し

盲滅法めくらめっぽうで暴れ回って、

生き残ろうとする。


「フィア、距離を取って弓で狙撃だ!

 毒をしこたま食らわせるぞ!!」


俺は反射的な戦闘の勘というのを生じさせて

この場で最も有効そうな戦闘方法を声で伝える。


「はい!分かりました、ご主人様!」


フィアもそれを秒で理解して、

その場から走り出し疾走射撃攻撃の姿勢になった。


ゴブリン相手に、

ちょくちょくとする動作であったが

中々、遠くから見ていると、様になっている…。


俺よりは、かなり上手いのではなかろうか?

という風に。


そして俺はそんなのに見とれているわけにも行かず

俺のロングボウを探しては、

それを見つけて取りに駆け出した。


そうダッシュをしようとした時、

ふっと自分の体に謎の重さを感じ

ガクッと体勢を崩しかけた。


何だこれは?


筋肉痛とか身体の限界とか、そんなんじゃない。

どちらかというと、気力が体を支えられない、

といった精神的なモノに感じる。


それは一瞬の事で、直ぐに元に戻ったが

俺は謎の違和感に襲われて眉をひそめる。


ともかくロングボウを手にとって

俺も戦闘に参加しようと、

フィアとサラマンダーの様子を見ると…


え!?


またフィアの弓の矢尻が白く光ってる!?


え!? 何アレ!?

マジで何なの!?


フィアは懸命な表情でその矢を放ち

またしても、その弓は、妙な曲がった軌道を見せて

今度はサラマンダーの鼻に深く突き刺さる。


はぁぁぁぁぁぁぁ!?

曲がるのもおかしいけど、

嗅覚を奪うとか、

俺の嫁、戦闘がクレバー過ぎんか!?


ええええええ!?


俺は混乱に混乱を重ねた。


だが、パニックはとにかく後だ。


赤いワニは危険が危ないのだから

圧倒的な有利になっても油断なんかできねぇ。


俺は頭を真っ白にしてロングボウを担ぎ、

毒の矢を取り出しては、ビクつきながら弓を構える。


ぱっと取って速射といきたいが、

血液に入ると、こっちも猛毒で死にかけるというのだ。


適当な扱いはできねぇ。


おっかなびっくりで矢をつがえて、弓を引く。


出来れば鼻に…と狙うが

狙って当てれるモノなら達人だろう。


フィアはもともと農民として短い弓矢で

獣を追っ払ってきた経験があるから

弓の扱いの基礎が俺よりできていて、

その勘どころが違うのだろう。


同じことをしようとしても無駄だ。


と自分に言い聞かせ、当てやすい鱗を狙い、

力いっぱいに弦を引いて弓矢を放つ。


一応、命中…


だが、浅い気がする。


命中する毎に、サラマンダーが苦しんでいるのだから

確実に累積ダメージは積み重なっているはずだ。


だが、元々ワニ。


体力お化けだ。


毒矢をありったけ命中させて、なんとか…か?


と、そんな風に見てたら、フィアが毒矢を撃つ。

今度は光らないが、相変わらず鱗との境界に矢を当てて

俺より体深くに毒を流し込んでいる。


さっきの光の矢は何だったんだ、

と思わないでもないが後だ後。


ともかく、視界を奪い、嗅覚を奪いと、

こちらに反撃する機動性を削り取っているのだから、

あとは中距離から毒矢でやりたい放題を続けるしかない。


俺に配分した10本の毒矢、フィアに渡した20本の毒矢

全部、キッチリ、サラマンダーにぶち込み、

奴の息の根を毒殺で止めようとする。


なんだか、こんなアウトレンジで攻撃し続け

その場で暴れまわって、息を弱らせている奴を見ていると

あっちの世界で、Gさんに殺虫剤をかけて、

それが断末魔で足をもがきのたうち回っている光景と

妙にダブる。


うぇ…嫌なモノ思い出した…。


生き物の…

いや、こいつダンジョンに作られてるから

生き物かどうか怪しいが

それでもまぁ疑似生き物として


死に抗って必死に藻掻く物を

それでもそこで絶命させる為に

追い込む行為の、何とも後味の悪い事か。


そういった相手には、出来るだけ苦しまずに

即死させてやるのが人情と言うモノだろうが…


しかし、いわゆる「トドメの一撃」を与える

近接武器が無い以上、弓チクし続けるしかないんだ…。


なんか、勝負が決してしまうと、なんというか

こう、無残な光景だなぁ…と思ってしまう。


とはいえ、これは仕事。

仕事なのだ…。


そして、こっちの体はともかく、

装備は大ダメージだ。


ちょっと泣きたいくらいは大ダメージだ。


奴を狩猟しなければ本当にワリが合わない。


俺達は心を鬼にして、

サラマンダーを毒矢で撃ち続け、

遂に絶命たらしめた。


そして、サラマンダーが動かなくなった所を確認し

二人でその場でへたり込む…


「お、終わったんだよな?」


「た、倒したんですよね?」


弓を立ててそれを杖にしながら、

尻もちをついて深い息を吸っては吐く俺たち。


なんていう戦いなんだ…

毒殺だと楽だと思ってた

俺がバカだった…。


そうしていると、サラマンダーの肉の部分が、

砂の様にサラサラと溶け出して地に還っていった。


ああ、ダンジョンモンスター特有の消え方だ…。


外にいる野生のモンスターは

普通に腐った死体になるそうだが

ダンジョンに出現するような化け物、

ダンジョンが魔力的な何かで作った複製体は

報酬になる素材以外は砂になって霧散する。


上のゴブリンの層でも、

ゴブリンの肉は消えていくから

まぁ4層でも同じか。


ただ、残る素材の量が違う。


2層とは比べモノにならんほど、

こいつは素材を残してくれる。


いや?ゴブリンも剣とかの装備を残してくれるんで、

素材の量的には、どっこいどっこいか?


なんにせよ、コイツは残す量が量なので、

荷車が無ければ運搬もままならん様だ。


だから、この残った素材を荷車を持ってきて

その中に入れて、さっさと帰らないといけないんだが…


うーむ、もうちょっと休まないと、

体が動きそうにない。


ああ、なんて討伐だよ。


近接武器でずっと殴り合ったわけじゃないが…

それでも大盾で受けたり、剣で切ったり、槍で突いたり

なかなか、近接戦闘もしたんだ。


そりゃ、疲れるだろ…


それに今更になって、

『ワニと超近接して命をかけたのだ』

という恐怖が沸き上がってきて

なんちゅー事をしたのかと、震えてくるし…


と、そんな時に…


「あの、ご主人様…また、光の文字が…」


フィアがそれを指摘した。


ああ、もしかして、アレな感じ?

難易度高い怪物を倒したんで、

経験値が一気に入ってレベルアップした感じ?


俺は宙を見る。


いつもの、何書いてるか分からん、光の文字の羅列。


まぁ、相関を考えると、そんな所なんだろうなぁ…


そりゃ、どう考えてもゴブリンなんかよりは

危険モンスターだったし

毒殺以外に勝てる手段、思いつかなかったしなぁ…


しかし、俺はこの上の1番目と2番目以外

操作した覚えがないんだが、

フィアの光の矢とこの万象強化のメニューには

何かの相関が?


前回は2番目の倍率の強化しか、してないんだが?

もしかして、倍率の強化は深めると更なる特殊効果が?


…と、さっきまでの不思議と、

俺の特殊能力との絡みを考えて悩む。


っていうか、この謎の3番目とか操作すると、

もっと何か変わるのか?


あまりに、あまりな事の連続で、

俺は心が参ってしまい

逆に冒険心が沸き上がった。


まぁ、効果時間12時間で丸く収まってるし

倍率も2倍~5倍(適当計測)で困ってないし…

そろそろ、3番目も行っちゃう? 行っちゃう?


とか心の冒険心がささやいたので、ここは一発


3番目で!


と、3番目の項を選んだが…


「……え? 何が変わった?」


光のメニューが消え

ただ呆然とそこに残される俺達。


そもそもにおいて、効果時間の延長も、倍率の強化も

宿に帰って、時間測定やら、持てる重量の増加やらで

測定してた事であって、

直ぐに直ぐ分かる事じゃなかったんだ…


それなのに、未知の3番目なんか選択して

それが何なのか、直ぐにわかるわけないじゃん…


「ええええええええええ!?

 この項目、ハズレェェェェェ!?」


俺は勢いで選択してしまって

何が変わったのかさっぱり分からん3番目に

ただ迷宮の下で、絶叫するしかないのだった…


まぁ、特に言うこともなく

雑魚を倒すより、中層の強いの倒してレベルアップっていう

ベタな展開ですわ

ダンジョンで生活するって、こんな感じかな?

っていうのの戦闘回。


いやでも、ワニを定期的に狩ってこい、それも中世の武装で

って言われたら、何その死んでこいミッション?

って、普通は思うよねぇ…


ああ、ゴールドって書くのが

なんか字面的にマヌケだなぁって感じたんで

今回から、「金貨」「銀貨」って

質量感が連想できそうな文字列に変えますわ

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― 新着の感想 ―
誘導ミサイル的な攻撃が出来るならワニを定期的に狩る事も出来なくは無い? 3番目の項も気になります。さあゴブリン狩って1000金貨で装備アップグレードして再挑戦だ
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